目が覚めたら月餅になっていた

うな

変化のない毎日、いつも通りの日常ーー


そんなのはもう飽き飽きしていた。僕はいつも「その他大勢」に部類される人間で、主役にはなれない。取り柄もないし、彼女もいない。ダサい友達しかいない。


そんな僕の名前は普通之ふつうの 音虎おとこ 17歳。みんなからはおとちゃんって呼ばれてる。名前の通り性別は男だけど。
しかしひとつ、僕にも普通じゃないものがある。それは和菓子アレルギーということだ。原材料ではなく、和菓子がアレルギーなのだ。和菓子を食べると顔に蕁麻疹ができる。


初めて発覚したのは5歳の時、まんじゅうを食べた時だった。そのまんじゅうはパサパサしていて、多分買ってからある程度日にちが経っていたに違いない。
そのときだった、顔にぶつぶつができて親は大パニック、すぐに病院に連れて行かれた。そのときのお医者さん曰く

「あーこれは和菓子アレルギーですね。日本人の1億人に一人いるんですよね。小麦とか小豆とかは全くアレルギーじゃないので単体ならば食べることができますが、和菓子はとにかく避けてください。」

さすがになにを言っているのか意味が分からないと思うが、親も僕もさっぱりだった。でもそういうことだ。僕は和菓子が食べられないのだ。今後一切。まあ洋菓子だけでも美味しいのは沢山あるし、直であんこでも舐めておけばいいんだが、中学の修学旅行は辛かった。

修学旅行は京都だった。京都の名物といえば抹茶を使った和菓子とか、八つ橋とか、ほとんど僕の食べられない和菓子ばかりだ。とても不愉快だった。




そんなことはどうでもよくて、僕は今大ピンチだ。

授業中居眠りしてしまって、気づいたら月餅になっていた。最初は夢かと思ったが多分夢じゃない。リアルすぎる。第三者視点から自分を見ているようだ。(マイ〇クラフトのようだ)


みんな僕の席に月餅だけ置いてあって本人がいないことを不審に思っているようだ。

「あれ?おとちゃんは?」「早退したんじゃない?」「この月餅誰の?食べていい?」「やめときなよ、直で置いてあってばっちいよ」

みんな!僕!おとちゃんが月餅なの!ねえ!やっぱり誰もそんな意味不明な状況には気が付かないよな。どうやって月餅から元に戻ればいいんだ。食べられたらどうしよう。
まずなんで和菓子アレルギーの僕が和菓子の月餅になっているんだろう。
ただでさえ地味な僕がこんな地味な和菓子になっちゃって、救いようがないな。あっ、やばいギャルの松山さんが来た。

「ねえこの月餅ここに座ってたブ男なんじゃね?笑  てか月餅とか食べたことないんですけど笑笑」

松山さんの彼氏も来た。

「えっ、ブ男月餅とか需要なさすぎー笑笑
捨てちゃおうぜー」

それはやめて!!!どうなるか分からないから!!!!どうなるか分からないから!!!!

「捨てちゃうなら俺食べていい?」

やめて杉岡!!いくら食いしん坊とはいえ普通正体不明の月餅を食べたりしないだろ?なあ俺のダサメンなんか言ってくれよ〜〜
あ、村木!なんか言ってくれ!!

「……これ、僕の。さっきおとちゃんとお昼の時に食べようと思ってたんだけど、置いたままだったわ。」

よく言ったぞ村木!!!もしかして俺に気付いてる?

そのまま僕は村木に運ばれて村木の席で二人きりになった。村木が小声で何か言っている。

「はぁ……おとちゃん、ごめんね僕のせいなんだ。昨日神社に寄り道したんだけど、そのときに『おとちゃんが月餅になりますように』ってお願いしたんだ。」

コメント

コメントを書く

「コメディー」の人気作品

書籍化作品