花に願いを

水乃谷 アゲハ

第39話

ガンタタは自分に気合を入れるべく膝を叩くと、ポケットから一本の小さな瓶を取り出した。中に入った紫の液体が微かに揺れている。


「これは、うちのギルドにいるサモナーが作り出したもんでな。一時的に飲んだものの体を強化する力を持っているんだ」


「へぇ、サモナーってやつの道具は他の奴でも使う事が出来るんだな。ま、それ一本で戦況が変わるとは思えないけどな」


「まぁ見てろ」


竜太郎の挑発に、ガンタタは笑って答えると手に持った瓶の蓋を開いて中の液体を飲み干した。瓶が手から落ち、近くの岩に当たって割れる。
ガンタタの体が徐々に大きくなり、背中から全身へ向かって毛が生え始める。


「……おいおい、強化っていうより変身しちまってるじゃねぇか」


「竜太郎、少し離れて」


「おう」


先程までとは違って危険さをビリビリと全身に感じ取っていた竜太郎は、コロノに言われるがまま後ろへ数歩引く。その間もガンタタの変化は進み、コロノと竜太郎が体勢を立て直した時には一匹の熊に変身していた。元が人間とは思えない獣的な咆哮を上げるガンタタに、竜太郎はもう一歩後ろへ下がった。


「元々熊みたいな見た目していた癖になんだよあの見た目は」


「こっちの声も、聞こえていないみたいだ」


「はぁ? ならあいつ俺達を倒しちまったら薬が切れるまであのままなのか」


「来たよ!」


しばらく周りを見回していたガンタタは、コロノと竜太郎の姿を見つけると四足歩行で突進してきた。竜太郎もコロノもぎりぎりで横へと避ける。


「『強堅なる金よ、巨大な手となり押しつぶせ』」


初めて竜太郎に出会った時と同じ詠唱を唱えたコロノの頭上に巨大な金色の魔法陣が現れ、中から巨大な地蔵の手が姿を見せる。コロノ達を視線で負うために振り返った顔面へと巨大な拳が叩きこまれる。


「グワォォォォォォ!」


ガンタタの体を遥か彼方へ飛ばす勢いで繰り出された拳を顔で受け止めたガンタタは、怒った様に咆哮して自分の拳を金の拳へぶつけた。鐘音に似た音がその場に鳴り響き、魔法で作られた拳が砕ける。


「くっ!」


「おいおい、あの熊どんだけ力が強いんだ、よ!」


今度は竜太郎へ振り返ったガンタタが、タックルをする様に肩を前にして突進するのを見て、竜太郎は横へと逃げる。
それを読んでいたのか、ガンタタは抱えた腕を離し、飛んでいる竜太郎目掛けて丸太の様な腕を振るった。辛うじてガードが間に合った竜太郎の体を数メートル殴り飛ばす。


「竜太郎!」


「ガァァァァ!」


「掌拳、守の型。後の後『流水』!」


振り回された腕の勢いを殺さず、コロノの顔面目掛けて振るわれたガンタタの腕を、辛うじて受け流したコロノは竜太郎の方へ近づくように距離を置いた。


「竜太郎、大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だ。それより肉だるまの野郎やるじゃねぇか」


「一番厄介なのはあの皮膚を覆う毛皮だよ。一本一本が金属並みの強度を持っている」


「まじかよ面倒だな。そんな熊聞いた事もねぇぞ」


「僕も見た事がない。多分こっち側にだけ生息する生物なんだと思うよ」


「ま、熊である事は変わりないわけだ。ならコロノ、少し頼みがある」


「……変な事を考えてそうな顔をしているね」


コロノはため息交じりにそう答えると、竜太郎の作戦を聞く為に地面へと下りた。そんな二人を見つけたガンタタが猛スピードで突進してくる。


「……本気?」


竜太郎の理解できない作戦を聞いたコロノは驚いた様に問い直すが、竜太郎が面白そうに笑っているのを見て諦めた様にもう一度大きなため息をついて飛び上がった。
竜太郎の数メートル先で飛びあがったガンタタに、竜太郎は特攻服を脱ぐと両手の拳を開いて受け止める様に構えた。自分の手より倍はあるであろうガンタタの手を受け止めると、押しつぶされない様に押し返しながら言った。


「なぁ肉だるま、お前相撲って知っているか?」


「『烈々たる炎よ、紅い輪を作り二人を囲え』」


コロノが詠唱をすると、竜太郎とガンタタの中心に魔法陣が現れ、中から細長い火が飛び出す。そのまま火は二人の脇を通り、コロノの指示通り二人を囲んだ。土俵ならぬ火俵が完成する。


「動物は火が苦手なんだってな。これでお前はこの円から出られないだろ? 勿論俺も出られない。どちらかがくたばるまでの勝負をしようぜ」

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