花に願いを

水乃谷 アゲハ

第17話

ギルド前でのいざこざを終えたコロノ、軽猫、竜太郎の三人は、フィオーレに連れられ、ギルド長の部屋へと立っていた。


「さて、じゃあまず君をギルドに入れる手続きみたいな事をするんやけどいいかな?」


「手続きだぁ? 別にいいが、何するんだ?」


「いやいや、変な事はせんよ。ただ二枚の紙を書いてもらうだけや」


「あぁ、そんな事なら全然かまわねぇぞ? ……こっちが同意書だな。こっちは名前と使用武器だ?」


「そんな真面目に書かんでええで? それはただ単に、書いた人がどんな人かを調べる為のもんやから。さて、コロノ君と軽猫ちゃんには伝えなきゃいけない事がある」


同意書にじっくりと目を通す竜太郎を置いて、フィオーレはコロノと軽猫の顔を見つめる。
やがて厳しい顔をほころばせ、二人に称賛の拍手を送った。


「《入団試験条件その一:戦闘能力⦆。これは言うまでもなくクリアやな。元々コロノ君の戦闘技術に惹かれて招待していたわけやし」


「え……あの、私は……?」


「入団試験はチームリーダーのみがやるものだから、別に気にせんでいいよ? さて、次に《入団試験条件その二:チームワーク》。これもちゃんと犯人役を送って来たしクリアやな。まぁ、陽朝ちゃんがあんな風に変わるなんて知らんかったけどな」


「犯人……役?」


軽猫が驚いた顔をするのを見て、フィオーレは手を叩いた。すると、天井の一角の布がはがれ、中からシックが現れた。


「当たり前だろ? あんな広い舞台で過ごしている犯人がいたら、そりゃあ捕まえてくれって言っている様なもんだろ? ちゃんとした自己紹介をするなら、俺はシック・シークス。お前達みたいな新入団者の教育係をしている」


「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってよ!? え、じゃあ陽朝ちゃんが通路の途中で拾った骨は?」


「あぁん? ありゃ向こうのギルドが用意したクリア条件の一つだろ? 口寄せをしたら俺達のヒントを出すように作られた犬の骨だろ」


「えぇ……」


軽猫はどこか安心した様な顔をしながら、呆れた様にため息をつく。そんな様子を笑って見ていたフィオーレは、コロノへと顔を向ける。


「驚かないって事は、コロノ君は分かってたんやな? いつから気付いてたん?」


「初めの洞窟で疑って、手裏剣で確信した。あれは弾かなくても軽猫を逸れていた。それに、正式にギルドへ入ってないチームに危険な任務が来るはずもない」


「流石やな。確かにその通りや。ちなみに、シュウさんとミララちゃんは医療室にいるで。二人共一応検査しておこうって事になってる。で、ミック君なんやけど、残念ながら心の傷が深かったみたいで今はカウンセリングを受けてる」


「まぁ、あの子が多重人格だなんて誰も予想できないし仕方ないわな……。これはお前等が悪いわけじゃないから安心していい。まぁ、チームだったあの子はどうなるか分からないけどな」


「《入団試験その三:カリスマ性》。本当はこの後、もう一つの任務をしてもらうはずだったんや。で、そこで仲間を一人でも作れればクリアだったんやけど……。二人も仲間にいているところを見たらクリアやろ」


「コロノ、やったね!」


「おら、書き終わったぞ。俺達はこれから何すりゃいいんだ?」


「お、そこ置いておいてくれればええで。そうやな、一旦やる事は終わりや。明日は何もないから、自由な時間を過ごしてええで。明後日からは、アルカリアで未来花を手に入れる為に必要な知識を教える事になるから、基礎教室という部屋を見つけて入ってきてな」


「分からんかったら、そこらへんに歩いている奴に聞きゃいいぜ。んじゃ、俺は仕事に戻るから」


シックはそれだけ言うと、煙と共に姿を消した。部屋に白い煙が充満して、軽猫はむせ返る。竜太郎とコロノは、すぐに部屋を見回す。
煙が消えて視界が良くなると、部屋の周りに見慣れない人々がずらっと並んでいた。手にはクラッカーを握っている。


