気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

76

 彼女が心の底から満足そうな笑みを浮かべている。というより何だか真剣みという点では手術室で道具出しをしてくれているのと同じような感じだった。
 鋭い笑みは、なんだか撮影に臨むプロのカメラマンとか映画監督のような雰囲気だった。
「とても良いですね。赤い薔薇も素敵でしょうけれど、教授には白い薔薇の方がより似合いますわ」
 自分ではそういうことは全く分からないので背凭れの背後に佇んでいる祐樹を見上げた。
「普段の貴方は白薔薇かピンクでしょうね。ベッドの中では紅い薔薇がより似合いますけれども」
 柏木看護師に聞こえない声でそう呟かれた。
 その耳朶みみたぶまで薄紅色に染まってしまう賛辞が頬を薄紅色に上気させてしまっているのを自覚した。
「素敵ですね。その表情も……」
 柏木看護師は写真館というプロの居る場所で良いのだろうかと思ってしまったが、スマホで写真を撮っている。
「あのう、そういう写真はインターネットで公開しないで下さいね。お分かりかと思いますが念のために申し上げておきます」
 確かに祐樹のツーショットを全世界に晒す気はなかった。しかも今の場合はただの写真ではなくて英国製と思しきアンティークな椅子に腰を掛けているだけではなく、その椅子に白薔薇が飾られているので猶更だった。
 先ほどの振り袖姿の女性のように台紙付きでーー彼女の場合は然るべき人というか家元などの「京都の著名人のご子息」を多数知っている人に配られるのだろうがーー流通させるならば公開範囲は限定されているから良いものの、ツイッターやインスタグラムにアップするのは止めて欲しい。
 インターネットなんて誰が見ているかも分からない上に最近は画像検索機能まで有るので、下手をすれば患者さんとかそのご家族の目に触れるようなことだって有るかも知れないので。
「大丈夫です。その点はキチンと病院内でも研修を受けました。『SNSの使い方講座』と『もし貴女が名誉棄損するような書き込みを行ったりされたりした場合の対処法』という二講座有りました。だからラインの同好の士のグループにしかこの画像は流しませんし、そういうSNSの使い方も皆研修済みなのは分かっていますので」
 同好の人たちの閉じた空間でやり取りする分には良いかと思ったが祐樹は違ったらしい。
「あのう、その画像だけで満足して肝心の写真を買って下さらないリスクは想定すべきだと思うのですが。
 それに……

 

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品