花に願いを
第40話
「やっぱり炎の中は暑いな」
「グルルル……」
「お前も暑そうだな。ま、そんな事は置いといて、いつまでこう力比べをするつもりだ? さっさと俺を倒してコロノを攻撃しないと、自慢の硬い毛皮が焦げるぜ?」
竜太郎が挑発をするが、獣となったガンタタに声は届かない。自分を囲う炎に混乱しているガンタタは、不意に腕から力を抜いた。勿論竜太郎がその隙を見逃さない訳はない。
「おらぁ!」
自分もガンタタから手を離すと、無防備にさらけ出されている腹目掛けて拳を突き出した。柔らかい物がつぶれる様な歪な音を立ててガンタタの腹が凹む。
「手ごたえありだ。やっぱり毛皮のない腹が弱点みたいだな」
「……」
「おっとよろけるのも気を付けろよ。なんせ後ろは火だ。ご自慢の毛が燃えちまう……って遅かったか」
「ガァ!!」
毛皮に火が移ったガンタタは、体を丸めて炎の輪から転がり出た。地面を転がり火を消すと、次の攻撃に備えて立ち上がる。すぐに自分のいた炎の円の中、竜太郎が笑っているのが分かった。しかしコロノの姿が見当たらない。
「上を見ろ肉だるま」
「ヴ? グアゥ!」
自分の真上を見上げたガンタタは、コロノとその手に握られた炎を纏う金の剣に目を丸くする。獣の直感で危険性を察し、急いでその場から離れようとするが既に遅かった。
「『正義の剣よ、その刀身に炎を宿して悪を切れ』」
コロノが掛け声と共に剣を逃げるガンタタの背中目掛けて投げた。後ろも振り返らず必死に逃げるガンタタだったが、目にも止まらぬ速度で飛んでくる剣からは逃げられず、脇腹に深々と剣が刺さる。
流石のガンタタも耐えられず、その場で崩れ落ちた。魔力の解かれた炎の輪が消えると、竜太郎は急いでガンタタの元へ走り寄った。
「おい肉だるま! ギルドまで運んでやるから背中に乗れ!」
「ダメだ竜太郎、薬の効力が切れる前に気絶してしまっている。声を掛けても目を覚ますとは思えないし、このまま運ぶしかなさそうだ。大丈夫、僕が魔法で運ぶよ」
「分かった。なら俺がこいつの背中に乗るよ。運んでいる時に暴れ出したら止める奴が必要だからな」
こうして、ガンタタとコロノは急いでガンタタをギルドへと運んだ。
***
「戦闘の途中で逃げ出しただぁ!?」
ガンタタを医療室に預けてロビーに戻った竜太郎は、同じ席に座る軽猫と陽朝の話を聞いて素っ頓狂な声を上げた。軽猫が小さく肩を揺らして視線を逸らす。
「は、はい。ずっと人形の陰に隠れていた軽猫さんは、フィオーレさんが人形を壊した途端出口に走ってしまいまして……」
「で、有耶無耶のままに終わったってか。……猫女、何か言い訳は?」
「え、えっと……その、人形が爆発するっていうのを最初に見せられていたから隠れていた人形も爆発するものかと思って……」
「い、一応爆発する魔力は解いていたんですけどお伝え出来ず……すみません」
軽猫の主張に今度は陽朝が申し訳なさそうに顔を伏せる。そんな二人の様子を見て、竜太郎は呆れてため息をつく事しか出来なかった。
「ま、戦闘経験のない軽猫ちゃんに戦えって言うのも酷だったかもしれんね」
「竜太郎、ガンタタさんはまだ気絶しているけど、薬の効果は切れて人間に戻ってくれたよ」
「お、なら良かった。それより聞けよコロノ」
「いや、廊下で既に竜太郎の声は聞こえていたし、フィオーレから話は聞いた。大丈夫、別に気にしていないよ」
「ほ、本当!?」
コロノが席に座ると、軽猫が嬉しそうに顔を上げた。しばらく軽猫の輝かせた瞳を見ていたコロノだが、目を閉じるとボロボロになった茶色のコートから一枚の紙を取り出した。三人が興味深そうに覗き込む。
見た事のない生物が沢山書かれているだけの紙に、三人は首を捻る。
「前から不思議には思っていたんだ。軽猫には魔力とは少し違う何かの能力があるって。僕も初めて見るけど、さっき聞いたらそれがファイパーという魔力らしい。軽猫は間違いなく『コープレーション』の才能がある」
「コープレーションって……何かを生み出すんだっけ?」
「違う。お前のそれはサモナーで、コープレーションってのは動物を自分の味方につけて戦う能力。だったよな?」
「竜太郎さんその通りです。驚きました。軽猫さんにそんな力があるなんて……」
「うん、こういう魔力に溢れたところじゃ気配がかき消されてしまう程小さいんだけど、軽猫と二人きりになると感じる事が出来るよ。そこで軽猫、その紙の中に興味のある生き物がいたら教えてほしい。まずは最低一匹仲間にしておかないと辛いと思うから」
「この中から?」
軽猫は難しそうな顔をして紙を拾い上げると、そこに描かれた生物を一匹一匹指で確かめる。しばらくして、彼女の指の動きが止まった。紙の真ん中程の絵をじっと見つめている。
「これ可愛いかも……」
全員に見える様に机の上に紙を乗せてその絵を指差すと、陽朝が小さく「え?」と声を漏らした。
「猫女、お前の趣味って悪そうだな……」
竜太郎は隠そうともせず、幻滅した顔をして軽猫を見つめ、コロノに至っては絶句していた。近くで見ていたフィオーレも目を丸くして軽猫を見つめる。
固まった空気の中、軽猫と彼女の指先にいる筆を持った蛙の絵だけが不思議そうな顔をしていた。
「グルルル……」
