気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

91(改稿あり)

「ね、こっちとこっちならどちらが良いと思いますか?」
 先ほど白い薔薇の花を――ちなみに椅子に綺麗に飾ってからの写真はまだ見せて貰っていない――持って来た女性の店員さんに何だかブティックで買い物をする感じで品定めしている。
 祐樹の隣に背筋を凛と伸ばしたいつもの姿勢で佇んでいた。良く言われるが一見すると何か思慮に耽っている感じだが、実際は何も考えていない。
 ただ、自分の行きつけのフランスの老舗ブランド店は厳密に言うと洋服屋さんではないためにそういう事態に遭遇したことはなかった。それに祐樹行きつけの庶民的な店でも店員さんとあれこれ相談することはほぼない。
 ただ、女性の場合は洋服の一枚一枚を吟味する傾向にあるのは知っていたが、きっとあんな感じなのだろう。
 個人的的にはどちらでも良いと思うようなセレクトだが、彼女本人は至極真剣らしい。幸いそういう「デート」はしたことが無かったが、世の中の男性のほとんどがこういう目に遭っているのかと今更ながら感心してしまう。
「何だか……とこかで見たのだが『女性の買い物と裁判はどちらも悩んで長くなる』と。
 そういうモノなのだと他人事ひとごとのように読み飛ばしてしまっていたのだが、その稀有な機会に居合わせたような気がする」
 祐樹にだけ聞こえるような声で伝えた、しかも少々困惑気味に。
「最近の刑事裁判は裁判員の導入でだいぶ短くなったらしいので、こんなに長くなることはないでしょうね……。どっちでも良いから早く家に帰りたいというのが本音です。
 どうせ被写体は貴方と私なのですから良いモノが撮れたのは当たり前ですよね。しかもプロのカメラマンが携わっているのですからまさかのポンボケとかそういう初心者的なミスを犯すハズもないですし。
 ――これ、何時まで続くのでしょうか?」
 出勤時と同じようなスーツ姿ので肩を竦めてしまう、そして唇には諦念の笑みを浮かべている。
「祐樹、晩御飯なのだが、ご主人が家にいる主婦を誘うのはダメだろう。
 食べて帰るという案もあるが、患者さんから見事な松葉ガニを頂いたので、鮮度が落ちない間に食べた方が良いだろう?
 お鍋にする積りなのだが、それで良いか?」
 何だか必死かつ真剣に写真に向き合っている柏木看護師とは違ってのどかな会話を交わしてしまう。
 そもそも、自分はそれほど自分の外見に重きを置いていない。祐樹と一緒に笑いながら撮った写真が有ればそれで充分だ。
 すると。

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