「ギルド入団おめでとう! テクスタにいる約五十の人間が、君たちを歓迎するよ!」


出口に一番近い、綺麗な鎧を身にまとう金髪の男がそう言うと、その場にいる皆がクラッカーのヒモを引っ張った。紙テープで部屋がいっぱいになる。


「わぁ……。すごい」


「んじゃ、今からは自由時間や。君たちにどうするか任せるで?」




最初にギルド室を部屋から出たコロノを追う様に竜太郎と軽猫もギルド室を後にした。
階段を下り、ロビーへと降りた三人はそこで足を止めてお互いの顔を見合う。


「コロノ、まずは皆でどこかに行ってゆっくり話をしない? 私、なんでこの竜太郎っていう人が仲間になったのかって分からないし」


「それならジュエル洞窟に行こう。竜太郎もそれでいい?」


「あ? あぁ、構わねぇけど」


軽猫の顔をずっと見つめていた竜太郎は、コロノの確認に半ば適当に頷いた。
五分後、コロノ達はジュエル洞窟にいる衛士から許可を貰って中へと入っていた。大広間で足を止める。


「ここが、私とコロノの初めて会った場所だよ」


「こりゃまぁ綺麗な所だな。こんな宝石の量初めて見たぜ」


「で、竜太郎とコロノはどういう経緯で仲間になったの? 私、目を覚ましたら『ギルド長室に行け』ってガンタタさんから言われただけだから分かってないんだ」


「あぁ、それはな……」


竜太郎がコロノとの戦闘の話、仲間になった経緯を話している時、コロノは興味深そうにまた天井に刺さっている青い宝石を見上げていた。


「へぇ……竜太郎って結構強いんだね」


「そんな訳がないだろ? ただ体が頑丈なだけだって。ところで、お前達は未来花ってやつに願いがあるのか? 俺はあるけどよ」


「え? あぁ、私は無いかも……? コロノの仲間にならないとコロノが不合格になるって聞いたから仲間になっただけだから。……コロノは?」


「ん……」




コロノ達三人がジュエル洞窟に到着した頃、フィオーレはギルド長室で竜太郎の書いた資料に目を通してはパソコンで何かを調べていた。


「これは……」


床に散らばった紙テープを片付けていた、先ほどの金髪男が心配そうにフィオーレを見る。


「どういたしました?」


「ん……マーク、ちょっとこれを見てくれへん?」


マークと呼ばれた金髪の男は、不思議な顔をしてそのパソコンを覗き込む。画面には、竜太郎とその横に見覚えのない少女が写っている。


「この子は?」


夜空よぞら 花火はなび。竜太郎の妹や。問題はそこじゃないんや。これ見てくれる?」


「ん……? なっ、こ、これは……!?」


初め、フィオーレの言葉の意味が分からずに、彼女の手に導かれる様に視線を移動させていたマークだが、手の止まったところを見て不思議そうな顔が驚愕の顔へと変わった。


「これが……竜太郎の願いなんやな……。それとこの紙、竜太郎の書いた紙なんやけどな? 戦い方を書かなきゃいけない所、自己紹介を書いているんや」


「ちょ、ちょっと失礼します。……なっ!? い、いや、これはまさか……」


概要欄と題名の書かれた枠の中に書かれていた自己紹介を読み終わり、マークは顎に手を当てる。どこか同情するような顔をしている。


「なんて言うか……彼はとても妹想いなんやな」


マークから紙を受け取り、自己紹介の最後に書かれた俺の願いという欄を見て、フィオーレも同情するような顔で天井を見つめる。


「恋は盲目ってよく言うけど、兄弟愛の中にも存在する言葉、なのかもしれんね」


資料をゆっくりと手放すと、紙は左右に揺られながらも重力に従って机の上へと落ちた。


「俺の願い、妹を助ける為に妹を殺す……か」

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