気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「こんばんは。お二人ともこれからお食事ですか?」
 祐樹が「職場用」の快活な笑みと口調で声を掛けると、二人とも弾かれたような感じでこちらに歩み寄って来た。
「こんばんは。田中先生、香川教授。
 そうです。二人だけではないのですが、パスタが美味しいと評判のイタリアンに集まって皆でお喋りをしようということになりまして」
 二人だけでなかったのは幸いなのかも知れない。祐樹が全力で止めるだろうが、サイン会の時とか、先ほどの柏木看護師の押しの強さとかを考えると「ではご一緒に」とか最悪言ってしまいそうな感触だった。
 病院内では向こうが遠慮して声を掛けて来ないが、こういうプライベートな場所だと最悪そうなってしまいかねない。
「へえ、パスタですか?美味しかったらまた教えて下さい。お勧めのお店のリストを作っているので」
 若干年上らしいーーといっても自分は妙齢の女性の歳を当てることにも自信などないーー木内さんがはにかんだような笑みと眼差しで祐樹と自分を交互に見ている。
「具体的にはどんなリストですか?田中先生の彼女さんを連れて行けそうなお店ですか?だったら、そんなにご参考にならないような気がします。
 雰囲気とかはまあまあといった感じですしお値段もお手頃感が満載ですし……」
 祐樹の「彼女」さんというのは、告白してくる女性をけん制するために敢えて流したデマだったが、そのデマが独り歩きするウチに雪だるま式に話が大きくなっていた。
 今ではそういうウワサが届きにくい黒木准教授クラスの職階にまで「田中先生の彼女さん」の話は行っている。
「私の彼女は美味しければ大丈夫です。雰囲気も良いに越したことはないのですけれど、味を何より重視している人ですので」
 祐樹が挨拶しろ!という感じで肘でつついて来た。
「こんばんは。木内さんと立花さんでしたよね。お会いできて嬉しいです」
 二人ともキャっという感じで飛び上がっている。
 女性心理にも疎い自分だったが、多分名前を呼んだのが奏功したらしい。祐樹に教えて貰うまでは名前は知らなかったし、さらに言えば「出来るだけ名前で呼んだ方が相手も物凄く喜びます」と教えてくれたのも祐樹だ。
「教授に名前を憶えて頂いていたのも、とっても嬉しいです!あ、お二人のお写真撮っても良いですか?
 これからお店で合流する皆に自慢しなきゃ……」
 スマートフォンを取り出している立花さんに「良いですよ」と言いかけたら、祐樹が先に言葉にしていた。
 曰く。
 

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