劣戦火に寄るエルケレス
第九話『冷めた心』
突然手の平の熱に苦しみ出すシエルダに、先程まで圧されていたゴブリンが反撃する。
「なんだか良くはわからねぇが、好機だ!」
盾にされた仲間を、その太い腕ではね除け、棍棒でシエルダの頭部を殴り付ける。
シエルダの頭部から僅かに血は跳ね、凸凹のこん棒に付着した。
「ぐあっ...!ぐぅっ...」
出血した頭部よりも、何より手の平の方が遥かに痛みを感じる、血管に熱せられた鉄を直接打ち付けられているような痛み、手の甲に刻まれた刻印からは血が少しずつ流れ、その血を見るたびに意識が飛びそうになる程の恐怖と激痛を感じた。
「なんだっ!こ...れはっ....!」
シエルダは腕を抑えながら踞る。頭部の傷で飛びそうになる意識ですらも痛みで引き戻されてしまう。
「こいつ、このままでも死ぬんじゃねえか?」
一匹のゴブリンがそう呟くのが聞こえた。死ぬのか、俺は...何もできていないじゃないか、モンスターの事も、村の事だって、そうだ...村だ、奴等に焼かれた村だ、この痛み、皆もこんなに熱かったのか。
涙が溢れる、しかしそれは腕が痛いからではない、心が痛いから。あの日、あの寒空で焼かれた皆の事を思うととても心が苦しく絞めつけられる。
ザッ――
右足が地面を踏み込む音と共にボトリと目の前に首が落ちる、ゴブリンの首だ。そうだ、殺らなければ、殺らなければ...。
「......殺らなければ...」
起き上がるシエルダに三匹のゴブリンが一歩、退く。手の平の熱は冷めることは無く、其れ処か更に熱くなっている、だがそれも今のシエルダには業を煮やす為の途中経過にしかならない。
ゴブリン達の目の前には無惨に切り裂かれ地面に伏しているゴブリンを更に一撃、確実に殺すように傷口に深く剣を差し込むシエルダの姿が映る。
「裂いて、斬り伏せてぇ、蹂躙する!」
馬乗りになり、喉を鋭い刃先が突き刺す。ゴブリンの口からは血が溢れ、外へと流れ出るが、シエルダは死体を見ても何も感じない、きっとこいつらと同じになってしまったのかもしれない、だがそれでも止まることはしない――
今、思い起こされる記憶の断片、雪の中に流れる赤い液体は次第に黒ずみ、やがて雪に埋もれて行く。
「そうだ...ここだ...」
村は焼かれ、人は無惨な姿。これを忘れてはいけない、忘れられる筈もない、あの朝はもう二度とは戻ってこない...。
雪が積もる地面を何度も踏みしめ歩きながら、一件の家の前へと立ち止まる...自分の家だ、昔...母さんと過ごした家。一人でもやっていける、そう母さんと約束したのに...――
狭くなった視界は再び自分の肉体に戻ったように元に戻った、その場にいたゴブリンは棍棒を捨てて逃げ去る。ゴブリン見送ると、キリカの所へと戻った。
「シエルダ...また...」
血に濡れた剣とシエルダを見てキリカはそれ以上の言葉を話さない、落とした布袋に剣をしまい、紐を縛りキリカを背負う。
「馬は諦めてくれ、こいつはどうにもならないんだ」
光が消え掛けている彼の目は何処か遠くに心を置いていってしまったようにも見えた。
「なんだか良くはわからねぇが、好機だ!」
盾にされた仲間を、その太い腕ではね除け、棍棒でシエルダの頭部を殴り付ける。
シエルダの頭部から僅かに血は跳ね、凸凹のこん棒に付着した。
「ぐあっ...!ぐぅっ...」
出血した頭部よりも、何より手の平の方が遥かに痛みを感じる、血管に熱せられた鉄を直接打ち付けられているような痛み、手の甲に刻まれた刻印からは血が少しずつ流れ、その血を見るたびに意識が飛びそうになる程の恐怖と激痛を感じた。
「なんだっ!こ...れはっ....!」
シエルダは腕を抑えながら踞る。頭部の傷で飛びそうになる意識ですらも痛みで引き戻されてしまう。
「こいつ、このままでも死ぬんじゃねえか?」
一匹のゴブリンがそう呟くのが聞こえた。死ぬのか、俺は...何もできていないじゃないか、モンスターの事も、村の事だって、そうだ...村だ、奴等に焼かれた村だ、この痛み、皆もこんなに熱かったのか。
涙が溢れる、しかしそれは腕が痛いからではない、心が痛いから。あの日、あの寒空で焼かれた皆の事を思うととても心が苦しく絞めつけられる。
ザッ――
右足が地面を踏み込む音と共にボトリと目の前に首が落ちる、ゴブリンの首だ。そうだ、殺らなければ、殺らなければ...。
「......殺らなければ...」
起き上がるシエルダに三匹のゴブリンが一歩、退く。手の平の熱は冷めることは無く、其れ処か更に熱くなっている、だがそれも今のシエルダには業を煮やす為の途中経過にしかならない。
ゴブリン達の目の前には無惨に切り裂かれ地面に伏しているゴブリンを更に一撃、確実に殺すように傷口に深く剣を差し込むシエルダの姿が映る。
「裂いて、斬り伏せてぇ、蹂躙する!」
馬乗りになり、喉を鋭い刃先が突き刺す。ゴブリンの口からは血が溢れ、外へと流れ出るが、シエルダは死体を見ても何も感じない、きっとこいつらと同じになってしまったのかもしれない、だがそれでも止まることはしない――
今、思い起こされる記憶の断片、雪の中に流れる赤い液体は次第に黒ずみ、やがて雪に埋もれて行く。
「そうだ...ここだ...」
村は焼かれ、人は無惨な姿。これを忘れてはいけない、忘れられる筈もない、あの朝はもう二度とは戻ってこない...。
雪が積もる地面を何度も踏みしめ歩きながら、一件の家の前へと立ち止まる...自分の家だ、昔...母さんと過ごした家。一人でもやっていける、そう母さんと約束したのに...――
狭くなった視界は再び自分の肉体に戻ったように元に戻った、その場にいたゴブリンは棍棒を捨てて逃げ去る。ゴブリン見送ると、キリカの所へと戻った。
「シエルダ...また...」
血に濡れた剣とシエルダを見てキリカはそれ以上の言葉を話さない、落とした布袋に剣をしまい、紐を縛りキリカを背負う。
「馬は諦めてくれ、こいつはどうにもならないんだ」
光が消え掛けている彼の目は何処か遠くに心を置いていってしまったようにも見えた。
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