Astral Beat

奈園 緋兎

やはり市街戦対策は必要なのでせうか。


 「……嶺…夜?」


  鮮血が吹き出す。

 やはり、簡易硬化では貫かれてしまう。


 「上月さん!!あいつ、嶺夜、刺さって、ち、血が!」


 突然の出来事に咲樹がパニックに陥る。


 「なあ、これって使って良いよな?公衆の面前だが。」


 「良いんじゃない?てか、ギリギリ……。盾役ありがとー。」


 普通に話し出した嶺夜に、寸前で止められた刃尾を見ながら彩香が答える。


 「ゲート開けよ。」


 「反射神経よくないから。ごめんなさい。」


 さらに普通に会話を続ける二人を見て、咲樹はますます混乱する。


 「え、な、は?だ、大丈夫なの?」


 「すっごく痛いただそれだけだ。」


 咲樹の脳内は、疑問符を量産するだけで思考がまとまらない。

 
 「うっし。んじゃあ此処から抜けますか。」


 嶺夜が、刃尾から抜けようと身をよじった時、それは向こうから抜けた。

 下手によじっていたため、必要以上に腹が裂けて、大量の血液とともに臓物が零れ出る。


 「あー。」


 「いや、さっさと複製してよ。そろそろこの子限界よ?」


 「あー、わりい。」


 嶺夜は、そう答えると、能力を発動させる。

 先程までて負った傷はたちどころに治り、姿が少年から、アルビノの少女になる。


 「……………!?」


 咲樹は、今目の前で起こった現象に対して言葉が見つからなかった。


 「後は任せて貴女は安全な場所まで逃げて。」


 彩香が言う。


 「あ、えっと、は、はい!」


 そう言って咲樹は立ち上がると、走り去った。


 「んじゃ、一狩りいかうぜ!」


 



刃尾を巻き取り、支えを失った榎本は、そのまま落下する。

 そのまま地面に叩きつけられるが、何事もなかったかのように立ち上がる。


 「……何か、不穏な感じがします。」


 「奇遇だな。僕もだよ。」


 先程から今に至るまで、地面に叩きつけられた時でさえ一言も喋らなかった。

 そして昨日より精度、威力、質、全て段違いの攻撃。

 これは……

 
 「…あれって、増強剤やった感じ?」


 彩香も同じ考えのようだ。


 「だろうな。いきなり強くなり過ぎだ。」
 

 増強剤とは、文字通り異能を一時的に強化するものだ。

 元は、単一恩恵型や、限定解放型など、J~Gまでのランクの比較的弱い異能力者のために開発された薬品だが、いきなり強化させた能力の負荷に耐えられずに、死亡したり、異常活性して異能力新成生物に変態する事故が多発したため、製造禁止になった。

 事故が起こった時の初期症状は、思考の停止からの暴走。

 そこから変態か死亡。

 あれが増強剤でドーピングしたとしよう。

 するとどうだろう


 「さっきから一言も話さないのを思考の停止と捉えて、しっぽが増えたのを変態とするとあれってやっぱ」


 「耐えきれずにってやつですね。」


 榎本が少し動き、攻撃を仕掛けてきた。


 「おわっ!」


 嶺夜は、咄嗟に蒼桜器を取り出すと、刃尾を弾く。

 彩香もゲートで軌道を反らした。


 「ア゛、ア゛、ア゛、かァ」


 榎本が奇声を発し、複数の尾を打ち出す。


 「チッ、避難状況はどうなってんだ?」


 「む~。司令塔から連絡がないですね。適当にぶん回せば良いのでは?」


 尾が迫る。


 「中段の構チュウダンノカマエ参式ミシキ月円転ゲツエンテン!」


 地面を蹴り、高速回転で尾を全て切り飛ばす。


 「彩香!お前は周囲の避難誘導を!」


 「大丈夫!?」


 「売られた喧嘩は、買うのが礼儀だぁ!上段の構ジョウダンノカマエ壱式ヒシキ〆斬シメギリ!」


 彩香に答えながら、メの字に刀を振り、刃尾を切り払う。


 「さっきから叫んでるの何?」


 「やってみたかった。」


 「あいわかった。そっちは任せる。」


 


 
 「さてと。これで心置きなくやりあえんな。」


 改めて榎本と対峙する。

 というか、今まで適当に攻撃を流していたが、そういえば戦闘中だったな。

 嶺夜は、刃尾を避けながら榎本に近づく。

 が、そう上手くはいかない。

 避けてもそのまま反ってくるし、斬り飛ばしても再生速度が速く、らちが明かない。


 (たくネチネチネチネチと。このままだとスタミナ切れするな。…焼けば良いかな。)


 嶺夜は、蒼桜器に霊力を送り、炎属性を付与する。

 そのまま迫って来るしっぽの弾幕に、


 「【ふぁいあ~】」


気の抜けた詠唱とともに 燃え盛る刃を叩き込んだ。


 「カ、ア゛ア」


 榎本が奇声を発する。

 攻撃が効いていると見て間違いないだろう。


 「おっ。やっぱ再生してないな。」


 だが、時間が経てばまた再生されるだろう。


 「さて、どう攻めようか。」


 そう呟き、再び構え直す。





彩香は、逃げ遅れた人がいないか交戦地点周辺を探索している。


 「おう、やってんな。」


 彩香は、声の方に振り向く。そこには、轍次が立っていた。


 「あっ、班長。」


 「どうなった?」


 「今、榎本と嶺夜君が交戦中。榎本は、増強剤を使っていると思われます。症状が出ていたので。私は周囲を探索して、避難誘導を。」


 彩香は状況を説明する。


 「そうか。実は、こっちの司令塔の通信がやられててな。」


 「というと、あれにブツを渡したのと同じものなのでしょうか?」


 「おそらく。」


そこで轍次は、少し間を開けると


 「まあいいさ。突っ込んで来たのは嬉しい誤算。パロトンが何であれ、榎本はここで仕留める。そのためにあれを引っ張り出してきたからな。」
 



 街の壊れた一画に、金属がぶつかり合う音が響く。

 榎本の弾幕を出来る限り焼き、少しでも近付こうとするが


 (ちくせう。こいつ、どんどん速くなってやがる。)


