花に願いを

水乃谷 アゲハ

第41話

全員がその場に座り込むと、竜太郎が親指で自分の顔を指差した。


「んじゃまず言い出した俺から自己紹介をする。名前は夜空竜太郎。年齢は今年で十八だ。残念ながらお前等言うところの"武人"で、その中でも"ノーマルタイプ"に属する。特技は無いが、身体の丈夫さには自信がある」


「十八? あたしと同い年だったの?」


竜太郎の自己紹介に、意外そうに軽猫は自分を指差す。


「ん、お前が十八ならそうだろうよ。で、これも言うべきだと思うから言っておこう。花に願いを言うのなら」


一瞬コロノと軽猫の空気が冷たくなったと事情を知らない陽朝は感じた。勿論話している本人、竜太郎もそれは薄々感じていたが、月宵と戦っている最中にフィオーレから何かを二人が聞いている事を知っていたのですぐに察しがついた。


「俺は、妹の病気を治したい。ヒルイング病というらしい」


「ヒルイング病?」


当然その名前に覚えのある陽朝は肩を揺らして竜太郎の顔を見つめる。


「やっぱり陽朝はすぐに分かるのか。まぁ陰陽星ってところから流れた死ななくなる病気らしいしな。どうにも厄介なのがこの病気の治療法が分からない事だ。ま、治療法を研究しないんだからそうなるわな。陽朝も治療法は知らないだろ?」


「え、えっと、ごめんなさい……」


「いいや謝る必要は無い。まぁそんな訳で妹の病気を治してやりたいっていうのが俺の願いだ。そして調べたらその病気はどうにも遺伝するらしくてな。俺もその病気を患っていると見ていいだろう。それに、その病気を治したらいきなり老けて死ぬらしいよな」


「正しい知識です。私達陰陽星の陽族の研究員はほぼ間違いなくその病気にかかっていたと考えて良いでしょう。とはいえ、窒息死や全身壊死など、外傷に関わらないものでは死んでしまうそうです」


言い終えてから、陽朝はやってしまったという表情で竜太郎の顔を見た。しかし竜太郎の顔に怒り表情は無く、どこか悲しげな表情で首を横へ振った。


「いや、そんな申し訳ない顔をしなくても大丈夫だよ。調べていてそうなるんじゃないかって分かっていたのさ。むしろはっきり言われてすげぇ心が軽くなった」


「竜太郎、妹は置いてきたのか?」


「なんだコロノ、妹が見たいのか? 写真ならあるぞ?」


竜太郎はズボンのポケットから少し折れ曲がっている写真を取り出すと、全員に見える様真ん中へ置いた。赤い髪をまっすぐに伸ばし、黒い目を写真にまっすぐ向けている女の子がそこには写っていた。エプロンを付けてフライ返しを剣の様に構えているところを見ると料理中だったのだろう。


「か、可愛い……」


「おぉ、見る目あるじゃねぇか猫女。まぁこれが妹の夜空花火。死ねない事を悩みに持っていて、学校にも行かずにこうして家事をしているんだ。良い妹だろ?」


「妹想いなんですね……」


「まぁ、たった一人の家族だしな」


「一人の家族って事は、親はそのヒルイング病に感染しなかったのか?」


「年を取るほどかかりにくい病気だそうだ。ものの見事に二人共死んだよ。ちなみに十八なんて言ったが、そりゃ成長の止まった時の話で、生きている年数で言えば今年でちょうど七十年だ」


「おじいちゃんじゃん……」


「ま、そういうこった。このぐらいでどうだ? 話す内容は十分か?」


コロノと陽朝は縦に首を振った。軽猫だけが何かを言いたそうにコロノの顔を見つめている。写真をポケットにしまった竜太郎は首を傾げる。


「ん、どうした猫女」


「い、いやなんでもない!」


「……そうか?」


その後も何か言いたそうにしている軽猫だったが、諦めて肩を落とすと自分の顔を叩き、痛そうに頬を撫でる。見ている竜太郎にとってはただのコントになっていた。
コロノは視線の理由に気が付いているものの、敢えて目を閉じて無視をする。


「じゃあ次は僕が話すよ」


軽猫の追及から逃れるべく、今度はコロノが口を開く。

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