花に願いを

水乃谷 アゲハ

第25話

「戯れるってのは……そんな殺気がいるものなのか?」


竜太郎は、相手がいつ動いても対応出来るように腰を上げると、怖がった顔で目の前の少女を見つめるメイユとテンを背後に移動させた。


「殺気? ふむ、これはすまんな。妾は強そうな敵を見ると闘争心が湧いてくる体質の様なのじゃ」


「……で? 戯れって何をするんだ?」


決して油断をせずに相手を見ていた竜太郎は、自分の質問に対して背筋が凍るような怪しく冷たい目線に一瞬の隙が出来た。刹那ともいえる短い隙は、数メートル離れている目の前の相手が容易に懐へ入れる時間だった。
自分の脇腹辺りを目掛けて見た事もない黒く長い得物を見て、竜太郎は思わず死を覚悟した。


「月宵、そこまで」


あと一瞬遅ければ自分の脇腹に当たっていたであろうその武器の位置に、竜太郎は呼吸をするのも忘れて見つめるしかなかった。後ろにいるメイユとテンは怯えて目を閉じ、震えた手で竜太郎の服を握っていた。
後ろにも引けなかった絶体絶命の状況を止めてくれた聞き覚えのある声の主を求め、武器から目を離して上を向く。


「おぉ、久しいのぅコロノ=マクフェイル! なんじゃ、こやつらはお主の仲間か?」


いつもの茶色いコートに身を包んだコロノが、安堵する様にため息をついて地面へとゆっくり下りてきた。


「久しぶり。ごめん、この人達は全員うちのギルドのメンバーなんだ」


「ふむ、それなら仕方がないのぅ。してコロノ=マクフェイル。二人共魔力十分体調万全じゃな? なら、約束は覚えておる……あ、ちょっとすまぬ」


途中で言葉を止めると、月宵は竜太郎達に背中を向けた。頭を片手で押さえて、


「い、いや! だ、だからそれはコロノと戦ってからでも……い、いや決してそんな訳ではない! わ、分かった! 分かったから!」


そんな風に一人で喋っている。月宵の事を知らない竜太郎やテン、メイユから見たら何をしているのか分からずに唖然とするしかない。
理由のわかるコロノだけが冷静に今の状況を見て、竜太郎やテン、メイユの手を取って皆を立たせた。
しばらく何か話していた月宵だが、残念そうに肩を落とすと体から力が抜けた様に地面に倒れた。


「陽朝?」


「いたた……そ、そうです。ちょっとお姉ちゃんだと不安なので私に変わりました。先ほどはすみませんでした」


様子を見ていたコロノは人格が入れ替わった事を瞬時に理解して陽朝の名前を呼ぶ。呼ばれた陽朝は、頭を押さえて立ち上がると竜太郎達へと頭を下げる。
竜太郎達は状況が読み込めず、生返事で返すとコロノと陽朝を見比べる。


「ちょっと今日はご相談があってコロノさん達を探していたんです」


「相談?」


陽朝の言葉をオウム返しに返したコロノは、テンとメイユに帰っても大丈夫だと小さく伝えた。二人は顔を見合わせると陽朝へと頭を下げてすぐに背中を向けて走っていった。


「えぇ、以前のギルド試練の事なのですが、やはりお姉ちゃんの勝手な暴走で相手を殺そうとしたのはバレてしまい、怒られました」


「だろうね」


「えぇ、それに敵の情報に誤りがあるのも気が付かないのかと言われて、強制的に脱退させられてしまったんです。お姉ちゃん、強い人と戦うって分かったら周りが見えなくなって単純になるから……」


流石は月宵だと言おうとしたコロノは、すんでのところで言葉を飲み込んで陽朝を見つめた。話に追い付けない竜太郎は、テンとメイユが残していったおにぎりを食べている。


「そ、それでその……もし良ければコロノさん達のいるギルド、テクスタの入団試験を受けさせてもらえないかと……」


「ん、多分大丈夫だと思う。このまま向こうの方向に歩いていけばテクスタに着くから、フィオーレに言って試験を受けられるか聞いてみるといいと思う」


「あ、ありがとうございます。入団試験が合格出来たら、是非コロノさん達と冒険したい……です」


頭を下げた陽朝は、照れたように顔を赤くすると、両手の指先を突きあいながらチラチラとコロノを見る。


「受かったら、フィオーレに訊いてみたらいい」


陽朝の対応に少し微笑んだコロノは、既におにぎりを食べ終わった竜太郎からバスケットを貰い、陽朝へと渡した。陽朝は微笑んでもう一度深く頭を下げると、テクスタに向かって歩き出した。


「で、ありゃ誰だ?」


たまに振り返って嬉しそうな顔で手を振る陽朝へと手を振り返し、しばらく背中を見送っていた竜太郎は、恐らく声が聞こえないであろう距離まで遠ざかった陽朝とコロノを見比べてそう質問した。


「入団試験で一緒になった陰陽星出身の陽朝と月宵。不思議だけど、あの体に二人の精神が入っているらしい」


「ありゃ二重人格とも違いそうだな。そうだ、それよりコロノはなんでこんな所にいるんだ? おかげで助かったけどな」


「ん……夜のうちにやりたかった事の半分が終わったから、一度ギルドに戻ってご飯でも食べようかと思っていたら、竜太郎の気配がしたから来てみただけ」


「はぁん、ちなみに飯は多分もうねぇぞ。あの肉だるまの作る料理は美味いからすぐに無くなる」


机にあった全ての料理の三割は腹に収めたであろう竜太郎がまじめな顔をしてそう言うと、コロノは心無しか残念そうな顔をして辺りを見回した。先ほどいた月宵の殺気からかはたまたコロノの魔力からか分からないが、平原にいた野生の生物はすべて姿を隠してしまっていた。


「今から行く当てはある? ただ闇雲に歩いているだけ?」


「まぁ、目印を決めてそこで曲がりながら歩いているだけだな。つーかコロノ、お前はよく迷わねぇ……って言いたいけど、そういえばここはお前の星だったな」


「まぁね。ちなみに竜太郎、このまま闇雲に歩くつもりなら、どこか案内しようか? そのついでで寄りたい所によるから」


「お、じゃあ頼むわリーダー」

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