気分は下剋上 肖像写真

こうやまみか

「『直訴状』
教授と田中先生のサイン会の時のツーショット画像が想定を遥かに上回っていて、ナースや事務局の女性から『特別感』を求められました。
 そこで直訴したいのは、スマホなどで撮るのとは違って写真館にご足労頂いて、言うなればお見合い写真のような感じで撮影して欲しいと思います」
 久米先生の丸っこい文字で綴られた内容だった。祐樹とツーショットの写真を撮るのはむしろ嬉しいが、お見合い写真のイメージが全く分からないので、困ってしまった。
「ドラマで観たことしかないのですが、普通にカメラで撮った写真を台紙とか表紙というのですか……?そういうので一枚モノにするという認識で合っていますか」
 ただ、ドラマでは――お見合い写真なので当然のことながら――女性一人が振り袖などで着飾って単体で写っていた。常識で考えて友達とかと撮った場合、どちらが御当人か男性には分からないし、下手をすれば一緒に写っている人が男性の好みに合致する可能性もあるわけで、ツーショットのお見合い用の写真などないだろう、多分。
「合っていますね……。ただ、この京都では七五三とか入学を記念してなど、父母とお子様が正装して写真館に行くということは割と良く有ります。私もそういう節目節目では台紙付きの写真を撮るのが習慣になっていて……。ただ、一番イメージしやすいかなと思ってお見合いを例に出しました」
 医局の先生方――根っからの庶民出身者は知っている限り祐樹と自分しかいない――しきりと頷いていたので、そういう文化なのだろう。京都限定だか全国区かは知らないが。
「ここだけの話し、スナップ写真だとナースや事務局の人は原価が分かっているので、強気の価格設定をしたら却って幻滅するかもしれない。しかし、そういう台紙付きの写真は撮っていたにしても親御さんが料金を支払っていることが多いので正確な値段が分かっていないだろう。
 それに、最近のお見合い写真はスナップ写真で回ってくることが圧倒的に多いので、ナースや事務局の妙齢の女性も原価を把握していない。
 単価が高いというのもあるが、原価がどれくらいかを知られていない点が一つの利点だ。
 ここまでは宜しいでしょうか?」
 柏木先生が患者さんやそのご家族に説明する感じで――患者さん相手だと完全に敬語だけれども、元同級生という親しみやすさから一部敬語を省略しているのだろう。
「それは分かりました。しかし、そんな強気な価格帯にしなくとも……」
 プロのモデルさんではないので、スナップ写真で良いような気がした。祐樹の方をさり気なさを装って見ると、黒色に輝く瞳が割と熱を帯びていた。その眼差しに虜になりそうな気がして、そして祐樹も明らかに乗り気だということも分かったので瞳を逸らせたが。
 すると。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品