花に願いを
第32話
「戦った頭が冷えてきてちょっと思った事があるんだけどよ……」
森を通り過ぎた時、一番後ろで歩いていた竜太郎が前の三人へと声を掛ける。三人は振り返って首を捻り、竜太郎の次の台詞を待った。
「アルカリアに咲く未来花ってのは、どんな願いも叶えるとは言うけどよ、それっていくつの願いをかなえてくれんのかな?」
「はい?」
呆れたような顔をしてそう返事をしたのは軽猫だった。竜太郎の言った事がまるで理解出来ていないのか、首を傾げて他の二人に視線を移す。
「あ――」
初めに竜太郎の意図を理解したのは陽朝だった。自分より遥かにアルカリアを知っているコロノの方向へ視線を移す。コロノは足を止め、何か考える様に空を見上げた。
「『未来花は夢を見ない、生き物に夢を与えるから。未来花は願えない、生き物に願われるから。未来花は平等な花だ、生き物は平等ではないから。未来花は死なない、生き物は死ぬのだから』だったかな」
「あぁ? なんだそりゃ、アルカリアの諺かなにかか?」
「いや、昔から自分の里で教えられた歌。それを直訳したものだけど、歌の通りであるなら未来花は願いを決まった数全員平等に叶えるはずだ。というより、竜太郎の心配しているのは後者だよね?」
「まぁそうだな。俺達がもし未来花にたどり着いたとしても、この中の誰か一人だけしか願いを叶えられないって事になったらめんどくせぇだろ?」
「た、確かに……」
「りゅ、竜太郎さんは優しいんですね」
竜太郎の言葉に陽朝も軽猫も感激して言葉を漏らすと、感心した眼差しを送る。そんな視線から逃げる様にコロノの隣へと並んだ竜太郎は、ギルドの方向を指さした。
コロノが目を細めて竜太郎を見上げると、竜太郎は片方の口角を上げて足元に落ちていた小石を手に取って真上へと蹴り飛ばす。
「ん、ちょっとお姉ちゃん!」
「……えぇ。なんで皆争うのが好きなの」
小石がまだ上に上がっている時、状況を理解した月宵が陽朝から無理やり体の行動権を奪うと、竜太郎達の横へと並ぶ。そんな三人の様子を見て意図を察した軽猫は、心底嫌そうな表情でため息交じりに呟くと、月宵の隣へと並ぶ。
小石は四人が並び終わるのと同時に空中で動きを止め、重力に従い落ち始める。徐々に加速し、柔らかい土の下へ落ちる音をたてて地面へ転がると同時に、四人は地面を蹴った。
***
「――!」
「ムッ!」
初めにギルドの門から姿を現したのは、月宵とコロノだった。二人共ほとんど息を切らしておらず、先に門を通ったのは自分だと言い争っている。その後、猫の様に体を丸めて門を通り抜けた軽猫が勢いを止める事に失敗し、ギルドの床に転がっていた空き瓶で盛大に転ぶ。ギルドの壁に激突した彼女を、入り口にいるギルドメンバーが奇異なものを見る視線を送る。
それから一分後、息を切らした竜太郎が門をくぐり、悔しそうに地面に拳を下ろす。
「一位コロノ君、二位月宵ちゃん、三位軽猫ちゃんで四位が竜太郎ってところやな」
ちょうどガンタタと話していたフィオーレは、壁に激突した軽猫を見て笑うと、コロノと月宵にそう言った。それからガンタタの方を振り返り、何か飲み物を持ってくる様に手で指示する。
「ちっ、ギルド長が言うのなら仕方ない、今回は妾の負けでいいわ」
「お疲れ様」
口ではそう言っているが、頬を膨らまして不満そうにしている月宵を見て、コロノは少し微笑むとそう声を掛けた。それに対して更に不満そうな顔をした月宵は、突然コロノの方へと倒れる。すぐに陽朝が意識を取り戻し、コロノへと何度も頭を下げた。
「竜太郎もお疲れ様」
「お、お前等なんて体力をしてんだよ。なんで速度が落ちずに走れるんだ……」
「負けたから竜太郎、ここで腕立てと腹筋百回ずつね」
「鬼かお前!?」
