東方消零記

如月大河

思い出

「ふぅ。今日も幻想郷は平和だぜ。」
ーあの異変から2年が過ぎた。幻想郷は2年前と変わらず、賑わっている。今は冬。これから寒くなってくる季節だ。その為か、人里の人間は冬を凌ぐ準備をしている。
「・・・霊夢の所に行くか。」
私こと霧雨魔理沙は人里を離れ、親友霊夢の所へ行く。私の心の穴を埋めるために。

「霊夢ー。邪魔するぜー。」
私は博麗神社に着くなり、神社に押し入る。
「魔理沙。あんたは少し遠慮というものはないの?」
霊夢は部屋でこたつにくるまりながら、煎餅を食べている。これが博麗の巫女か。
「霊夢。何年私の親友やってんだよ。私に遠慮があると思うか?」
私は霊夢の食べていた煎餅を手に取りながら、そう言った。
「知ってる。あんたはそういう奴だからね。今日は何の用よ。」
「いや、別に。用は無いんだ。暇だったから来た。」
そう。博麗神社にはどんな時でも私を受け入れてくれる。暇な時でも、そうではない時でも霊夢は拒まない。私の第二の家だ。
「・・・平和ねー。」
「・・・ああ。そうだな。」
「・・・やっぱり、まだ忘れられない?」
「・・・当たり前だぜ。」
霊夢がこの様に聞いてくるのには訳がある。2年前、あの異変で私は大切な親友を失っている。名前は零。私たちを、幻想郷を守って、死んだ。
「・・・零は、アイツは幻想郷に来た時からこうなる運命だった。それでも、彼はその運命に抗った。生きようとした・・・」
「分かってる。私にも分かってるんだよ!」
私のその言葉は霊夢の言った事実を受け入れられない、私の心の叫び。誰にも言えなかった本音を叫ぶ。
「私はアイツと生きたかった!アイツとずっと、ずっと!笑っていたかった!けどアイツは死んだ!そのあげく、アイツを、零を忘れろだ!?ふざけるな!!」
もう止まれなかった。霊夢は驚いている。
「魔理沙!落ち着きなさい!」
霊夢は直ぐに私を止めに入った。だが、私の耳にその言葉は届かなかった。
「アイツとの、私たち3人の思い出を、お前は、霊夢は忘れられるのか!?私には無理だ。だって、私にとってあの思い出は、大切な・・・なぁ、霊夢。何でアイツは死ななきゃならなかった?何で私はアイツを・・・」
次の瞬間。私の頬に何かが当たる。痛い。私の前には霊夢の手があった。霊夢は泣いていた。私と同じ位、いやそれ以上に。
「あんただけが苦しんでいる訳じゃない!あんたは、そんな事も分からないほど馬鹿なの!?私だって!もっと3人で笑っていたかった!でも、これは運命なの!こうなる運命だったの!・・・忘れたくない。何で忘れなきゃならないの。」
ーそうか。私だけじゃ無いんだ。霊夢も私と同じなんだ。なのに、私は自分勝手で、霊夢を苦しめた。
「・・・ごめん。霊夢。お前も同じなんだな。」
途端に霊夢は顔を赤くした。
「・・・うん。」
かろうじて聞こえる声で答えた。それは、私にはとても哀れに写った。
「・・・墓参り。行くか?」
私は霊夢にそう提案する。霊夢は直ぐに、
「・・・そうね。行きましょうか。」
と、頷いた。
「そうとなれば、善は急げだ。とっとと行こうぜ!」
私は部屋を飛び出し箒に跨がり、全速力でアイツの墓に向かう。
「ちょ、魔理沙!待ちなさいよ!」
霊夢も直ぐに飛ぶ。・・・霊夢が親友でよかった。そして私たちは零の墓まで競争するのだった。

「・・・やれやれ。あの二人らしいな。」
僕はあの二人のやり取りを博麗神社の階段から見ていた。
「・・・よかったのか?」
隣で卓也が問う。
「ああ。彼女たちなら大丈夫。零の死も乗り越えられる。忘れなければ、彼との思い出が必ず彼女たちの力になる。」
「・・・俺には分かりません。ただ一つ分かったことは、3人は記憶の中で生きている事だけです。」
「それが分かれば良いよ。さあ、帰ろう。」
「はい。」
そして、僕と卓也は帰路を辿る。

「・・・零。私たちは生きていくぜ。お前の分まで。」
「・・・行きましょうか。」
「・・・ああ。」
私たちは零の墓参りを終え、帰ろうとした。その時、
(ありがとな。魔理沙。また3人で飲み交わそうな。)
「えっ!?」
もう、二度と聞くことのできないと思っていたあの声。その声は私に優しく、そして消えた。
「魔理沙?どうしたの?」
「いや。何でもない。早く帰ろうぜ。」
私たちが失ったものは大きすぎた。もう二度と癒えることはない。それでも前に進まなければならない。それが零の望みだから。
  ーなぁ。零。私は守るぜ。お前が守ったものを、お前が残したものをー

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コメント

  • 如月大河

    後日談です。初めての単発物です。助言していただけると有難いです。もしよかったら周りに広めて欲しいです。消想録も投稿していくので、よろしくお願いします。

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