気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「インスピレーションについては、ある暗い過去があるのです。
 まあ、その当時は物凄く落ち込みましたが、今となっては笑い話ですけれど……」
 祐樹の表情がほろ苦い笑みを浮かべている。何だか懐かしいモノを思い出したかのように。
「先ほどの写真が完成した時のように、セピア色に染まった記憶なのか?」
 暗い過去といってもそれほど深刻なものではないのは祐樹の表情で分かったが、人によっては話したくないとか話せない過去があることも知っていた。そういうデリケートな過去については殊更に詮索はしたくないのも事実だった。
 祐樹のことなら何でも知りたいのも事実だった。そして自分の場合は祐樹に知られて都合の悪い過去などないが、人にはそれぞれ事情があるので。祐樹が話したくなければ無理に聞こうとも思わない。
「高校2年の時に模擬試験があって、その結果次第では成績順に並んでいたクラスの一番上から滑り落ちる可能性のある極めて重要なものでした。
 まあ、今となって思えば二番目のクラスでも自分の努力次第でウチの大学には入れただろうな……とは思いますが、当時はクラスが下がると志望校を下げないといけないという固定観念があった上に教師もそれが当然といった雰囲気を醸し出していたのです。
 そして、模試の時に、現代文の文章に『霊感』という単語があったので、怪談系の話かと思って読んで行くうちにワケが分からなくなりました。(何だか芸術の話っぽいな?)とも思ったのですが、幽霊話とどう繋がるのか考えれば考えるほど分からなくなって、時間ばかりが過ぎていきました。
 貴方も経験があるのでお分かりかと思いますが、国語は小説・評論・古文・漢文に分かれますよね?その四つを時間内で全て読んで解答用紙を埋めないといけないのに、小説で悩みすぎて古文の途中でタイムオーバーになってしまいました。
 それで点数も当然落ちました。連動して偏差値も……。職員室に呼ばれてクラス落ちになる前に必死で弁明したり、これから絶対頑張るからどうか落とさないでくださいと懇願したりで大変でしたよ…」
 祐樹は高校の時にもかなりサボって遊んだり、デートしたりしていたと聞いたことはあるもののそういう真面目な一面もあったのが意外で、思わず目を見開いて祐樹の端正な顔を見詰めてしまった。
「その霊感って……」
 思い当たることがあった。
 すると。

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