劣戦火に寄るエルケレス

蓬莱の人

第十九話『感謝』

 診療所で新たな服を頂き、村長の家へとシエルダとキリカは向かって行く。中央って言ってたよな、屋敷ともなれば見つけやすい筈だ、と噴水のある広間へと向かう。

 そこには多くの人々がいた、何か祭りでもやるのか?と思うほどの賑いだった。


 「いたぞ!」


 一人の男性の声で人々はシエルダの方を向いた、その状況が理解できず何をされるんだとさえ思っていた。すると一人の男性が手を握る。


 「ゴブリンを倒したシエルダって言うのはあんただろう?」


 もうそこまで情報が流れていたのか、情報の伝達の早さにシエルダは感心していた。そこへ両手を取り、握った男性はそのまま感謝の言葉を述べ始めた。


 「ありがとう!うちの娘がゴブリンに拐われてからと言うものあいつらが憎くて堪らなかった!」


 しかし、シエルダは元々助ける目的で西の洞窟に入ったのではなく、モンスターであるゴブリンの存在を許せなかったからであった。そんな私情で感謝される訳にはいかないと弁明し始める。


 「い、いや、俺だってゴブリンに私情で」


 しかし言葉に割って入るように次々に感謝の言葉が投げ掛けられ、更には食料や金まで渡された。


「な、こんな...受け取れないって、悪いですよ」


 シエルダは、村の人が渡れた物を思わず突き返す。しかし、村の人男性はそれでもシエルダに受け取って欲しいらしく引き下がらない。


 「受け取ってくれ、これは村の皆からの感謝の気持ちなんだ」


 押しきられ、シエルダは両の腕いっぱいに抱え込み村長の村へと向かった。


 「ありました、あの屋敷ですね」


 周囲の家の10倍ほどの広さのその屋敷は、明らかに村長が住んでおり、金をたんまりと持っているのだとわかる程の屋敷だった。


 「間違いないな、この屋敷だな」


 屋敷の前まで行き、キリカがノブに手をかけた。

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