花に願いを

水乃谷 アゲハ

第23話

次の日、ベッドで目覚めた竜太郎はまだ少し痛む頭を押さえながら布団から飛び降りた。


「あー……俺何してたっけ……?」


アルコールを入れすぎて意識がはっきりしない竜太郎は、とりあえず今いる部屋から出る事を優先した。しかし、その部屋に来た記憶も無い為にそこがギルドの中なのか分からない。


「……腹減った」


それだけ呟くと、あてもなく建物の中を歩き回り、美味しそうな料理の香りを嗅ぎ取った。頭を押さえながらもしっかりした足取りで香りの元へ辿り着くと、手元にあった椅子に座り込む。


「おう、体調どうだ?」


エプロンに身を包んだガンタタがそこに立っていて、忙しそうに料理を作っていた。物音に振り向き、竜太郎へ挨拶をするとまた忙しそうに料理を始める。


「あ? あぁ、まぁ悪くねぇが良くもねぇ」


「もうちょっと待ってろ。もう少しで料理が出来るから」


「すげぇなお前、いつもこのギルドにいる奴等の為に飯作ってんのか?」


「まぁな。慣れちまえば楽だぞ。味が多少不味くても許してくれるしな」


「ふぅん……」


ガンタタの作業する後ろ姿を見つめながら、竜太郎はその姿を自分と重ねた。


(そういや、花火もこうして俺の背中を見つめていたっけな……)


地球にいた頃、布団で寝たっきりである妹の為にずっと料理を作っていた自分を思い浮かべ、どこか懐かしい気持ちになった竜太郎の体は自然と動いていた。


「おう肉だるま。そっちにある塩と胡椒を取ってくれや」


「あん? なんだお前、そんな変な髪型して頭悪そうなのに料理出来るのか。ほらよ」


「おう。あとそっちのフライパンの中、火から離さねぇと焦げるぞ」


「おぉっとあぶねぇ。お前の右手にある鍋の火も切ってくれや。そろそろいいはずだからな」


そんな風に言い合いながら、ガンタタと竜太郎は残りの料理を五分で完成させた。作業途中に軽猫の気配を感じていた竜太郎だが、視線を向ける事も忘れてガンタタの手伝いに集中していた。


「おう、じゃあ皿に盛っていくから皿出してくれや」


「あ? あぁ、あそこにあるのか。ほれ」


「おいおい、なんで一枚ずつやってんだ。その皿木製だから割れねぇし、遠慮なく机に投げちまえ」


「注文が多いぞ肉だるま。ほら、これでいいかよ!」


竜太郎は、妹がいつも手を叩いて喜んでくれた様に皿を机に投げ並べた。一気に投げた皿は、一切机から落ちる事なく綺麗に並ぶ。


「よし来た、じゃああれだ、皆を呼んでくれ。扉の所にあるフライパンとおたまを叩きゃ大体目ぇ覚ますから」


「調理器具をそんなもったいない使い方するな馬鹿野郎。俺がお手本見せてやっからさっさと料理を並べとけや」


そう言って台所から出た竜太郎は、ギルドの入り口まで駆け足で向かうと、自分の肺一杯に空気を吸い込んだ。
そして自分へ武器を構えて向かってきた不良共を怯ませてきた雄たけびと同じ音量で腹から声を出す。


「朝だから起きろやぁ!!」


その声量のせいで、ギルド内は一瞬パニックになったが、ガンタタがその場を鎮めてようやく朝食になった。




「美味かった」


竜太郎は茶碗一杯の白米とその場に並べられていたおかずを少し食べると、洗面台で皿を洗っているガンタタへと茶碗を投げた。ガンタタは後ろを見もせずにそれを受け取ると、片手を上げて洗い場の作業を開始した。


「さて、猫女はギルド内の探索、コロノはどっか行っているんだったな。じゃあ適当にそこら辺ぶらつくか」


既に頭痛も収まり体の調子が戻ってきた竜太郎は、拳を鳴らしながらギルドの外へと足を踏み出した。その後ろをついていく二人の気配には気が付かなかった。




しばらく北に歩いてジュエル洞窟にたどり着くと、その前で眠っている衛士を叩き起こして更に北へと歩き出した。その後ろをまた二人の気配が追いかけ、非常事態だと勘違いして兜を外そうとしている衛士をなだめると、慌てて竜太郎の後を追った。


「へぇ、でけぇ滝だなおい」


ジュエル洞窟の先に続いていた森を何も持たず歩いていた竜太郎は、抜けた先で視線の端に流れている大きな滝を見て感心した様に呟く。


「滝修行ってやった事ねぇけど、こういうところでやるのか? ま、いいや。とりあえず次は西に進むか」


その場にしゃがみこんで観察していた竜太郎は、滝の流れとは逆方向へと歩き出した。勿論その後ろを、気が付かれないように最善の注意を払っている二人の気配が追いかける。
森の中を木々を避けながら進むと、かなりの時間が経ってようやく大きく開けた平原へと出た。


「おぉ、こういう平原に来ると人外もちらほら出てくるんだな。ゲームでいうモンスターみたいなもんか」


竜太郎の言う通り、平原には人の形とは大きく離れた可愛らしい見た目の生き物たちが飛び跳ねていた。竜太郎が触ろうとゆっくり近づくのに気が付くと、回れ右をして急いで逃げてしまう。


「……ま、そんなもんか。……ん?」


「あ」


「あ」


残念そうに顔を上げて後ろを振り向いた竜太郎は、ようやくその気配に気が付いた。竜太郎の視線の先には、申し訳なさそうにしているテン家の姉妹が立っていた。


「何してんだお前等」


「あ、いや……」


「な、何も持たずに出ていくものですから、この前のお礼にお姉ちゃんがおにぎりをって……」


「なっ!? メイユが提案したんでしょ! 確かに渡しそびれて追いかけようって提案したのは私だけど!」


「なんだ、気が利くじゃねぇか。サンキュ」


竜太郎がその場に胡坐をかくのを見て、テン家姉妹は嬉しそうに顔を見合わせると竜太郎へと手に持っていたバスケットを渡した。
蓋を開けると、形が整ったおにぎりが四つと形が丸いおにぎりが二つ入っていた。


「形が綺麗な方は姉貴の方だな? 上手いじゃねぇの」


それを聞いて、イーシャンは嬉しそうな顔をして、メイユは悔しそうな顔をする。


「妹の方がこれだな。ほれ、手を出してみな」


不思議そうな顔をして両手を前に出すメイユの手に、竜太郎は形の丸いおにぎりを一つ乗せると、自分も一つ手に取った。


「こうなっちまうのは手の形が違うんだよ。こうやって握るんだ。違う、そうじゃなくて拳をたてて……そうだ、そうやって三回握るんだ。力が弱いな。なら六回握ればいい。ほら、出来たじゃないか」


竜太郎の指示に、メイユは姉の力も借りながら必至でおにぎりを握り、いびつではあるが三角形のおにぎりを握った。メイユも嬉しそうな顔をして自分の握ったおにぎりをバスケットへと戻す。


「ふむ、ずいぶん楽しそうな事をしておるのぅ……」


そんな三人のやり取りに水を差す様に、一人の少女の声が響いた。三人共声の方向へと目を向ける。
視線の先には、薄い紫色の髪をした小さな少女が、物欲しそうな顔をして竜太郎達を見つめていた。動きやすそうな袖のない青い服に水色のパイレーツパンツを着こなし、リボンをたなびかせる少女を見てすぐに強者である事を直感した。


「のぅ? ここは一つ、妾とも戯れてくれぬか?」

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