気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

115

「まあ、ココだけの話ですが、医師になれないとか医学部に入れなかったルサンチマンを持っている人も居ますからね」
 ルサンチマンとは著名な哲学者ニーチェが定着された言葉で「弱者が強者に抱く憤りとか怨恨・憎悪の念」だと言われている。医師が強者とは思えない部分が有るが、確かに社会的地位が有るし、職業を名乗ると「凄いですね」と一般の人に言われることは多々ある。
「まあ、そうだな……。実際は汚い仕事という面もあるが、社会的地位は割と高いような気がするので」
 祐樹が可笑しそうに唇を弛めている。
「貴方の場合『割と』ではなくて『大変』高いんですよ。その辺りは自覚して下さいね……。
 ま、その話は良いとして私の知っているウチの大学病院の薬剤師さんは年間1千万円の医学部専門の予備校に通わせています。何が何でも医学部合格させるとか、もはや執念というか……」
 年間一千万円……。そういう予備校が有るということは何となく耳に入って来た覚えは有ったが、単なるウワサだと思っていた。まあ、最近では――特に人手不足かつ、激務なのに報われることは少ない――麻酔医、個人的には救うべきと考えているが、どう救済出来るのかについては機会を見て祐樹とか内田教授に相談してみようと思ってはいる。病院全体の取り組みとしては。
 医師の求人サイトがインターネットのニュース欄に――多分閲覧履歴とか検索ワードからAI(祐樹がセンター長を務めている「死亡時画像診断」のAiではなくて)人工知能の方だがそれが判断しているのだろう。
 そういう広告記事には「麻酔医募集。年収二千万円最低保証」とか書かれていた。一介の医師からすれば高給だろうと思うが、給料も経済と同じく需要と供給のバランスで決まるので、人手不足なのだろう。
 そういう所に就職出来れば充分に元は取れるが、医学部に合格しなかったらどうするのだろうとか思ってしまう。それに森技官のように生理的に血が苦手とか、そういう人は向いていない職業だし、彼の場合は祐樹も感心する堅固な精神力で何とか医学部のカリキュラムは履修出来たようだし、医師国家試験はペーパーのみなので余裕で合格したみたいだが。ただ、全ての人がそんな精神力を持っているわけでもないので、盲目的に医学部とか思っている親御さんは酷だろうな……とも個人的に思ってしまう。
 まあ、余計なお世話かもしれないが。
 すると。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品