 攻撃、再生の速度が、先程から上がり続けている。

 それに、少しずつだが、形も変わってきて、今では、皮膚が金属のような感じになっている。


 「さっさと終わらせるか。」


 そう言うと、嶺夜は刀を鞘に納め、柄に手をかけ、腰を低く落とした構えを取った。


 「…下段の構ゲダンノカマエ伍式ゴシキ吹雪狂乱舞フブキキョウランブ!」


 地面を蹴り、回転しながらステップを踏み、弾幕を切り払いながら接近する。

 そして、間合いに入る。


 (よし、今だ!)

 
 嶺夜は榎本の首に刃を振るう。

 が、

 
 「は?」


 キィィンと高い音をたてて、〝刃が擦れた〟。


 (蒼桜器が弾かれた…?勢いは付いていたはず。)


 嶺夜が動揺した隙をつき、榎本がカウンターを仕掛ける。

 攻撃を正面からくらい、反対側まで吹き飛ばされる。


 「ガハッ、ゲホッ。あってぇ。」


 瓦礫から体を起こすも、すでに追撃が迫り避けようがない。


 「【落水】!」


 と、そこに、突然大量の水が降ってきた。

 見上げると、大きな両刃斧を持った麻希がいた。


 「おわお。」


 「や、おわおって何さ。」


 「あーと、攻撃術は初めて見たなとか、その斧はなんだとか、唐突に出てきたなとか。」


 「……吹っ飛ばされたのに、超絶ヨユーブッこいてるねー。」


 「まあ、傷一つないですし?」


 榎本が起き上がったところに拳を叩き込み、ぶっ飛ばして答える。


 「まーいーや。はいこれ、支給品です。」


 「…何これ。USB?」


 渡されたのは、直方体のデジタル記憶媒体。


 「…うん。紛うことなきUSBだな。これを僕にだうしろと。」


 「その中のデータ、〔飛行機装ジェットギア〕をダウンロードですッ。(キリビシィ)(*`・ω・)ゞ」


 「はぁ?」


 何を言っているんだ?こいつわ。

 コンピュータを複製して複製しろってか?

 出来ないことは無いが。

 嶺夜は、腕を開き肉の中に端子の挿入口を複製した。

 そこにUSBを挿し込む。

 そして腕を閉じるとデータを解析して読み込む。


 (デジタルも全然大丈夫なのか。)


 解析が終わり、データを元に機装ギアを錬成する。

 異能発動させると、生体と機装が融合する。


 「…いや、なんだこれ。」


 全身鎧に、ジェットの付いた翼竜と飛行機を足して二で割ったような翼の装備である。

 ちなみに、女性キャラの良くある兜無しや、ライン丸出しや、装飾ゴテゴテみたいな物ではなく、凹凸の少ない、滑らかな表面のものだ。

何か、ライダーみたいな兜だな。


 「おおっ。成功したみたいだね。」


 榎本を抑えていた麻希が言う。


 「何?」


 「それは、前にいたアストラルシリーズの能力者の【機装端末ギアメモリー】。君も使えると思って。それで霊力の出力を押さえられるし、アストラルシリーズには無い飛行能力がつけられる。」


 「…アストラルシリーズ?」


 「後で説明する。それよりさっさと終わらせちぁってー。」


 麻希が後ろに飛び退く。


 「ほら。」


 嶺夜は、霊力を蒼桜器と、飛行機装に回す。

 榎本は、刃尾の数をさらに増やし、それで嶺夜を取り囲む弾幕を作った。


 「…ほう…。あくまで狙いは僕だけってか。」


 嶺夜は、先程より少し出力を上げて技を繰り出す。


 「【逆式風車ギャクシキカザグルマ】」


 刀を左手に持ち変え、月円転とは逆に回転をかけ、刃尾を切り払うと、霊脈操作で空中に足場を作り、それを踏み込むと同時に両翼のジェットを起動して、榎本に突っ込む。

 そして、榎本の首に刃を立て、勢いで切り飛ばす。

 吹き上げる鮮血を引き、少し先に着地する。


 「おっ。殺りますねぇ。」


 「ッたく。無駄に硬かったな。」


 嶺夜は、飛行機装を解除すると、USBを取り出す。

 
 「「ッ!?」」


 嶺夜と麻希が同時に反応して死骸の方に向く。

 と、死骸が膨らみ、裂けて肉と鉄が散らばる。


 「ねぇ、あれって…。」


 「天羽々斬が本格的に欲しくなったな。」


 榎本の残骸の中に立つ影。

 それは、八又の首を持つ大蛇。

 古代日本の神話生物であり、畏怖の象徴。


八岐大蛇ヤマタノオロチだった。

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