気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 祐樹と自分が映った写真なら、そこまで時間は掛からないだろうなと、スナップ写真に視線を落とそうとしたら、店主が割と古い感じのサンプルみたいなものを広げてきた。
「こちらはあくまで『試作品』となります。実際に納品する分につきましては、セピア色に着色するとのご注文を承っておりますので、このようなイメージになりますが宜しいでしょうか?」
 多分、そういう注文をするお客が少ないのか、それともサンプル品として使っても良いと言うお客が居なかったのか写真に写っているのは学者めいた感じのするご老人だった。
 ただ、そのセピア色のせいも相俟って明治時代とかの写真のようで風情が増している感じはする。なんだか写真というよりも絵画めいた感じとでもいうか……いや、その中間かも知れない。
「良いのではないですか?肖像画というか、何だか明治時代の学者といった雰囲気ですよね、しかも有名な哲学者とかそういう感じで……」
 スマートフォンなどでーーちなみにアプリを使えば画像の加工は出来るとか読んだ覚えはあるが、ほとんどの場合目を大きくしたり鼻を高く見せたりする「盛った」画像のようだった、しかも色鮮やかな感じが好まれるとかーーキラキラの画像が多い中で、こういう重厚感のある「写真」の有難味が却って増しているような気がする。
 希少価値というか、スマートフォン全盛の時代だからこそ、こういう紙媒体のものが新鮮に感じるだろう。特に柏木看護師の友達や知り合いはスマホに依存気味のようだったし。
「良いと思います。この線でお願いします」
 柏木看護師が勢い良く返事をしている。普段なら祐樹がこういうことを決めるタイプだったが、彼女の熱意と行動的な積極性にすっかりお株を奪われた感じだった。
 ただ、祐樹も(暴走し始めれば止めれば良い)程度にしか思っていないのかも知れないが。
「承りました。ではこちらが今回お撮りした分でございます」
 店内のカウンターに写真が並べられた。まずは一枚目から吟味にかかるらしい。
 直ぐに決まるだろうと思っていたのにーー一枚目などは仮に病院長の目に留まっても何とも思われない程度のツーショット写真だーーサイン会でも散々撮影された程度のモノだったし、祐樹は柏木看護師に転送を頼んで紙にプリントアウトしているので、割と見慣れた感じの写真だった。
 祐樹と二人並んで微笑んでいる写真という点では貴重だったが。
 しかし。

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