「お前も暑そうだな。ま、そんな事は置いといて、いつまでこう力比べをするつもりだ? さっさと俺を倒してコロノを攻撃しないと、自慢の硬い毛皮が焦げるぜ?」
竜太郎が挑発をするが、獣となったガンタタに声は届かない。自分を囲う炎に混乱しているガンタタは、不意に腕から力を抜いた。勿論竜太郎がその隙を見逃さない訳はない。
「おらぁ!」
自分もガンタタから手を離すと、無防備にさらけ出されている腹目掛けて拳を突き出した。柔らかい物がつぶれる様な歪な音を立ててガンタタの腹が凹む。
「手ごたえありだ。やっぱり毛皮のない腹が弱点みたいだな」
「……」
「おっとよろけるのも気を付けろよ。なんせ後ろは火だ。ご自慢の毛が燃えちまう……って遅かったか」
「ガァ!!」
毛皮に火が移ったガンタタは、体を丸めて炎の輪から転がり出た。地面を転がり火を消すと、次の攻撃に備えて立ち上がる。すぐに自分のいた炎の円の中、竜太郎が笑っているのが分かった。しかしコロノの姿が見当たらない。
「上を見ろ肉だるま」
「ヴ? グアゥ!」
自分の真上を見上げたガンタタは、コロノとその手に握られた炎を纏う金の剣に目を丸くする。獣の直感で危険性を察し、急いでその場から離れようとするが既に遅かった。
「『正義の剣よ、その刀身に炎を宿して悪を切れ』」
コロノが掛け声と共に剣を逃げるガンタタの背中目掛けて投げた。後ろも振り返らず必死に逃げるガンタタだったが、目にも止まらぬ速度で飛んでくる剣からは逃げられず、脇腹に深々と剣が刺さる。
流石のガンタタも耐えられず、その場で崩れ落ちた。魔力の解かれた炎の輪が消えると、竜太郎は急いでガンタタの元へ走り寄った。
「おい肉だるま! ギルドまで運んでやるから背中に乗れ!」
「ダメだ竜太郎、薬の効力が切れる前に気絶してしまっている。声を掛けても目を覚ますとは思えないし、このまま運ぶしかなさそうだ。大丈夫、僕が魔法で運ぶよ」
「分かった。なら俺がこいつの背中に乗るよ。運んでいる時に暴れ出したら止める奴が必要だからな」
こうして、ガンタタとコロノは急いでガンタタをギルドへと運んだ。
***
「戦闘の途中で逃げ出しただぁ!?」
ガンタタを医療室に預けてロビーに戻った竜太郎は、同じ席に座る軽猫と陽朝の話を聞いて素っ頓狂な声を上げた。軽猫が小さく肩を揺らして視線を逸らす。
「は、はい。ずっと人形の陰に隠れていた軽猫さんは、フィオーレさんが人形を壊した途端出口に走ってしまいまして……」
「で、有耶無耶のままに終わったってか。……猫女、何か言い訳は?」
「え、えっと……その、人形が爆発するっていうのを最初に見せられていたから隠れていた人形も爆発するものかと思って……」
「い、一応爆発する魔力は解いていたんですけどお伝え出来ず……すみません」
軽猫の主張に今度は陽朝が申し訳なさそうに顔を伏せる。そんな二人の様子を見て、竜太郎は呆れてため息をつく事しか出来なかった。
「ま、戦闘経験のない軽猫ちゃんに戦えって言うのも酷だったかもしれんね」
「竜太郎、ガンタタさんはまだ気絶しているけど、薬の効果は切れて人間に戻ってくれたよ」
「お、なら良かった。それより聞けよコロノ」
「いや、廊下で既に竜太郎の声は聞こえていたし、フィオーレから話は聞いた。大丈夫、別に気にしていないよ」
「ほ、本当!?」
コロノが席に座ると、軽猫が嬉しそうに顔を上げた。しばらく軽猫の輝かせた瞳を見ていたコロノだが、目を閉じるとボロボロになった茶色のコートから一枚の紙を取り出した。三人が興味深そうに覗き込む。
見た事のない生物が沢山書かれているだけの紙に、三人は首を捻る。
「前から不思議には思っていたんだ。軽猫には魔力とは少し違う何かの能力があるって。僕も初めて見るけど、さっき聞いたらそれがファイパーという魔力らしい。軽猫は間違いなく『コープレーション』の才能がある」
「コープレーションって……何かを生み出すんだっけ?」
「違う。お前のそれはサモナーで、コープレーションってのは動物を自分の味方につけて戦う能力。だったよな?」
「竜太郎さんその通りです。驚きました。軽猫さんにそんな力があるなんて……」
「うん、こういう魔力に溢れたところじゃ気配がかき消されてしまう程小さいんだけど、軽猫と二人きりになると感じる事が出来るよ。そこで軽猫、その紙の中に興味のある生き物がいたら教えてほしい。まずは最低一匹仲間にしておかないと辛いと思うから」
「この中から?」
軽猫は難しそうな顔をして紙を拾い上げると、そこに描かれた生物を一匹一匹指で確かめる。しばらくして、彼女の指の動きが止まった。紙の真ん中程の絵をじっと見つめている。
「これ可愛いかも……」
全員に見える様に机の上に紙を乗せてその絵を指差すと、陽朝が小さく「え?」と声を漏らした。
「猫女、お前の趣味って悪そうだな……」
竜太郎は隠そうともせず、幻滅した顔をして軽猫を見つめ、コロノに至っては絶句していた。近くで見ていたフィオーレも目を丸くして軽猫を見つめる。
固まった空気の中、軽猫と彼女の指先にいる筆を持った蛙の絵だけが不思議そうな顔をしていた。
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