劣戦火に寄るエルケレス

蓬莱の人

第二十二話『契約書』②

 ――シエルダが外へと出て行き、部屋にはヴァッケン村長一人だけとなった。しかし内心彼は、このまま契約を取り付ければこの村もモンスターに襲われても大丈夫だな。そう考えていたのだ。


 「...いや、まだそれだけじゃないな」


 高価な物が同然と飾られ彩られた部屋の中で、彼は笑みを浮かべていた。――


 クシュンッ

 
 「大丈夫ですか、シエルダさん?」


 くしゃみをしたシエルダに風邪を引いたのでは、とキリカは声を掛ける。


 「いや、風邪は引いてないと思うんだが...まぁ体には少し無理させたかも知れないからなぁ」


 自身の額に手を当て、熱があるか確かめるが熱は無いように感じた。やっぱり無いよなぁ...と手を下げ、再び話を元の話題に戻す。


 「何故、契約書を伏せたのか...ですよね?」


 噴水の前まで来たシエルダにキリカは再度話を確かめる為聞いた。


 「そう、何故伏せたのか、見られてはまずい事が書いてあったと言うことだ。つまり俺が文字を読めないことを良いことに俺の耳に良いところだけを読み上げて、契約書にサインをさせようって考えだったんだろう」


 「なるほど...それで、何故それがわかっていながらその場で私に読まさせずに一度外に出たのですか?」


 理解したキリカはシエルダに外に出た理由を聞く、字の読めるキリカに契約書を読ませればすぐにその場で解決したというのに。


 「キリカ、気づかないのか?」


 シエルダは辺りを見渡す、目に写ったのはこの村の民家だ。キリカに再び話始めた。


 「この村の民家に対して、さっきの契約の内容と言い、屋敷の硝子細工...俺はあぁ言うやつが嫌いだ」


 シエルダには字が読めずともわかっていた、あの村長は何か大きな事を隠していると...その調査をするための時間として暫くの時間を取っていた。

 そこへ先程シエルダに礼だと言って金を渡した男性がいた。


 「おや、シエルダさんじゃないか。村長との話は終わったのかい?」


 そこでシエルダは素直に契約の言われた内容と、それを怪しいと考えている事を話した。


 「そうか...わかった、俺も協力できることは協力しよう、それにこれ以上あの豚の政策に付き合わされたくは無いしな」


 男性も鬱憤が溜まっていたのか、話せばすぐに話に乗ってくれる。

 ヴァッケンと言うこの村の長はこの村でどのような事をしたのだろうか、それこそこの男から聞いた方が良いだろう。シエルダは再び男へとあの男が、ヴァッケン村長が行っていた政策というのを聞いた。


 「話に乗り気だな、なんでそんなに乗り気なんだ?」


 何故そこまで乗るのかと訪ねると、男性は少し小さな声で、周りに人がいたとしても聞こえないほどの声で話始めた。


 「実は...この村には税が掛けられてるんだがその税が到底俺達の半分以上が払いきれる物じゃないんだ...」


 税...そんな物はシエルダの村には存在しなかった。その為、税と言われてもやんわりとしか判らず、キリカに税とは何か、と聞いた。するとキリカはすぐに答えてくれる。


 「税と言うのは、この土地を治めるもの、つまりここで言うとヴァッケン村長がこの土地に住む人達から強制的に回収している物や金銭の事ですね、王国では金銭でしたがこの村の税はどのような?」


 キリカの質問に男性は言葉を続ける。


 「この村で店を持つのならば日が五回沈むと売り上げを半分、売り物を半分差し出す事となっている...お陰で今は殆どが店を構える事ができないのさ」


 殆どが店を構える事ができない程の徴税は幾らなんでもおかしい、キリカはそれでは村が回るのか?と考えていた。そこへ男性にシエルダが問いかけた。


 「なら、一体誰が衣服を作ったり食料を作ったりするんだ?」


 そう質問をしたシエルダはこの時、この質問をしなくとも答えはわかっていた事だろう。男性は答えをシエルダとキリカの二人に伝えた。


 「それは俺達だよ、販売で金は回らなくとも物は回る。あまり村長に見られる訳にはいかないが」
 

 見られる訳にはいかない、その言葉がどうもキリカには気になるのか、シエルダへの回答が終わるとすぐに男性へ聞いた。


 「何故見られてはいけないんですか?」


 男性は答えた。

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