花に願いを
第5話
「この紙は以前このギルドにいた男が最後に残した手紙なんや。内容は娘への手紙と私への願い。手紙は読んでおらんけど願いの内容は、とある盗賊の仲間なった娘が生活に苦しい思いをしていた時、手をさしのべて欲しいという内容だった。彼は不器用で、娘の名前さえ明かさなかったから、探すのは苦労したんやで?」
軽猫はそれを聞いてはっとする。
「まさかあの洞窟に居れば食べ物に困らないとか教えてくれたあの深い帽子被ってた人は……」
その言葉に、フィオーレは軽く舌を出す。そして紙を軽猫に向ける。
「君の父、衣藻からの手紙や。まぁ、君みたいに衣藻は仮名だけどね。捨てた事を許せないかもしれないが、いずれ読んでやってくれんかな?」
「……」
長い沈黙のあと、軽猫は小さく頷いた。二人のやり取りを静かに見ていたコロノはポケットから例の石を取り出した。また辺りが暗くなる。
「なるほど」
コロノの行動をすぐにフィオーレも理解し、引き出しから一つの石を取り出した。
「これは遮音石。一定範囲の音を隠す力があるから、内緒話なんかに使える道具なんよ。私はコロノ君と外で話があるから、軽猫さんやその真っ赤な顔を落ち着けてから出ておいで」
そう言って二人で部屋の外へ出る。
「よう分かったな?」
「……何が?」
「彼女の気持ち。顔を見もせず、前に座る私さえ下を向いてて彼女の顔なんか見れへんかったのに。それまた人蝶の力なんか?」
「人が通りそうな廊下で聞かないで」
少し辺りを見てから、誰もいない事を確認して、
「人蝶は普通の人間より、直感と感覚が強いから分かったんだと思う」
と、小声で答えた。その返事にフィオーレは楽しそうに声をあげて笑う。
「配慮が少なかったね。ごめんごめん。それより、次の話を忘れんうちにするわ。次の君たちの行く場所はまた洞窟なんやけど、今回は他のギルドと協力して行ってもらうわ。向こうは一人、陽朝という女の子って聞いてる」
言いながら、胸ポケットから小さな写真を取り出す。
「その子が陽朝ちゃん。少し小さいけど、それでも彼女はとても強いんよ。一回だけ会った事があるんやけど、性格はかなり内気で扱い難しいから気を付けて?」
フィオーレの言う通り写真の子はかなり小さく、身長はおよそ十歳前後だ。髪は薄い紫色で、ドレスのような服を着ている。顔の縫われた人形を抱いてる姿がさらに彼女を幼く見せる。
「あ、あの、お待たせ……」
控えめな声と共に扉が開く。目元が少し赤い軽猫にフィオーレが笑顔を向ける。
「おかえり。その様子やと、まだ中は見てないんやな?」
「あ、はい。あたしはまだ見るべきじゃないと思うんです。父親の気持ちを少しでも理解できる日がくればその時見てあげることにします」
「そうなんや。来るといいね。さてじゃあ軽猫さんも」
手をポンと叩き、軽猫にも次の行くべき場所の話を始めた。そのフィオーレの様子をコロノは静かに見ていた。
コロノと軽猫が次の洞窟へと向かって行くのを窓から眺めながら、フィオーレは片手に遮音石を持って呟いた。
「あの子があんたの気持ちに近付いてくれる日はいつになるんやろうね? 衣藻。そしてあれを読んだ日、あの子は私を許してくれるんかね?」
そう呟くと、引き出しから小さな写真を取り出す。先ほどのより小さい。そこには、小さい軽猫を持ち上げて楽しそうに笑う男の姿があった。
軽猫はそれを聞いてはっとする。
「まさかあの洞窟に居れば食べ物に困らないとか教えてくれたあの深い帽子被ってた人は……」
その言葉に、フィオーレは軽く舌を出す。そして紙を軽猫に向ける。
「君の父、衣藻からの手紙や。まぁ、君みたいに衣藻は仮名だけどね。捨てた事を許せないかもしれないが、いずれ読んでやってくれんかな?」
「……」
長い沈黙のあと、軽猫は小さく頷いた。二人のやり取りを静かに見ていたコロノはポケットから例の石を取り出した。また辺りが暗くなる。
「なるほど」
コロノの行動をすぐにフィオーレも理解し、引き出しから一つの石を取り出した。
「これは遮音石。一定範囲の音を隠す力があるから、内緒話なんかに使える道具なんよ。私はコロノ君と外で話があるから、軽猫さんやその真っ赤な顔を落ち着けてから出ておいで」
そう言って二人で部屋の外へ出る。
「よう分かったな?」
「……何が?」
「彼女の気持ち。顔を見もせず、前に座る私さえ下を向いてて彼女の顔なんか見れへんかったのに。それまた人蝶の力なんか?」
「人が通りそうな廊下で聞かないで」
少し辺りを見てから、誰もいない事を確認して、
「人蝶は普通の人間より、直感と感覚が強いから分かったんだと思う」
と、小声で答えた。その返事にフィオーレは楽しそうに声をあげて笑う。
「配慮が少なかったね。ごめんごめん。それより、次の話を忘れんうちにするわ。次の君たちの行く場所はまた洞窟なんやけど、今回は他のギルドと協力して行ってもらうわ。向こうは一人、陽朝という女の子って聞いてる」
言いながら、胸ポケットから小さな写真を取り出す。
「その子が陽朝ちゃん。少し小さいけど、それでも彼女はとても強いんよ。一回だけ会った事があるんやけど、性格はかなり内気で扱い難しいから気を付けて?」
フィオーレの言う通り写真の子はかなり小さく、身長はおよそ十歳前後だ。髪は薄い紫色で、ドレスのような服を着ている。顔の縫われた人形を抱いてる姿がさらに彼女を幼く見せる。
「あ、あの、お待たせ……」
控えめな声と共に扉が開く。目元が少し赤い軽猫にフィオーレが笑顔を向ける。
「おかえり。その様子やと、まだ中は見てないんやな?」
「あ、はい。あたしはまだ見るべきじゃないと思うんです。父親の気持ちを少しでも理解できる日がくればその時見てあげることにします」
「そうなんや。来るといいね。さてじゃあ軽猫さんも」
手をポンと叩き、軽猫にも次の行くべき場所の話を始めた。そのフィオーレの様子をコロノは静かに見ていた。
コロノと軽猫が次の洞窟へと向かって行くのを窓から眺めながら、フィオーレは片手に遮音石を持って呟いた。
「あの子があんたの気持ちに近付いてくれる日はいつになるんやろうね? 衣藻。そしてあれを読んだ日、あの子は私を許してくれるんかね?」
そう呟くと、引き出しから小さな写真を取り出す。先ほどのより小さい。そこには、小さい軽猫を持ち上げて楽しそうに笑う男の姿があった。
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