プロローグ

 
「フンフッフフーン♪」

陽気な鼻歌と共にリズミカルに地を踏む足の音が聞こえる。
彼女の名はケルト･フィセルクシー･レイデン、周りからはレイと呼ばれている。

「今日は腕によりをかけてサンラビットのシチューを作っちゃうわよ〜!!」

可愛らしい高めの声で独り言を呟く。
レイは白く美しい華奢な腕をポケットの中に入れ、微かに青く光る鍵のような物を取り出す。

大きな木のドアの隅にある小さな穴にそれを挿入し、右に回す。
カチッと、小さな音と共にギギィと、古びた木が擦り合う音が辺りに響く。
三階建ての立派な木造建築の家、しかしそこには中世ヨーロッパのようなおしゃれさがしっかりとある。

「ただいま〜」

これにも、返ってくる言葉は無い。
しかし全く気にせずに一階のキッチンへ向かう。

キッチンに着くとレイは、自分が背負っていた小さなカバンを脇で抱え、中に手を入れる。
すると、どこにそんなものがあったんだと思わせるような、大きなオレンジ色をしたうさぎの様な物を木の板に置く。

「可愛く見えてきちゃったな…。
    どうしよ…。」

言葉ではそんなことを言いつつも、身体は壁にかけてある包丁に向かっている。
持ち手は木だが一つ大きな純白に輝く宝石が付いている。

銀の包丁をうさぎの様な物に降ろし、ストンと手応えを感じさせない音を鳴らす。
気づいた頃にはうさぎの様な物は頭と胴体で二つに分かれていた。

「相変わらず切れ味落ちないわね。
    ちょっと尊敬しちゃうわ。」

そんな下らないことを言いながらも慣れた手つきでうさぎの様な物を捌いていく。

「後はここを切れば…っと。
    よし、完成!!」
 
綺麗に裁かれたうさぎの様な物を、深い緑色の小さな鍋の中に入れていく。
鍋から視線を上にずらし、取っ手の大きな木の棚の戸を開ける。

中から取り出したのは純白の皿だ。

「お皿これでいいわよね…」

燃えるような紅い色をした目を細めて皿の裏まで目を通す。

そしてその皿をキッチンのテーブルに置こうとする。

と、その時!!
青い風がレイの周りに吹き荒れる。
風により腰まである紅い髪の毛が激しく揺れる。

「ふぇっ!?な、何これ!?」

突然の事で何が起きてるか分からないレイは言葉にならない悲鳴をあげる。

今まで吹き荒れていた風が急に弱くなり、目が眩むほどの強い光がレイを飲み込む。

「うわっ、眩しっ!!」

突如自分の乗っていた床が消え、浮く感覚が足から全身へと伝わる。
そして、ものすごいスピードで自分が動いているということが分かる。
  
「え？え？えぇぇぇ!?」

レイは何も無い空間を動き続ける。
すると頭上から聞き覚えのない声が聞こえる。

「お願い…私達を助けて…!」
「ふぇ？」

そして光が消えて行く。
そこには見たことも無いものが沢山置いてあった。
白い箱が壁際と天井に1つずつ。
壁際の物は冷の気、天井の物は暖の気と冷の気を感じる。        

そんなことを思ってると視界の端に何かがあることに気付く。

人だ。

人は人だ。そして男だろう。が、身なりが軽装だ。魔物に襲われたらどうしているのだろう。
と、突然その男が口を開く。

「だ、誰だお前!!!!」