Astral Beat
昔話
 小笠原諸島のとある島に、特殊災害対策局海洋哨戒隊本部がある。
 道中一悶着あったものの、それ以外の問題はなく、無事に到着した。
 
 「おい、嶺夜。」
 「何でしょう?」
 「いや、何でしょうってお前、〝それ〟で局長に会うのか…?」
 …今回、僕達をここに呼んだのは、他でもない、特殊災害対策局の局長。まあ、この組織のトップってことだ。
 そして、轍次が指摘したそれとは、僕の服装だろう。今、僕は……
 フリル地獄のゴシックロリータに身を包んでいた。
………………………。
 「殺せよ……いっそ殺せよ……。」
 これはまあ、あれだ。臓物ぶちまけの報いだ。
 前回怒らせたからね。千奈。あのあと、千奈の部屋に行ったら、これに着替えさせられて、
 『今日はその格好のまま生活してね。従わなかったら……まあ、わかるよね。これ以上恥晒したくないでしょ?』
 と脅された。逆らったところでろくな事にならないのは明白だし、怒らせてしまったのは事実だ。嶺夜は、そうして、この状況を甘んじて受け入れることにした。
 「いやぁ、しっかし、私のもサイズはある方だと思ってたのですが、嶺夜君には及ばなかったようですね♪ぎゅっとしてハスハスシてもいいですか?」
 そう彩香が言う。
 そう、このゴスロリは、彩香の私物だ。千奈がお仕置きを考えている際、彩香と会ってそれで提案されたそうだ。
 ちなみに、そのままでは入らなかったため、少し仕立て直してある。それ以上は言わない。
 てか、んなもん持ってくんじゃねーよ。
 嶺夜は大きくため息を付くと
 「まあいいさ、これについてはもう。これ以上の議論は意味がない。さっ、さっさと行きましょうか。待たせる訳にもいかないでしょう。」
 と轍次に声をかける。
 「まあ、お前がそれで良いなら良いが……。」
 轍次は困惑しながら、本部へと足を運ぶのだった。
 本部に入ってすぐ、受付のような所で轍次が話をすると、すぐにある部屋に通された。
 「こちらで局長がお待ちです。」
 そう言うと、受付嬢が扉をノックした。
 「失礼します。本土から第1班が到着致しました。」
  『どうぞ』
 このやり取りのあとに、扉が開けられた。
 「それでは私はここで失礼します。」
 そう言うと、受付嬢はすごすごと下がっていった。
 「皆、よく来てくれた。久しぶりだ。轍次、彰弍、千奈。」
 局長と言われた男は、三人に対しそう言うと
 「麻希、彩香、嶺夜、そして樹逸さんは初めまして。私は、特殊災害対策局の局長をしている聖海 永筰と言う者だ。よろしく。」
 「「「「よろしくお願いいたします。」」」」
  「私に対してそんなに固くならなくて良い。どうせただの肩書きだけだからな。偉いのは。」
 そう言うと、永筰は、秘書らしき人物を呼ぶと、その人に何か指示を出す。
 「それじゃあ、皆に使ってもらう部屋には彼が案内するから。あと、神崎兄弟は少し残ってもらえるかい?」
「さて、先に、君達に返さなければいけないものがあった。」
 永筰は、おもむろに立ち上がると、部屋の奥の棚の中から、一振りの西洋剣を取り出した。
 「これは〔デュランダル〕。君達の父親の形見の異能聖遺物だ。」
 「デュランダルってことは、北欧神話の武器ですか。」
 嶺夜は、その剣を受けとり、観察した。
 飾り気は少ない白がベースの鞘に、銀色に光る鍔。そして黒い柄の剣だ。
 嶺夜はそれを抜こうとして……抜けなかった。
 「あり?何か抜けないんですが。」
 うぬぬぬ と再度力を込めるが、びくともしない。
どれだけ力を込めようと、刀身を見ることは出来ない。
 と、永筰が俯いて小刻みに震えている。
 「………あの?」
 「いやぁ、悪い。少し昔の事を思い出していてね。あまりにも君の反応が、君の母親そっくりだったもんだから。」
 永筰は深く息を吸って気持ちを落ち着かせると
 「君達の母親、小夏も、君達の父親、斎の剣を抜こうとして、顔を赤くしていた。……適正がある者にしかそれは抜けない。適性があるのは樹逸さんかな。」
 正直、嶺夜は幼い頃に両親を亡くしたので、あまり実感が無いのだが、樹逸は何か感慨深いものがあるのだろう。
 「嶺夜、ちょっとそれ貸してくれ。俺も抜いてみる。」
 