そう言いながらも、竜太郎はしぶしぶその場で腕立て伏せを始めるのを見て、フィオーレは楽しそうに笑うと冷静に竜太郎の腕立てを見ているコロノへと視線を移した。
「なんやかんや、君でも仲間はすぐにできるもんやな」
「……あぁ?」
言葉のニュアンスに違和感を感じた竜太郎は、腕立て伏せ止めて二人を見比べる。コロノの方はフィオーレの言葉にピクリと小さく肩を揺らすと、竜太郎から視線を外してフィオーレの方を見る。
静かに対峙する二人を見て、胸騒ぎを感じた陽朝がコロノのコートを掴む。
「あ、あの、駄目ですよ? その、うまく言えないけど、お、落ち着いてください」
「そうだぜコロノ、てめぇ今の安い挑発に乗る奴じゃねぇよな」
「……大丈夫。別に怒ってはいないんだ。言いたい事も分かっている」
コートを握ったまま微かに震えている陽朝の頭を軽く撫でると、コロノはゆっくりとフィオーレの横を過ぎ去り、背中を擦りながら現れた軽猫の所で足を止めると、自分の仲間たちへ振り返った。
「聞いてほしい。これから一緒に冒険するにあたって、この僕、コロノ=マクフェイルの過去を。早めに戻ってきたのはこれを伝えるためだ」
コロノの言葉に口を開いたまま固まっていた三人は、お互い顔を見合わせると立ち上がってコロノの元へと駆け寄った。まず竜太郎がコロノと肩を組む。
「聞かねぇ訳がねぇだろ?」
その後、背中から手を離した軽猫が微笑み、コロノの顔を見つめて頷いた。
「大丈夫! コロノがどんな過去を持っていても私達は今のコロノを受け入れるよ」
最後に、遠目で見つめていた陽朝がコロノの手を取って口を開く。
「わ、私で良ければいくらでも聞きます!」
三人の言葉にコロノは微笑むと、フィオーレに視線を向けて軽く頭を下げた。フィオーレはそれに答えるように懐から扇を取り出すと、広げて口元を隠す。それからギルドの空いている席を見つけて椅子を五つ並べるとその一つに腰かけた。そこに集まれという事らしい。
森を通り過ぎた時、一番後ろで歩いていた竜太郎が前の三人へと声を掛ける。三人は振り返って首を捻り、竜太郎の次の台詞を待った。
「アルカリアに咲く未来花ってのは、どんな願いも叶えるとは言うけどよ、それっていくつの願いをかなえてくれんのかな?」
「はい?」
呆れたような顔をしてそう返事をしたのは軽猫だった。竜太郎の言った事がまるで理解出来ていないのか、首を傾げて他の二人に視線を移す。
「あ――」
初めに竜太郎の意図を理解したのは陽朝だった。自分より遥かにアルカリアを知っているコロノの方向へ視線を移す。コロノは足を止め、何か考える様に空を見上げた。
「『未来花は夢を見ない、生き物に夢を与えるから。未来花は願えない、生き物に願われるから。未来花は平等な花だ、生き物は平等ではないから。未来花は死なない、生き物は死ぬのだから』だったかな」
「あぁ? なんだそりゃ、アルカリアの諺かなにかか?」
「いや、昔から自分の里で教えられた歌。それを直訳したものだけど、歌の通りであるなら未来花は願いを決まった数全員平等に叶えるはずだ。というより、竜太郎の心配しているのは後者だよね?」
「まぁそうだな。俺達がもし未来花にたどり着いたとしても、この中の誰か一人だけしか願いを叶えられないって事になったらめんどくせぇだろ?」
「た、確かに……」
「りゅ、竜太郎さんは優しいんですね」
竜太郎の言葉に陽朝も軽猫も感激して言葉を漏らすと、感心した眼差しを送る。そんな視線から逃げる様にコロノの隣へと並んだ竜太郎は、ギルドの方向を指さした。
コロノが目を細めて竜太郎を見上げると、竜太郎は片方の口角を上げて足元に落ちていた小石を手に取って真上へと蹴り飛ばす。
「ん、ちょっとお姉ちゃん!」
「……えぇ。なんで皆争うのが好きなの」
