気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 最後の一葉は仲の良い兄弟というよりも、何だか宗教画に描かれている聖なる兄弟とか仲が物凄く良かった、そしてお互いを心底尊重し合っている親友同士のような感じがして、ついつい頬が緩んでしまう。
 祐樹も満足そうな笑みとため息でその写真を見入っている。
「これは特別な額に入れて保管しておくレベルですね」
 先ほどまであんなに賑やかだった柏木看護師が黙り込んでいるので不審に思って彼女の方を見ると両頬を両手で包んでいる、そして眼は少女マンガのーーそれほど見たわけではないが、自然と絵は見る機会が有った――女の子のように瞳にお星さまが瞬いているような感じだった。
 あんなイラストはフィクションだと思っていたし、デフォルメされているとばかり思っていた。何しろ背う仏学的に有り得ない、目が顔の半分を占めているイラストも有ったので。
 ただ、そこまでひどくはないものの、柏木看護師は「夢見る乙女」といった感じで薔薇色に上気した頬とかお星さまがキラキラ光る瞳で最後の一葉を言葉もなく見ている。
「ま、人間は本当に感動すると言葉を失うと言いますからね。きっと、そういう心境なのでしょう。
 私もそういう気持ちです……。
 聖画の世界に迷い込んだ気もします。
 ツーショット写真は、たくさんありますが……こんなに綺麗で神々しい写真は拡大して額に入れて部屋に飾っておきたいですね。寝室は――この神々しさにはそぐわないのでパスで……リビングにでも飾りましょうか?」
 柏木看護師は五感全てが写真に集中しているようで、祐樹が自分に耳打ちしていても自分の世界に入ったままといった感じだったのが分かったので徐々に言葉を大きくしていった。
「そうだな……。それにこれは絶対に祐樹のお母様に送らなければならないな……絶対に喜んで下さると思うので。
 やはりこういう本格的な写真機とかで摂ると全く違うな……携帯電話とかの写真機能とか、使い捨てカメラしか撮ったことはなかったので、こんなに綺麗に撮れるものなのだな……。
 先ほどの御嬢さんがあんなに熱心に吟味していたのも分かるな……」
 先ほどの御嬢さんは見るからに豪華な着物を纏っていた。ドラマ「白い巨塔」の中でもお見合いの時には気合いの入った着物を選ぶとかいう場面が有ったような気がする。きっとそういう「良縁」が舞い込んできたのだろう。
 ただその場合には、競争相手も多いのであんなに写真を選びに選んでいたのだろう。
 すると。

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