魔法少年の自由奇行

パルパス・パンプルドア

007

 放課後になる学校を出て僕は人気のあまり無い場所へと移動した。建物のどこからも死角になる小さな隙間に入り込むんだ。

 僕は秘密の研究室へと跳ぶ為に魔法の鞄越しに魔力をマジックアイテムに込めた。魔力を込めたマジックアイテムの名は転移の扉と呼ばれている。対になった扉同士であれば距離に関係なく転移する事が出来るという優れものだ。

 魔力の補充は終わった。秘匿の結界と認識阻害の結界、後は隠蔽の結界もついでに張る。

 そして魔法の鞄に身体を入れた。

 残されたのは複数の結界と魔法の鞄だけだった。







 
 僕は今主に3つのことを研究している。

 1つ目は分身の術だ。これは古の時代にいたという。伝説の忍者と呼ばれるものたちの使う忍法という魔法に似たものらしい。もし使えれば。…ふっ、そっちは分身だよ。とか言えるかもしれない。浪漫なぁ。

 2つ目は長距離転移だ。短距離転移ならもう出来るが、短距離転移だと精々2・3キロ跳ぶのが限界だからだ。…何より、長旅は面倒だしね。

 3つ目は身体強化の魔法の改善である。より厳密に言えば自分に最適化するというべきだろう。…あれ使うと筋肉痛が酷いんだよね。僕インドア派だから。

 さて、正直言って研究は全く進んでいない。まあ今はレベルを上げて技量を上げる。ただただ真っ直ぐに、愚直に正攻法で鍛えるのが正解だからね。レベル500。それが今の僕の目標だ。

 せっかくここに来たのに何をするか思いつか無い。あ、そうだ久々に師匠と話をするか。

 そう思ったけどさて、師匠は今どこに置いてあるんだっけ?

 ああそうだ。確かあっちのテーブルの上…だったかな?まあ、違ってもこの部屋の中にはあるか。

 えーと、あ、あったあった。相変わらずボロくて汚い本だなぁ。
 そう思いながら本を開く。すると。

 【あー、わしゃー、一体いつぶりにめがさめたのかのぅ。さて一週間か、一月か、はたまた半年か。どれだと思うかのぅ。冷酷非道な弟子よ。少しは師匠孝行しても良いと思うんじゃがなぁ。】

 おじいさんの声が響いた。うん、うるさいね。よし閉じよう。

 僕は無言で師匠を閉じようとすると。また本から声が聞こえてきた。

 【まて、待つのじゃ。優しい弟子よ。何か聞きたいことがあったのでは無いか?折角だから聴かせてみよ。だからその両手を一旦引っ込めよ。】

 うわ、うぜー。でもまあ。こんな師匠でも僕に魔法や魔術を教えてくれた存在ではある。

 師匠は今から1000年くらい前の人で。当時の弟子に魂を本に封印されてしまった間抜けなんだよね。その弟子の気持ちが良く分かる。

 まあ、本を開いている間は意識があるけど閉じるとスリープモードになって頑丈なだけのただの本になる。

 その頑丈さはそれこそ僕の全力攻撃でもほぼノーダメージなくらいだ。自己修復機能まであるし。

 実は大量に魔力を注げば少しの間だけだが実体化して魔法や魔術を使うことが出来る。…必要量は大体僕の全魔力ぐらい。すごく燃費が悪い。

 まあ仕方がない。話をするか。元々そのために開いたんだし。あっ、そうだ。

 「師匠の時代のレベルが最も高い人は誰だったんですか?」

 丁度そんな話をアリスと今日したからね。ついでに師匠にも聞いてみようと思ったのだ。

 【ふん。そんなもの決まっておるだろう。儂じゃ。この儂こそが当時知らぬ者はいないと云われた。大賢者ヴィルバーじゃ…。】

 パタン。

 僕は死んだ魚のような目をしながら本を閉じた。

 ふぅー。なんか戯言を聞いたような気がするなぁ。うん。まあ、気のせいだろう。まー、もう一回チャンスをあげよう。

 僕は本当は嫌だなぁーと思いながらも流石にこちらから振った話の途中で閉じてしまうのは大人気ないような気がしてしょうがなくまた開いた。

 【なんじゃが質問に答えておったのに閉じるとは…。】

 僕はまた五月蝿いなぁ。と思い。半端無意識に本を閉じようとした。

 【ま、待て。今の話は本当じゃ。本当に儂が知る限り当時の世界最高レベルは儂じゃよ。レベル850の大賢者だったんじゃ。】

 はぁー、ここまで言うなら多分。本当だったのだろう。やっぱりレベルだけ高くてもダメだね。

 僕はいつも通り師匠を反面教師として何かを学んだ気がした。



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