小石がまだ上に上がっている時、状況を理解した月宵が陽朝から無理やり体の行動権を奪うと、竜太郎達の横へと並ぶ。そんな三人の様子を見て意図を察した軽猫は、心底嫌そうな表情でため息交じりに呟くと、月宵の隣へと並ぶ。
小石は四人が並び終わるのと同時に空中で動きを止め、重力に従い落ち始める。徐々に加速し、柔らかい土の下へ落ちる音をたてて地面へ転がると同時に、四人は地面を蹴った。
***
「――!」
「ムッ!」
初めにギルドの門から姿を現したのは、月宵とコロノだった。二人共ほとんど息を切らしておらず、先に門を通ったのは自分だと言い争っている。その後、猫の様に体を丸めて門を通り抜けた軽猫が勢いを止める事に失敗し、ギルドの床に転がっていた空き瓶で盛大に転ぶ。ギルドの壁に激突した彼女を、入り口にいるギルドメンバーが奇異なものを見る視線を送る。
それから一分後、息を切らした竜太郎が門をくぐり、悔しそうに地面に拳を下ろす。
「一位コロノ君、二位月宵ちゃん、三位軽猫ちゃんで四位が竜太郎ってところやな」
ちょうどガンタタと話していたフィオーレは、壁に激突した軽猫を見て笑うと、コロノと月宵にそう言った。それからガンタタの方を振り返り、何か飲み物を持ってくる様に手で指示する。
「ちっ、ギルド長が言うのなら仕方ない、今回は妾の負けでいいわ」
「お疲れ様」
口ではそう言っているが、頬を膨らまして不満そうにしている月宵を見て、コロノは少し微笑むとそう声を掛けた。それに対して更に不満そうな顔をした月宵は、突然コロノの方へと倒れる。すぐに陽朝が意識を取り戻し、コロノへと何度も頭を下げた。
「竜太郎もお疲れ様」
「お、お前等なんて体力をしてんだよ。なんで速度が落ちずに走れるんだ……」
「負けたから竜太郎、ここで腕立てと腹筋百回ずつね」
「鬼かお前!?」
そう言いながらも、竜太郎はしぶしぶその場で腕立て伏せを始めるのを見て、フィオーレは楽しそうに笑うと冷静に竜太郎の腕立てを見ているコロノへと視線を移した。
「なんやかんや、君でも仲間はすぐにできるもんやな」
「……あぁ?」
言葉のニュアンスに違和感を感じた竜太郎は、腕立て伏せ止めて二人を見比べる。コロノの方はフィオーレの言葉にピクリと小さく肩を揺らすと、竜太郎から視線を外してフィオーレの方を見る。
静かに対峙する二人を見て、胸騒ぎを感じた陽朝がコロノのコートを掴む。
「あ、あの、駄目ですよ? その、うまく言えないけど、お、落ち着いてください」
「そうだぜコロノ、てめぇ今の安い挑発に乗る奴じゃねぇよな」
「……大丈夫。別に怒ってはいないんだ。言いたい事も分かっている」
コートを握ったまま微かに震えている陽朝の頭を軽く撫でると、コロノはゆっくりとフィオーレの横を過ぎ去り、背中を擦りながら現れた軽猫の所で足を止めると、自分の仲間たちへ振り返った。
「聞いてほしい。これから一緒に冒険するにあたって、この僕、コロノ=マクフェイルの過去を。早めに戻ってきたのはこれを伝えるためだ」
コロノの言葉に口を開いたまま固まっていた三人は、お互い顔を見合わせると立ち上がってコロノの元へと駆け寄った。まず竜太郎がコロノと肩を組む。
「聞かねぇ訳がねぇだろ?」
その後、背中から手を離した軽猫が微笑み、コロノの顔を見つめて頷いた。
「大丈夫! コロノがどんな過去を持っていても私達は今のコロノを受け入れるよ」
最後に、遠目で見つめていた陽朝がコロノの手を取って口を開く。
「わ、私で良ければいくらでも聞きます!」
三人の言葉にコロノは微笑むと、フィオーレに視線を向けて軽く頭を下げた。フィオーレはそれに答えるように懐から扇を取り出すと、広げて口元を隠す。それからギルドの空いている席を見つけて椅子を五つ並べるとその一つに腰かけた。そこに集まれという事らしい。
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