花に願いを
第31話
「竜太郎は、武器を使わないの?」
羽の様子を確認したコロノは、空へ浮き上がりながらそんな質問をした。竜太郎は腕を組み考えると、地球で取られた自分の武器を思い出して軽くて手を叩く。
「メリケンサックだな。それも俺専用の特注したメリケンサックで、指がほとんど隠れる様になっていたんだ。まぁ喧嘩する時に鉄パイプやら刀やらを振り回してくる馬鹿どもがいたからな。そいつらを倒す為だ」
「使わないの?」
「いや、使いてぇのは山々だけど、地球で取られちまってな。正しくは使えねぇってところだ」
「ふぅん……」
竜太郎の話に何か考える様に答えたコロノは、空中で飛び跳ねる様な動作を見せながら更に口を開いた。
「そろそろ再開する?」
「お、それじゃあ今度はこっちから行くぜ?」
言葉と共に腰を低くかがめた竜太郎は、全身に力を込めてコロノの方向へ跳び上がった。いつもの様に受けに回ると思っていたコロノは一瞬反応が遅れ、竜太郎の拳が逃げる羽をかすめる。
飛ぶ事の出来ない竜太郎は重力に従って地面に落ちるが、地面に着地すると同時にまたコロノのいる場所へ跳び上がった。目の慣れたコロノは楽々その拳を躱し、竜太郎の鉄の様に硬い腹を蹴り上げた。
「待ってたぜその蹴りを!」
腹筋に力を込めていた竜太郎は、コロノの足に素早く反応して掴みかかると、両手を伸ばしてコロノの足にぶら下がる。というよりはコロノの衣服にしがみついているという感じなのだが、足に掴みなおす事もせず、竜太郎はコロノを見上げて二ヤリと笑った。
「……」
コロノはその笑顔に危険を感じて竜太郎を引き剥がす様に足を振るが、一切離れることは無い。もう一本の足で蹴ろうにも角度的に厳しく、手を伸ばせば何をされるか分からない状況。結果コロノは足を振るしかなかった。
「ここだ!」
足にしがみついていた竜太郎は、コロノが足を前に振ったタイミングを見計らうと目を光らせてコロノの足から手を離した。竜太郎の体が宙へと浮き上がり、コロノの頭上を通過した後、竜太郎は素早くコロノの首に自分の右腕を巻き付けた。辛うじて狙いを理解したコロノが急いでその右腕に自分の右腕を挟むが、その腕ごと絞められた。
「さぁ落ちろコロノ! てめぇの負けだ! 純粋な腕力は俺の方が上なんだからな!」
「くっ!」
右腕に力を込めつつ、自分の右手を左肘で挟みこむようにした竜太郎は、絞める力をさらに強める。どれだけ力を込めても徐々に自分の首が閉まっていくのを自覚したコロノは、目を閉じると挟まれていない左腕、特に肘を中心にして魔力を伝えた。
「あ、握拳亜式、力枯撃!」
息苦しさを堪えて喉から声を絞り出したコロノは、自分の腕を曲げる。得体の知れない攻撃に対して、竜太郎は気にする事なく腕の力を強めた。自分の呼吸が止まり、いよいよ焦ったコロノは急いでその肘を竜太郎の脇腹へぶつける。
「痛くねぇ」
しかし、竜太郎の丈夫さと肘の当てにくい位置にあり、それに加えて呼吸困難で力の入らないコロノの肘は、全く竜太郎へのダメージにならなかった。しかし、肘を当てたコロノは左腕に力を籠め、竜太郎の右腕を引き離し、竜太郎の鳩尾へもう一度肘を入れた。
その後、コロノは竜太郎から距離を置いて咳込み、重力に従って落ちる彼を見つめながら首を押さえる。
地面に腰から落ちた竜太郎は、立ち上がろうとしても力の入らない自分の体に違和感を覚えてコロノを睨んだ。
「何をした? 全身に力が入らねぇ」
「ゴホッ、『力枯撃』は相手の力を失わせる能力。もう一つの『魔喰』とは違って、力を盗むことは出来ないし、数秒で元に戻る」
「お、本当だ本当だ。……あ?」
全身の力を戻った事を自覚した竜太郎は、膝に手をついて立ち上がろうとするが、視界が回ってもう一度地面に倒れる。もう一度コロノを見ようとして顔を上げた竜太郎は、自分の視界が回っている事に気が付いた。すぐに目を閉じて先ほどコロノがいた位置へと顔を向ける。
「お前、それだけじゃないな? 今度は何をしたよ……」
