花に願いを

水乃谷 アゲハ

第33話

「僕は、アルカリア出身の人蝶という種族だって教えたよね?」


五人が席に座ると、コロノは全員の顔を見て喋り出した。全員の様子を見て、何かを察したガンタタは飲み物を乗せたお盆を机に置いた後、その場にいるギルドメンバー全員を追い払って自分もキッチンへと姿を消した。


「僕は元々、異星人討伐隊という未来花を狙って星を襲いに来た人達を狩る側の立場にいたんだ」


「あぁ、だからお前にもって言われたのか」


「そんな睨まんでええやん。か弱い乙女を睨むなんて男のやる事ちゃうで?」


「けっ」


竜太郎は先程の事を未だに怒っているらしく、フィオーレを睨んでいるが、フィオーレはそっぽを向いて軽く受け流している。軽猫は二人の事を横目で心配しつつ、コロノの話へと耳を傾けていた。


「だから、大勢の人をこの手で殺しているし、もしかしたらその中には皆の知り合いもいたかもしれない。そういう奴なんだ。それを知っておいて欲しかった。勿論、これを聞いて幻滅したならここからいなくなってくれて構わない」


「……え、それだけ?」


「え……」


コロノが話し終えて、最初に口を開いたのは拍子抜けた顔をしている軽猫だった。勿論他のメンバーも呆れた様な顔をしてコロノを見ているのをみて、フィオーレが笑ってコロノの肩を叩いた。


「君は、本当に良い仲間を見つけた。そうやな、過去は過去、今は今か」


「……」


「そんな過去の話よりも、お前が自分の事を僕って言う方に驚いたわ」


「あ、それは思ってた。コロノって自分の事、僕って呼ぶんだね。でも、私的にはあまり人前で喋らない理由がただ単に話すのが苦手だからって方が驚いたよ」


「え、コロノさんが喋らない理由ってそこにあったんですか?」


「そうなの! 面白いでしょ?」


「コロノさんには悪いですがちょっと面白いです……」


自分の話を聞いて、なお盛り上がるメンバーを見て驚いた顔をしていたコロノだったが、口元に笑みを浮かべると、全員へ向けて頭を下げた。フィオーレ含む全員が驚いた顔でコロノを見ていたが、全員が何も言わず、笑顔で答えた。




「悪かったね、あんな試すような真似して」


その後、フィオーレが席を立ち上がり、コロノをギルド長室へ招く事で解散となった。ギルド長室へと入った後、椅子に座ったフィオーレはそう言って頭を下げた。


「別に」


コロノは不貞腐れた表情でそう答えると、フィオーレに向けて一枚の紙を投げつけた。フィオーレが満足そうに頷いてそれを受け取ると、今度はフィオーレから小さな紙をコロノへと投げる。


「やっぱコロノ君は仕事が早くて助かるわ。、確かに受け取ったで。お返しに渡したのがコロノ君が頼んでいた、明日受けなきゃいけない講義を免除出来る紙やな」


「助かる」


「でもええの? 陽朝ちゃんや月宵ちゃんならまだしも、軽猫ちゃんと竜太郎は全く戦闘の知識を持ってないんやで? それすなわち、丸裸で極寒の地に連れて行くようなものやん」


「大丈夫。これありがとう」


フィオーレの心配そうな顔に、コロノは自信満々に頷くと、受け取った紙をコートの中にしまう。それから、フィオーレに頭を下げてギルド長室をあとにした。
その背中をぼーっと見ていたフィオーレは、やがて呆れた様にため息をつくと一言、


「なんや、コロノ君もはよ行きたいのか……」


とだけ呟いてコロノから受け取った紙を眺め始めた。




「あ、戻って来た」


ロビーに戻ると、何か話していたメンバーの三人のうち、コロノの方向を向いている軽猫がすぐにその姿に気が付いて手を振った。竜太郎も陽朝もコロノを見る。


「大丈夫? フィオーレさんに怒られたりしなかった?」


軽猫の心配そうな言葉に首を横へと振ったコロノは、先程フィオーレから受け取った紙を三人の前へと置いた。紙の題名には大きく冒険申請書と書かれていて、下にメンバーの名前を書くところがある。すぐにその意味を理解したのは竜太郎だった。驚いた顔をコロノへと向ける。
陽朝がその紙を見て顔を綻ばせると、同じく嬉しそうな顔をしている軽猫と顔を見合わせる。


「講義なんて受けなくても、知識を持つ人が二人いる。ギルドで基礎を習うよりも実戦を踏まえて学んだほうが為になると思うから、明日は竜太郎を僕が、軽猫を陽朝が教えて欲しい」


「あ、わかりました!」


「えっと、じ、実戦? あ、あたし戦えないんだけど……」


「講義サボるとかお前も悪だなぁ? なぁコロノ?」


「じゃあ今日はもう解散にしよう。明日、ギルド前で教えるから朝六時には来てね」


竜太郎から肘で突かれて顔を赤くするコロノは、誤魔化す様にそう言うとコートを翻して自分の部屋へ向かって歩いていった。後ろ姿を見ていた面々がお互いに顔を合わせてから、軽猫がつられる様にして椅子から立ち上がり、姿を消した。




「んじゃ俺もどっか行こうかな」


「そ、そうですね、私もそろそろ……」


その場に居辛い雰囲気が流れて竜太郎が席を立ち上がった時、竜太郎の背中をガンタタが叩いた。何か言いたげな顔をして親指でギルドの奥を指差す。その方向は、見覚えのある階段を指差していた。


「あぁ、もうそんな時間なのか?」


「おう。お前の参戦を願う声が多いんでな、明日からここを出るって言うなら、今夜一戦やっていかねぇか?」


「またあのくそ甘ったれた剣士が出てきたら容赦しねぇけどいいか?」


「おう! マークのすかした鼻っ面ぶん殴ってやれ!」


すっかり仲良くなった二人が階段へと歩いていく後ろ姿を眺めていた陽朝は、話についていけずに首を傾げている。が、中にいるもう一人はそうもいかない。陽朝から体の主導権を奪うと、笑顔を浮かべて二人の後を追った。

「花に願いを」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く