 嶺夜は樹逸に剣を渡す。樹逸は、一呼吸おいて柄に手を掛ける。そして、そのまま剣を引き抜き刀身を露にした。
 「おー。」
 「うん。それはやはり君が持っていたほうが良いだろう。」
 そう言って、永筰はうなずく。どうやら、デュランダルは樹逸が適性を持っていたようだ。
 「これ…貰ってしまっても良いんですかね?第一、抜けても扱えないし、法律とか…。」
 
 「まあ、勿論、それは君の純粋な異能力ではないから、刀剣類として所持のために登録させてもらうよ。君も職場があるし、こちらから勧誘とかはしない。それ自体奪っても意味の無いものだから狙われることも無いだろう。」
 連中もそれぐらいはわかるだろうし、安心してくれ。インテリアとして飾ってくれたら良いさ。と、おどける様な仕草をする。
 「ああ、あとこれも話しておこうと思ってたんだ。」
 
 永筰は少し間を開けると
 「まだ、彼ら…斎と小夏がいた頃の、昔話を少しだけしようか。」
 それは、今から約二十年前に遡る。当時は私は彼らと同じ班にいた。
 私はいつものごとくデスクで最近起こった異能関連の事件について書類にまとめていた。
 「おっすおっす、永ちゃん今日も頑張るねぇ。そんな永ちゃんに、超絶美少女な私からご褒美を上げよう!」
 そんな舐めたことをほざいて、白髪と赤い眼が特徴的な少女はこちらに熱いコーヒー缶を投げてきた。
 私は、それを受け取ると
 「よく言う。お前、巷で何て呼ばれてるか知ってるか?」
 「天使系美少女小夏ちゃん?」
 「破壊の鬼だよ。」
 この少女、小夏は、世界最強の異能力と言われる【Astral beat】と言う、通称アストルシリーズの頂点の異能を持つ。
 とは言っても、能力は半分しか使えない。其が、
Ω回路と言う、破壊と終焉を司る霊脈の力を行使するものだそう。もう一つ、対となるα回路というのがあるそうだが…。
 破壊の鬼という二つ名も、Ω回路の能力によるものだ。
 「ダニィ!?こんないたいけな少女捕まえといて、それは酷すぎません?」
 「そう思うなら、もう少し慎み深い行動を心掛けろ。」
 そのとき、ちょうど部屋に入ってきた人物が、小夏の文句にそう突っ込みを入れる。
 「なっ!?斎まで!ひどいなぁ、もう知んなーい。バーカ」
 そう言ってプリプリと怒って部屋を出ていく小夏。その背中を見送りながらため息を付く斎。
 「あれでも十六の娘だろうに。もっと落ち着かないものか…」
 「お前もあの娘と二つしか離れて無いだろ。」
 その言葉を聞き流し、私のパソコンを覗きこむ斎。この男は、小夏ほどとはいかないが、かなり強い異能力者である。デュランダルと言う絶対に傷付かない西洋剣を顕現させて戦う。剣術も履修している。ちなみに、両者とも神格をもつ。
 「あー、これ、今回の奴ね。ったく、毎度毎度異能犯罪者は飽きないね。こちとらもみ消すのに苦労するってのに。」
 「ああ。全くだ。」
 そんな事を話ながら、私は、これからも、このような日常が続けば…と思っていた。
決して安全とは到底言えないが、この、仲間と他愛の無い会話を交わして、仕事をこなしていく生活が私は気に入っていた。
 だが、現実と言うものは非情なものなのだ。
          ~落書き~
此処までAstral Beat を御愛読して下さった読者様、誠にありがとうございます。奈園です。
 去年の三月ぐらいから、ダラダラと続けてきたこのシリーズも、もう一周年を過ぎてしまいました。
 途中、何度も弱失踪を繰り返していたのにも関わらず、此処まで付いてきて下さった読者様には、感謝しかありません。
 この作品、『アスラト』は、まだまだ序盤。なので、これからも誠心誠意真心込めて、途中失踪しながら、皆様に楽しんでもらえるような、私が書きたいものを書いていきたいと思っているので、これからもよろしくお願いいたします!
 道中一悶着あったものの、それ以外の問題はなく、無事に到着した。
 
