劣戦火に寄るエルケレス

蓬莱の人

第十一話『カレニア鉱山』

 暫くの休息から、やがて立ち上がるシエルダ、そしてキリカを背負い歩きだす。まだ日も昇らない大地を歩く、時折二人は言葉を交わして進み続けた。

 けれど、シエルダの右手に刻まれていた印については、お互いに知らない。二人が歩み続ける先、遥か南西にある鉄の国とも呼ばれるゴニ国、そこでは毎日のように鉄を打つ音と、石を砕く音が響いていた――


 ゴニ国の硬い王宮の鉄扉の開閉の轟く音と共に1つの報告が飛び込む。木製の扉はバンと強引に、叩きつけられるように開かれた。


 「国王様!現在、西のカレニア鉱山よりモンスターが涌き出てきています、種族はアンデットとゴーレムです!既に複数目撃されています」


 「ご苦労だったな、下がってよい」


 玉座に座る一人の男は、頭を抱え悩む。これもつい5日前の事、我が国であるゴニ国は鉄の国としてこの大陸でも名をあげ始めていた。

 そんな時、この国の要とも呼べる鉄の採掘に使用していたカレニア鉱山からモンスターが突如として涌き出てきた。

 今まで良質な鉄を採掘できたカレニア鉱山が今や閉ざす他なく、鉄を中心に産業を行い形勢を成り立たせてきていたのだが、鉄を採掘できなくなってからと言うもの、大きく国に影響を出し始めている。


 「...どうしたものか」


 国王はふと、何かの物音に耳を傾け正面の扉を見た。唯一、この王座の間に出入りできる木の扉が開き始めていたのだ。

 兵士ならば入る前に一度声が掛かるが、しかし今回は声を掛けては来ない。兵士では無い何者かが入ってくる扉を見ながら国王は悪寒を感じていた。兵士はすぐに体を翻し。


 「誰だ!断りも無く入る者は!」


 と叫び、腰に下げた剣の柄に手を掛けていた。だがそれも、その者が入る事で兵士は柄から手を離し、国王は立ち上がる。


 「お悩みでしょう、ゴニ国のお・う・さ・ま」


 少女のような幼さのある声で言葉を話したのは、隣国であるイバン国の魔導師、魔性のイデイア。

 幼い身でありながら、人やモンスターを惑わす幻術と魔術を駆使する、天才とまで呼ばれた魔導師だ、だが国王は彼女を嫌っていた。


 「何をしに来た、イデイア」


 「何をしに来たとは...随分と失礼ではないですか、せっかくイバン国のヒレイドゥ王から助けに行く様に言われたと言うのに」


 「なに、それは本当か?」


 不適な笑みを浮かべ、魔導師イデイアは国王に伝えた。


 「本当ですよ、そうでなかったら態々わざわざ此処まで来ませんわ」


 「一応聞いておこうか、イバン国は何故イデイアを送ってきた」


 数歩、イデイアが前へと歩く。


 「今後とも良い関係を...と」


 国王は溜め息を吐くと、続けてわかっていたと言わんばかりに話しに入ってくれ、と言葉を放った。


 「では本題に、率直に申し上げますと国王様は鉱山から涌き出るモンスターに困っているのですよね。私は聖都にいるような戦闘向きの魔導師ではありませんので、撃退する程度が精々です」


 しかし、国王は内心、何を言っているんだ、この魔導師は。この魔導師、どこまで自分の価値を下げようとする、その気になれば壊滅させる事もできるだろうに。そう考えていた、彼女の力を知るのは少ない。


 「...それで了承しよう、国にはモンスターを近づけるなよ」


 「わかっていますよ、撃退が゙私のやれる精一杯゙ですからね」

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