花に願いを

水乃谷 アゲハ

第36話

「って事はつまりあれか? 俺は武人ってやつで、コロノは魔人ってやつなのか?」


竜太郎は前に散歩をしていて見つけた、大きな滝を眺めながらコロノの話に耳を傾けていた。竜太郎が背中を預ける樹木の上で、コロノは頷くと更に口を開く。


「そう。竜太郎の様に魔力を持たない人が武人、持つ人が魔人と呼ばれるんだけど、竜太郎は典型的な武人だよ」


「へぇ……あ、じゃああの肉だるまは? あいつも俺と同じだよな?」


「あぁ、ガンタタも多分そうだね。魔人だったら魔力の器というものがあるはずだけど、彼にもそれの存在は感じないからね。もしかしたら、あの皮膚の傷をつけられた時に魔力が無くなってしまったのかもしれない」


「あれか、MPみたいなもんか。MPって傷つけられたら溜まらなくなるのか?」


竜太郎が顔を上げてコロノを振り返ると、コロノは木から降りて滝を指差した。滝は相変わらず派手な音を立て、多量の水を流している。


「例えばあの滝が、魔人の魔力とするよ? もしも僕があの滝に向かって、ここにある木々を投げる、もしくは魔力で水を押さえるとする。そうしたらどうなる?」


「そりゃあお前、滝の水が流れなくなるだろ?」


「そういう事。魔人の体には、どこかに魔力を生成する重要機関がある。そこを傷つけられてしまえば、魔力を生む事が出来ないから、武人となってしまうんだ」


「それはあれか? 傷を治せば治るとか、そんな単純なものじゃないのか?」


「いいところに目を付けたね竜太郎。勿論、傷が浅かった場合はなんとかなるかもしれないけれど、ガンタタの様に大きな傷が残ってしまった場合はもう治せないね」


「ふ~ん……。あの肉だるまも、大変だな」


魔人ではない竜太郎にとって、魔力の重要性とそれを失う事の危険性がいまいち理解できず、聞き流す様にしてそう答えた。それから、目を輝かせてコロノを振り返る。


「もしかしたら俺も特訓して魔人なれたりするのか?」


「なれないよ?」


竜太郎の期待を、コロノはバッサリと切り捨てた。竜太郎が残念そうに肩を落としているのを見て、コロノは少し笑った。それから慰める様に背中を叩くと竜太郎の隣へ腰を下ろした。


「でも、僕は魔人よりも武人の方が強くなると思っている。魔人は魔力が無くなれば、武人よりも弱くなる。普段魔力に頼りきっているから当然な事だけどね。ちなみに、ひとえに武人と言っても武人にも色々な種類があるんだ」


「……本当にゲームみてぇだな。ちなみにどんなもんあんの?」


「一つの武器を極めた『エキスパートタイプ』、武器とか体術とかを使いこなす『バランスタイプ』、魔力も武器も使わない『ノーマルタイプ』、自分の魔力は使わず、魔人が作った魔力の込められた武器を使いこなす『ハイブリットタイプ』がいる。勿論竜太郎はノーマルタイプだね」


「どうせ拳一筋だっ……ん、でも俺あの女の武器使いこなせたじゃねぇか。ハイブリットタイプって言えねぇ?」


月宵が使う、イチノセの事を言っているのだろうとすぐに理解したコロノは首を横へと振った。


「竜太郎、月宵も言っていた様にあの武器は持った人の魔力で軽くする武器なんだ。イチノセの中には確かに魔力はあるけど、あれを使いこなしているとはいえないよ」


「なんだつまらねぇ……」


そう言って、手元に落ちている小石を拾って滝へと投げる竜太郎を見て、コロノはまた小さく笑った。




***


「う~……分かった様な分かっていない様な……」


「あ、あはは、軽猫さんには難しく感じるのかもしれませんね」


一方で軽猫は、ギルド内に作られている図書館の中で陽朝から説明を聞き、頭を抱えていた。目の前には武人と魔人についての説明が書かれているページを開いた本が二冊並んでいる。


「でも軽猫さん、武人より魔人の方が多いんですよ。武人は四種類でしたが、魔人は倍の八種類あります」


「嘘でしょ……。あ、本当に八ページが魔人についてのページになってる……」


「はい。まずは『ウォーリアー』。自分の魔力で作り上げた武器で戦う人です。次に色々な魔法を使いこなす『ジーニアス』。魔力を手、若しくは足に込めて戦う『ファイター』。自分の身体能力を上げて戦う『エンハンス』。攻撃の魔力はありませんが傷を癒す事の出来る『ヒーラー』。姿を変えて戦う『トランスフォーム』。魔力で作り出した物や生物で戦う『サモナー』。ファイパーと呼ばれる普通とは少し違う魔力で、他の生物とコミュニケーションを取って戦う『コープレーション』がありま――軽猫さん!?」


本を一ページずつ指さしながら説明していた陽朝は、目の前で頭から煙を出す軽猫を見て一度説明を中断した。軽猫はと言えば、自分の本のページを何度もめくりなおし、首を捻っては魂の抜ける様なため息をつく。


「分からない……。ふぁいたー? と、えんはんす? の違いがよく分からない……」


「あ、えっと……」


「なんや、まだ出発はしていなかったんやな」


丁度ギルドのパトロールをしていたフィオーレは、普段は聞こえない話し声を聞いて図書館の扉を開けた。頭から煙を上げる軽猫に、困った様子であたふたしている陽朝、ファイターとエンハンスのページが開かれた本を見て状況を理解し、陽朝の隣へと座る。


「まぁ分かりやすく違いを上げるんだとすれば、魔力で手を覆う事でダメージを防ぐ事が出来る柔軟性があるけど、魔力を込めない箇所は武人と同じで脆いという危険性のあるのがファイター、身体能力を向上する事によって相手に反撃の隙を当てない様に戦うのが、ファイターの様に高威力の技を出せないのがエンハンスや」


「な、なるほど?」


「……分かって無いやろ? あれや、陽朝ちゃんと初めて行った場所にぴょんぴょん飛び回る子いたやろ? あれがエンハンス。今軽猫ちゃんの目の前にいるのがファイターや」


「え、フィオーレさんはファイターなんですか?」


「うん。ま、丁度いいわ。陽朝ちゃん、ちょっと付き合ってくれへん?」


フィオーレの嫌な笑いに、陽朝は嫌な予感が頭をよぎった。

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