 「おい、嶺夜。」
 「何でしょう?」
 「いや、何でしょうってお前、〝それ〟で局長に会うのか…?」
 …今回、僕達をここに呼んだのは、他でもない、特殊災害対策局の局長。まあ、この組織のトップってことだ。
 そして、轍次が指摘したそれとは、僕の服装だろう。今、僕は……
 フリル地獄のゴシックロリータに身を包んでいた。
………………………。
 「殺せよ……いっそ殺せよ……。」
 これはまあ、あれだ。臓物ぶちまけの報いだ。
 前回怒らせたからね。千奈。あのあと、千奈の部屋に行ったら、これに着替えさせられて、
 『今日はその格好のまま生活してね。従わなかったら……まあ、わかるよね。これ以上恥晒したくないでしょ?』
 と脅された。逆らったところでろくな事にならないのは明白だし、怒らせてしまったのは事実だ。嶺夜は、そうして、この状況を甘んじて受け入れることにした。
 「いやぁ、しっかし、私のもサイズはある方だと思ってたのですが、嶺夜君には及ばなかったようですね♪ぎゅっとしてハスハスシてもいいですか?」
 そう彩香が言う。
 そう、このゴスロリは、彩香の私物だ。千奈がお仕置きを考えている際、彩香と会ってそれで提案されたそうだ。
 ちなみに、そのままでは入らなかったため、少し仕立て直してある。それ以上は言わない。
 てか、んなもん持ってくんじゃねーよ。
 嶺夜は大きくため息を付くと
 「まあいいさ、これについてはもう。これ以上の議論は意味がない。さっ、さっさと行きましょうか。待たせる訳にもいかないでしょう。」
 と轍次に声をかける。
 「まあ、お前がそれで良いなら良いが……。」
 轍次は困惑しながら、本部へと足を運ぶのだった。
 本部に入ってすぐ、受付のような所で轍次が話をすると、すぐにある部屋に通された。
 「こちらで局長がお待ちです。」
 そう言うと、受付嬢が扉をノックした。
 「失礼します。本土から第1班が到着致しました。」
  『どうぞ』
 このやり取りのあとに、扉が開けられた。
 「それでは私はここで失礼します。」
 そう言うと、受付嬢はすごすごと下がっていった。
 「皆、よく来てくれた。久しぶりだ。轍次、彰弍、千奈。」
 局長と言われた男は、三人に対しそう言うと
 「麻希、彩香、嶺夜、そして樹逸さんは初めまして。私は、特殊災害対策局の局長をしている聖海 永筰と言う者だ。よろしく。」
 「「「「よろしくお願いいたします。」」」」
  「私に対してそんなに固くならなくて良い。どうせただの肩書きだけだからな。偉いのは。」
 そう言うと、永筰は、秘書らしき人物を呼ぶと、その人に何か指示を出す。
 「それじゃあ、皆に使ってもらう部屋には彼が案内するから。あと、神崎兄弟は少し残ってもらえるかい?」
「さて、先に、君達に返さなければいけないものがあった。」
 永筰は、おもむろに立ち上がると、部屋の奥の棚の中から、一振りの西洋剣を取り出した。
 「これは〔デュランダル〕。君達の父親の形見の異能聖遺物だ。」
 「デュランダルってことは、北欧神話の武器ですか。」
 嶺夜は、その剣を受けとり、観察した。
 飾り気は少ない白がベースの鞘に、銀色に光る鍔。そして黒い柄の剣だ。
 嶺夜はそれを抜こうとして……抜けなかった。
 「あり?何か抜けないんですが。」
 うぬぬぬ と再度力を込めるが、びくともしない。
どれだけ力を込めようと、刀身を見ることは出来ない。
 と、永筰が俯いて小刻みに震えている。
 「………あの?」
 「いやぁ、悪い。少し昔の事を思い出していてね。あまりにも君の反応が、君の母親そっくりだったもんだから。」
 永筰は深く息を吸って気持ちを落ち着かせると
 「君達の母親、小夏も、君達の父親、斎の剣を抜こうとして、顔を赤くしていた。……適正がある者にしかそれは抜けない。適性があるのは樹逸さんかな。」
 正直、嶺夜は幼い頃に両親を亡くしたので、あまり実感が無いのだが、樹逸は何か感慨深いものがあるのだろう。
 「嶺夜、ちょっとそれ貸してくれ。俺も抜いてみる。」
 
