気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「ネクタイを色違いのお揃いにするのが一番喜ばれるような気がしますが、私も彼女達の考えることは分からないので、柏木先生の奥さんに聞いてみます。
 彼女は貴方の隠れファンですから、オマケの私の方が話しやすいでしょう」
 何となくだが、彼女が自分に「特別な想い」を持ってくれていることは分かってはいた。
 しかし、柏木先生というれっきとした配偶者も居る人だし、遠くから見られることには――その視線が熱い想いから来ていることは祐樹から聞くまで全く気付かなかったが――慣れている。
 そして柏木先生は大学の時の同級生だったし、その当時は学業以外でも良く声を掛けてくれた。医学部は他の理系学部と同様に拘束時間も長い上に自分は救急救命室で手伝いをしていたので断ることが多かったにも関わらず、飲み会とか旅行のプランが有ると律義に知らせて誘ってくれた。
 それに今は新設予定の救急救命センター長の座を打診されたにも関わらず――ちなみに、センター長は准教授並みの待遇を受ける――固辞した。そして黒木准教授の後釜あとがまになる方を選び医局長に留まっていてくれた上に、医局の「表」のまとめ役も担っている。
 自分は今目の前に居てくれる祐樹しか愛せないし、そういう気持ちを他の人に一度たりとも抱いたことがないのが唯一の矜持プライドだった。
「そうだな……。需要がどういうところにあるのか読めないので、その筋に詳しい人に聞くしかないだろう。
 株とか貴金属なら割と分かりやすいし、相談出来るプロもキチンと居るが……」
 資産運用をプライベートバンクに全て委ねているとはいえ、一応経済とか金融関係の記事や数字は気にしている。
 国家的に紛争が起こりそうな時には金の価格が上がるとか――紙幣だと、その国が保証しているだけなので、当該国が信用を失うような事態になれば暴落のリスクがあるので――株式の場合だと会社の決算が良かった場合は株価は上がるが逆だと下がる。これは基礎の基礎だったが、そういう法則性が「彼女達」に有るのかどうかは判然としない。
「ああ、そろそろタイムリミットです。
 お揃いのネクタイで良いのかどうかとか聞いておきますね。
 それと」
 祐樹が魅惑的に口角を上げているのを見て、密かに心拍数が上がった。
 「それと」何だろう?
 ただ。

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