花に願いを

水乃谷 アゲハ

第38話

「ファイターとエンハンスを人目で見分けるのは正直難しい。そういった能力を見極めるのに必要な物は一つだけや」


「ひ、一つだけ……」


「そ、勘や。戦いの場に立つ回数が増えるほど研ぎ澄まされ、当たりやすくなる。勝たなくてもええし、途中で逃げてもいい。ま、逃げ続ける事は良くないんやけどな」


「なるほどぉ」


「さて、分かったら軽猫ちゃんも降りといで。ここからは二人して来てええで。冒険に行くのなら連携は取れていた方がええやろ」


呆けた顔で頷くだけの軽猫と、攻めていいのか分からず油断なく構えることしか出来ない陽朝に、挑発する様に人差し指を曲げる。


「え、あ、あたしも?」


「というか、コロノ君に頼まれたんや。二人は実戦形式で一度能力を理解しておいて欲しいから、ギルド内に残っていたら手伝ってほしいって。うちだけじゃなくてガンタタも頼まれてた。ガンタタは向こうに行ったんちゃうかな?」


「が、ガンタタさんかぁ……。フィオーレさんで良かった……」


「正直やなぁ……。まぁいいや、降りといで」


しばらくの間嫌そうな顔をしていた軽猫だったが、二人からずっと見られている状況に深々とため息をつくと椅子の上に置いた扇子を手に取って観客席から飛び降りた。


「椅子に置いたままにして盗まれたらいけないので持ってきたんですがダメでしたか?」


「いや、いい判断や。戦っている途中でまた影に入れる子が来ても困るしね。さて、それじゃあ軽猫ちゃんもそうそう、陽朝ちゃんの側……ってちゃう、後ろに隠れちゃ意味ないやん」


「うぅ……」


「……寄生人形ドール・パラサイト。軽猫さん、いざとなったらこの子達二人が軽猫さんを助けてくれるので、お互い頑張りましょう?」


「はぁ……」


陽朝が体を横へと移動させ、地面から人形を呼ぶのを見た軽猫は諦めて肩を落とすとフィオーレに向けて構えながら陽朝の隣へと立った。


「やっとやる気になってくれたんね。じゃあ残りニ十分程度かな? 全力で行くで。勿論負けたら負けたほうが罰ゲームや。全力でかかっておいで」




***


「大体分かった。ゲームだと思っちまえば分かりやすいな」


「……命は一つだけどね」


「っておい、コロノ後ろ……なんだあの肉だるま。木のこん棒なんか担いで」


「やっと来た……」


「あん?」


コロノもようやく説明が終わって暇になりつつあった時、ようやく二人を見つけたガンタタが巨体を揺らして二人の元へと辿り着いた。


「わ、悪いなコロノ。ここら辺だっていうのは聞かされていたが遅くなっちまった」


「なんだ? お前らなんか予定でもあったのか?」


「竜太郎、今から二人でガンタタさんと戦うよ」


「はぁ?」


事情を知らない竜太郎は、未だに崖際に座り込んでゆっくりとしているが、コロノは空に飛びあがって臨戦態勢を取った。ガンタタも額の汗を拭いてこん棒を構え直す。


「おう竜太郎、俺を掃除や料理だけしている様な奴だと思っていると痛い目を見るぞ」


「いや、それはねぇよ。でもお前、俺とコロノの二人と戦って勝てるつもりなのか?」


「舐められたもんだな。こう見えてもお前より何倍も戦場に立ってきたこのガンタタ、お前等二人に挑まれても負ける気なんてしねぇよ」


「へぇ」


竜太郎も崖から腰を持ち上げ、ガンタタに一歩近づくと拳の骨を鳴らす。近くにある手ごろな石を真上に頰り投げて腕を伸ばす。コロノはサポートしやすい様に竜太郎の背後に回った。


「……お前らがこれから行く冒険に、戦いの合図があると思っているのか?」


「二対一なんだ。このぐらいのハンデはくれてやるべきだろ」


「ふっ」


既に下降を始めていた石が二人の視界を通過した時、ガンタタも竜太郎も動いた。お互いの腰当たり目掛けてこん棒と拳を振るう。
間に挟まれているのは投げられた石。衝撃に耐え切れずひびが入るのを感じた二人は、笑い合って距離を置いた。


「『烈々たる炎よ、燃え盛る竜となりて燃やし尽くせ』」


一息つく間もなくコロノが詠唱を唱えると、彼の前に紅い魔法陣が出現して中から炎の竜が現れる。竜を間一髪で避けたガンタタはコロノの元へと走った。
勿論竜太郎がそれを許すはずも無く、コロノの方へ向いた横顔へ拳を突きだした。鈍い音が響き、ガンタタの体が軽く横へと飛ぶ。


「痛てて、即興コンビにしてはいい連携じゃねぇか」


「当たり前だ肉だるま。お前こそ俺達を舐めてると痛い目を見るぞ」


「そうらしいな。久しぶりに全力で戦うとするか」

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