 嶺夜は樹逸に剣を渡す。樹逸は、一呼吸おいて柄に手を掛ける。そして、そのまま剣を引き抜き刀身を露にした。
 「おー。」
 「うん。それはやはり君が持っていたほうが良いだろう。」
 そう言って、永筰はうなずく。どうやら、デュランダルは樹逸が適性を持っていたようだ。
 「これ…貰ってしまっても良いんですかね?第一、抜けても扱えないし、法律とか…。」
 
 「まあ、勿論、それは君の純粋な異能力ではないから、刀剣類として所持のために登録させてもらうよ。君も職場があるし、こちらから勧誘とかはしない。それ自体奪っても意味の無いものだから狙われることも無いだろう。」
 連中もそれぐらいはわかるだろうし、安心してくれ。インテリアとして飾ってくれたら良いさ。と、おどける様な仕草をする。
 「ああ、あとこれも話しておこうと思ってたんだ。」
 
 永筰は少し間を開けると
 「まだ、彼ら…斎と小夏がいた頃の、昔話を少しだけしようか。」
 それは、今から約二十年前に遡る。当時は私は彼らと同じ班にいた。
 私はいつものごとくデスクで最近起こった異能関連の事件について書類にまとめていた。
 「おっすおっす、永ちゃん今日も頑張るねぇ。そんな永ちゃんに、超絶美少女な私からご褒美を上げよう!」
 そんな舐めたことをほざいて、白髪と赤い眼が特徴的な少女はこちらに熱いコーヒー缶を投げてきた。
 私は、それを受け取ると
 「よく言う。お前、巷で何て呼ばれてるか知ってるか?」
 「天使系美少女小夏ちゃん?」
 「破壊の鬼だよ。」
 この少女、小夏は、世界最強の異能力と言われる【Astral beat】と言う、通称アストルシリーズの頂点の異能を持つ。
 とは言っても、能力は半分しか使えない。其が、
Ω回路と言う、破壊と終焉を司る霊脈の力を行使するものだそう。もう一つ、対となるα回路というのがあるそうだが…。
 破壊の鬼という二つ名も、Ω回路の能力によるものだ。
 「ダニィ!?こんないたいけな少女捕まえといて、それは酷すぎません?」
 「そう思うなら、もう少し慎み深い行動を心掛けろ。」
 そのとき、ちょうど部屋に入ってきた人物が、小夏の文句にそう突っ込みを入れる。
 「なっ!?斎まで!ひどいなぁ、もう知んなーい。バーカ」
 そう言ってプリプリと怒って部屋を出ていく小夏。その背中を見送りながらため息を付く斎。
 「あれでも十六の娘だろうに。もっと落ち着かないものか…」
 「お前もあの娘と二つしか離れて無いだろ。」
 その言葉を聞き流し、私のパソコンを覗きこむ斎。この男は、小夏ほどとはいかないが、かなり強い異能力者である。デュランダルと言う絶対に傷付かない西洋剣を顕現させて戦う。剣術も履修している。ちなみに、両者とも神格をもつ。
 「あー、これ、今回の奴ね。ったく、毎度毎度異能犯罪者は飽きないね。こちとらもみ消すのに苦労するってのに。」
 「ああ。全くだ。」
 そんな事を話ながら、私は、これからも、このような日常が続けば…と思っていた。
決して安全とは到底言えないが、この、仲間と他愛の無い会話を交わして、仕事をこなしていく生活が私は気に入っていた。
 だが、現実と言うものは非情なものなのだ。
          ~落書き~
此処までAstral Beat を御愛読して下さった読者様、誠にありがとうございます。奈園です。
 去年の三月ぐらいから、ダラダラと続けてきたこのシリーズも、もう一周年を過ぎてしまいました。
 途中、何度も弱失踪を繰り返していたのにも関わらず、此処まで付いてきて下さった読者様には、感謝しかありません。
 この作品、『アスラト』は、まだまだ序盤。なので、これからも誠心誠意真心込めて、途中失踪しながら、皆様に楽しんでもらえるような、私が書きたいものを書いていきたいと思っているので、これからもよろしくお願いいたします!
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