気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 ちなみに、自分が先にオーダーしてお抹茶とぜんざいが置いてあって祐樹が今オーダーをしようとしているのは、約束の時間に余裕を持ってホテルの喫茶室に席を取って自分がスタッフに注文を済ませた瞬間に祐樹の携帯が着信を告げたからだった。しかも救急救命室からの番号だったので(もしかして深刻な人手不足が勃発してしまったのか?)と心配していたがーーその場合、杉田師長なら、「土日は絶対に休む!」と断固として主張している祐樹ですら迫力で寄り切られてしまう可能性すら有ったーーどうやら、バックヤードに送った患者さんの電子カルテに入力ミスが有ったためにその確認のための電話だったらしい。
 休みの日に呼び出されるのも嫌だが、今日の場合二人揃っての写真撮影なので祐樹が欠ければ柏木看護師まで迷惑がかかる上に、また日を改めてということになりかねない。
 それが杞憂で良かったと内心思っていると、祐樹がアルバイトと思しき女性スタッフに割と真剣な表情と口元に浮かべた笑みーー自分にも魅惑的に映ったが、女性に与える効果も自覚しているに違いない。
「シロップや砂糖の甘みを加えずに、抹茶の粉だけをかき氷の上に振りかけて貰えますか?」
 そのオーダーが祐樹らしくて思わず唇に笑みを浮かべてしまった。
 恋人になった当初に比べれば甘いモノに対する耐性はかなり出来た祐樹だが、基本的には苦手な部類に入るようなので。
「田中先生は本当に甘いモノを召し上がらないのですね……」
 柏木先生の奥さんが可笑しそうな表情を浮かべていた。
「え?まあ、そうですけれど。抹茶の独特な味を楽しみたかったので。ですから、チョコレートは別ですけれども」
 祐樹は若干慌てたように言った。バレンタインディのチョコ獲得数病院一位の座は譲りたくないらしい。
 そして祐樹が抹茶の味をことさら好んでいるとも思えなかった。二人で出かけるカウンター割烹などの日本料理のお店で天ぷらに、ただの塩ーーといっても伯方はかたなどの塩の産地として有名どころだがーーと抹茶入りの塩が並んで出される時も有って、祐樹はただの塩を付けて食べていることが多かったので。
「香川教授は甘いものがお好きなのですか?」
 柏木看護師は興味津々といった感じで聞いてきた。そういえばーー新郎側の主賓としてーー結婚式にも出席したというのにそういうプライベートな話はそれほどしていないことに気づいた。
 ただ。

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