「……。今のは『握拳一式、縫打』。相手の耳の機能全てを奪う能力だ。握拳は三式を除いた全てが、相手から何かを奪う能力になっている。握拳亜式はそれを肘でやった時の名前。一式が耳、二式が魔力、三式が唯一の攻撃、四式が力、五式が声、零式が……いや、それより竜太郎、三分経過した。終わろう」
「お、もう三分かよ」
自分の頭を軽く叩いた竜太郎は、薄く目を見開いて眩暈が起きない事を確認すると立ち上がった。背後で浮いている、茶色いコートの姿に戻ったコロノに拳を突き出すと強く握った。
「勝負はお預けだな。また時間があるときにでもやろうぜ」
羽が徐々にしぼみ、顔に鎖のタトゥーが戻るのを確認したコロノは地面へ降りると竜太郎の拳に自分の拳を合わせた。それから疲れの溜まったため息を吐くと、張っていた結界を閉じる。
「あー!」
竜太郎の汚れた服装と、その横で心なしか満足しているように見えるコロノの顔を見た月宵は、大声を上げて二人へと近づいた。その後ろに軽猫もいる。
「おいコロノ! 次は妾との約束じゃろ!」
「……ごめん」
「竜太郎大丈夫だったの? ……その服を見たら答えは見えているけど」
「おい猫女、今一瞬でも俺が負けたと思ったなら改めとけよ」
コロノに謝られた月宵は、不満そうにコロノに食って掛かり、軽くあしらわれている状況に頬を膨らましてその場に座り込んだ。やがて眠った様に首を倒すと、すぐに陽朝が起き上がってコロノへと頭を下げた。軽猫が自分の衣服に付着した汚れを軽く叩いて落とそうとしているのを見た竜太郎は、自分も汚れた所を叩く。
「み、皆さん!」
全員に顔が見える場所に移動した陽朝は、海を背にして立つと頭を下げた。
「これから皆さんの仲間としてお手伝いさせていただく私陽朝と、おねぇちゃんの月宵です! よろしくお願いします!」
「そ、そんな丁寧にしないでもいいよ! 陽朝ちゃん顔上げよう?」
コロノと竜太郎は顔を見合わせ、軽猫が陽朝の背中を擦って優しく声を掛ける。嬉しそうに顔を上げた陽朝を見て、軽猫も嬉しそうに笑うと海を指さす。
「それにしても海綺麗だし、もし良ければ泳がない?」
「絶対いやだ」
竜太郎が眉根にしわを寄せて即答するのを見て、小さく笑ったコロノはギルドの方向へと戻るために歩き出した。
羽の様子を確認したコロノは、空へ浮き上がりながらそんな質問をした。竜太郎は腕を組み考えると、地球で取られた自分の武器を思い出して軽くて手を叩く。
「メリケンサックだな。それも俺専用の特注したメリケンサックで、指がほとんど隠れる様になっていたんだ。まぁ喧嘩する時に鉄パイプやら刀やらを振り回してくる馬鹿どもがいたからな。そいつらを倒す為だ」
「使わないの?」
「いや、使いてぇのは山々だけど、地球で取られちまってな。正しくは使えねぇってところだ」
「ふぅん……」
竜太郎の話に何か考える様に答えたコロノは、空中で飛び跳ねる様な動作を見せながら更に口を開いた。
「そろそろ再開する?」
「お、それじゃあ今度はこっちから行くぜ?」
言葉と共に腰を低くかがめた竜太郎は、全身に力を込めてコロノの方向へ跳び上がった。いつもの様に受けに回ると思っていたコロノは一瞬反応が遅れ、竜太郎の拳が逃げる羽をかすめる。
飛ぶ事の出来ない竜太郎は重力に従って地面に落ちるが、地面に着地すると同時にまたコロノのいる場所へ跳び上がった。目の慣れたコロノは楽々その拳を躱し、竜太郎の鉄の様に硬い腹を蹴り上げた。
「待ってたぜその蹴りを!」
腹筋に力を込めていた竜太郎は、コロノの足に素早く反応して掴みかかると、両手を伸ばしてコロノの足にぶら下がる。というよりはコロノの衣服にしがみついているという感じなのだが、足に掴みなおす事もせず、竜太郎はコロノを見上げて二ヤリと笑った。
「……」
コロノはその笑顔に危険を感じて竜太郎を引き剥がす様に足を振るが、一切離れることは無い。もう一本の足で蹴ろうにも角度的に厳しく、手を伸ばせば何をされるか分からない状況。結果コロノは足を振るしかなかった。
「ここだ!」
足にしがみついていた竜太郎は、コロノが足を前に振ったタイミングを見計らうと目を光らせてコロノの足から手を離した。竜太郎の体が宙へと浮き上がり、コロノの頭上を通過した後、竜太郎は素早くコロノの首に自分の右腕を巻き付けた。辛うじて狙いを理解したコロノが急いでその右腕に自分の右腕を挟むが、その腕ごと絞められた。
