気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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「貴方という人は……。生涯で唯一無二のパートナーだという誓いも立てた私――は、確かに口だけの時もあります、それは否定しませんが、少なくとも貴方の前でだけは誠実でいようと思っているのです。
 それは分かっていらっしゃいますよね。
 そして、私と同様に――というか愛情のベクトルは当然異なりますが、同じ方向だったら貴方も迷惑ですよね。
 私のは海よりも深い恋愛感情、母のは空よりも高い保護者というか黙って見守っておくべき対象としてのいわば家族としての親愛の情ですが」
 祐樹が可笑しそうに唇を弛めながら真摯な口調で言葉を紡いでいる。てっきり祐樹の実家にお見合い写真でも持ち込まれたのかと思ってしまったが、どうやら違ったらしくて、身体中から安堵の溜め息が零れた。
「祐樹のお見合いの話しが持ち込まれたのかと思って背筋が比喩ではなくて凍りつくような気がした……」
 祐樹の長い指が唇を優しくなぞってくれた。
「貴方の唇も真っ青ですよ。体温が低いのはいつものことですが、唇までこんなに冷たいのは初めてです。
 しかし、そのように誤解させてしまう意図は全くなかったので……。そのう、申し訳ありませんでした」
 安堵の余り首を大きく横に振って自分の思い違い?早とちりを悔やんだ。祐樹の温かい指を唇で感じながら。
「お見合い写真めいたものが来たのは、研修医の頃で……。まだ貴方とこのような永続的な関係になると決めていなかった時のことです。
 しかし、母は私の嗜好を薄々知っていたので『他人様ひとさまの大切なお嬢さんを不幸にしてはならない』と即座に断ったと聞いています。その時にはスナップ写真と釣り書きと言うのですか?履歴書みたいなモノに親戚が何をしているかを書き連ねた便箋が入っていたらしいです。ただ、母は絶対に断る積りだったので写真も履歴書みたいな紙も私は見ていません。だからそのお嬢さんがどこの誰かも知りませんし、知る必要もないと思っています。
 その後、貴方を母に紹介したでしょう?そうしたら物凄く気に入ってくれたので――まあ、貴方のことは100%気に召すとは思っていましたが――『お話』が来ていたとしても即座に断っていると思いますよ、母の一存で」
 京都の街の中で育った――といっても片隅にひっそりと生息していただけだが――自分とは異なって祐樹は日本海側出身だし、ウチの大学卒の医師という肩書はどこに行っても感心される対象なのは知っていた。だから、祐樹の町だけではなく市単位でウワサになっていることは想像に難くない。
 それに。

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