気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

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 サイン会の時に実感したのが、二人が檀上で単に並んでいる――座っていたり立ったりしていたりする――構図よりも、祐樹が自分の肩とか手に触れているような些細なスキンシップでポージングしている時の方が圧倒的にスマホなどの撮影音が大きかった。
 その経験則を踏まえて――そういうことは当然ながら祐樹の方が敏いのは言うまでもない――需要が有る方を選ぶだろう。
 そうだとしたら、肩に手を置く可能性は極めて高い。どちらが着座するのかは全く分からないが。
 わざわざ二人きりの折鶴勝負までして勝ち取った、祐樹の晴れの姿が最高に映える衣装一式を贈った甲斐がよりいっそう有ったと思うと薔薇色に弾む心に細かい銀色の泡が立ち上っているような感じがする。
 そもそもの目的はアメリカの学会に講演者として登壇する時に祐樹の魅力を遺憾なく発揮して欲しいということと、東洋人は若く見えがちなので少しでも年配に見せるにはどうすれば良いかと自分なりに計画した結果のせいだったが。
 ただ、試着の段階ですら見惚れてしまった、祐樹の知的で落ち着いた感じを遺憾なく発揮している衣類一式を着る機会が多いのも個人的に非常に嬉しい。本番でもあるアメリカの学会に自分は行けないので尚更に。
「一つのポートレイト写真が1万5千円なのですよね?しかし、同じ写真を使うのであればその分労力が軽減されますよね……だったら、8掛けで大丈夫なのではないでしょうか」
 久米先生の割と甲高い声が必死な感じで聞こえてきた。
「あと、大量なので、そのことも言わないと」
 柏木先生も助け舟を出しているので、当分は大丈夫だろう。
 それにしても、祐樹がサンプルとして見せてくれた写真が――といってもお店のHPからのプリントアウトなのでざっくりとしか分からない――そんなに高いとは思わなかった。
 ただ、そういう「ハレの日」用の写真なので、そんなものかも知れない。紙には「753やお見合い用」とか書いてあった。
 きっと画質も良いのだろう。そういう「ハレの日」のツーショット写真を撮るのも、これが最後かもしれないので、とても楽しみだ。
 プリントアウトをしげしげと見ていると祐樹がさり気なく周りを見ている。
 こういう時は何か自分だけに言いたいことが有ると決まっていたので、自分も周囲の様子を窺ったが久米先生の値下げ交渉に注意が集中しているようだった。
 密かに安堵のため息を零してから祐樹へと少しだけ距離を詰めた。
 すると。

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