「さぁ落ちろコロノ! てめぇの負けだ! 純粋な腕力は俺の方が上なんだからな!」
「くっ!」
右腕に力を込めつつ、自分の右手を左肘で挟みこむようにした竜太郎は、絞める力をさらに強める。どれだけ力を込めても徐々に自分の首が閉まっていくのを自覚したコロノは、目を閉じると挟まれていない左腕、特に肘を中心にして魔力を伝えた。
「あ、握拳亜式、力枯撃!」
息苦しさを堪えて喉から声を絞り出したコロノは、自分の腕を曲げる。得体の知れない攻撃に対して、竜太郎は気にする事なく腕の力を強めた。自分の呼吸が止まり、いよいよ焦ったコロノは急いでその肘を竜太郎の脇腹へぶつける。
「痛くねぇ」
しかし、竜太郎の丈夫さと肘の当てにくい位置にあり、それに加えて呼吸困難で力の入らないコロノの肘は、全く竜太郎へのダメージにならなかった。しかし、肘を当てたコロノは左腕に力を籠め、竜太郎の右腕を引き離し、竜太郎の鳩尾へもう一度肘を入れた。
その後、コロノは竜太郎から距離を置いて咳込み、重力に従って落ちる彼を見つめながら首を押さえる。
地面に腰から落ちた竜太郎は、立ち上がろうとしても力の入らない自分の体に違和感を覚えてコロノを睨んだ。
「何をした? 全身に力が入らねぇ」
「ゴホッ、『力枯撃』は相手の力を失わせる能力。もう一つの『魔喰』とは違って、力を盗むことは出来ないし、数秒で元に戻る」
「お、本当だ本当だ。……あ?」
全身の力を戻った事を自覚した竜太郎は、膝に手をついて立ち上がろうとするが、視界が回ってもう一度地面に倒れる。もう一度コロノを見ようとして顔を上げた竜太郎は、自分の視界が回っている事に気が付いた。すぐに目を閉じて先ほどコロノがいた位置へと顔を向ける。
「お前、それだけじゃないな? 今度は何をしたよ……」
「……。今のは『握拳一式、縫打』。相手の耳の機能全てを奪う能力だ。握拳は三式を除いた全てが、相手から何かを奪う能力になっている。握拳亜式はそれを肘でやった時の名前。一式が耳、二式が魔力、三式が唯一の攻撃、四式が力、五式が声、零式が……いや、それより竜太郎、三分経過した。終わろう」
「お、もう三分かよ」
自分の頭を軽く叩いた竜太郎は、薄く目を見開いて眩暈が起きない事を確認すると立ち上がった。背後で浮いている、茶色いコートの姿に戻ったコロノに拳を突き出すと強く握った。
「勝負はお預けだな。また時間があるときにでもやろうぜ」
羽が徐々にしぼみ、顔に鎖のタトゥーが戻るのを確認したコロノは地面へ降りると竜太郎の拳に自分の拳を合わせた。それから疲れの溜まったため息を吐くと、張っていた結界を閉じる。
「あー!」
竜太郎の汚れた服装と、その横で心なしか満足しているように見えるコロノの顔を見た月宵は、大声を上げて二人へと近づいた。その後ろに軽猫もいる。
「おいコロノ! 次は妾との約束じゃろ!」
「……ごめん」
「竜太郎大丈夫だったの? ……その服を見たら答えは見えているけど」
「おい猫女、今一瞬でも俺が負けたと思ったなら改めとけよ」
コロノに謝られた月宵は、不満そうにコロノに食って掛かり、軽くあしらわれている状況に頬を膨らましてその場に座り込んだ。やがて眠った様に首を倒すと、すぐに陽朝が起き上がってコロノへと頭を下げた。軽猫が自分の衣服に付着した汚れを軽く叩いて落とそうとしているのを見た竜太郎は、自分も汚れた所を叩く。
「み、皆さん!」
全員に顔が見える場所に移動した陽朝は、海を背にして立つと頭を下げた。
「これから皆さんの仲間としてお手伝いさせていただく私陽朝と、おねぇちゃんの月宵です! よろしくお願いします!」
「そ、そんな丁寧にしないでもいいよ! 陽朝ちゃん顔上げよう?」
コロノと竜太郎は顔を見合わせ、軽猫が陽朝の背中を擦って優しく声を掛ける。嬉しそうに顔を上げた陽朝を見て、軽猫も嬉しそうに笑うと海を指さす。
「それにしても海綺麗だし、もし良ければ泳がない?」
「絶対いやだ」
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