気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 最近はサイン会などで、病院関係者との距離が近付いてしまっているような気がした。
 以前祐樹に「貴方だって、私と同じくらいのファンが居ます。けれども、一介の医局員としての認知度が高い私と異なって、貴方は雲の上の『教授職』ですので、畏れ多くてチョコなどを贈れない人の方が多いのです」と言われた覚えが有った。
 その時は、祐樹の買い被りのような気がしていたが、サイン会の時の握手の量とか花束や手土産には、二人の名前が並んで書いてあったり、「田中先生へ」というのと「香川教授へ」という宛て名はほぼ半数だった。
 だから祐樹の「自分も人気が有る」という説も俄然説得力を増している。
 ただ、祐樹一人が貰うバレンタインのチョコをほぼ自分一人で消費しているのは嬉しい限りだったが、単純に二倍になってしまったら、流石にノルマ感が生まれてしまう。
「そうですね。それほど甘いものは好まないです……」
 柏木看護師が――もちろん、人の奥さんとしての節度は守っているものの、自分に好意を持っていることは何となく分かっていた、祐樹に指摘される前に――こういうこちらが望んだ協力だと良いが、チョコを贈る「イベント」に出馬表明をしたら雪崩を打って賛同する女性も多数居そうなので一応、そう言っておくようにした。
「ああ、田中先生、岡田さんのことですけれど、同好の士だと判明しました」
 久米先生が、恋愛シュミレーションゲームに熱中している上にゲームアプリに課金してまでハマっていたり、何でもその登場人物の人形を――フィギアと言うらしい――コレクションしているらしかったが、世の中ではそういう人を「オタク」と呼んでいるらしい。
 そして、そういう男性と柏木看護師のような趣味を持つ女性は親和性が高いというのが祐樹の持論だった。
「そうですか?それは朗報ですね。
 ちなみに、どうやって確かめたのですか?そういう趣味って職場ではなかなかカミングアウト出来ない類のモノですよね?」
 祐樹が抹茶の濃い緑色をたっぷり掛けたかき氷をサジでシャクシャクと混ぜながら聞いていた。
「今の世の中では『そういう』小説を書いている作家さんが、一般小説を手掛けることも多くなって来たんです。
 だから、両立して出版している作家さんの「普通」の本をさり気なく見せて『この作家さん面白いわよ。大好きなの』と言ってみたところ、あっさりと話に乗って来ました」
 柏木看護師の誘導尋問(?)が上手いかどうかは自分には判断出来ない。
 しかし。

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