survival friends

シンサイ

エピソード2

いつのまにか、自分の分を食べられていたのに、気づけなかったタケシは、アヤメに軽く謝られただけですんなりと許した。許すしかなかったというのが正確だ。見惚れていたという理由は呆れるほどの間抜けと言えるのか、タケシは、空腹のまま地震発生から2日目の夜を迎えようとしていた。今日は、とても非現実的な1日だった。中高を共にした友人達を失ったいとう意味もある。そして、信じられないような体験もあった。まだ、今日のことを、整理しようとは思わない。本当に今日のことを理解するという事は苦しみと言えるからだ。時間をかけて自分を納得させるしか無いだろう。タケシは、顔をしかめた。
「まだ、怒ってるの…?」アヤメは少し声が小さかった。
「いや、ちょっと今日のことを思い出してね。地震で親しい友達を亡くしたばかりだから、どうしても自分を整理できないんだ。」
「そうなの。安心した。」アヤメの声のトーンが上がった。
「…安心したって何だ?また土砂崩れが起きるかも知れないぞ?」
一方のタケシは緊張したまんまだった。
「そうじゃなくて、本当は自分がどうすれば良いかなんて分かってるでしょ?災害時における死因で孤独感と言うものがあるのも知らないの?」
「そうだな。」タケシは短く答えた。
自分でも、本当は理解していたので自分の中にある重石が取れた気がした。
そして一つ思った。それをアヤメに聞いて見ることにした。
「アヤメってどうして、そこまで人の心を理解できんだ?」
「そうね…アタシも昔友人と別れるという経験があったからね。その子ももう一生会えないけど、その時の気持ちが今のタケシを見ていると思い出すんだ。」
「…つまり俺はアヤメが昔、越えた壁にぶつかってるのか?」
なんだか、少し理解出来た気がした。
「今のタケシがぶち当たってる壁の方が高くて硬いと思うよ。その分脆いという事はあるけどね。」
「わかった。」今の「わかった」には理解したという意味だったがアヤメは気づかなかった。
丁度、夕陽が沈もうとしていた。
「もう、寝て明日に備えない?アタシ疲れた。」
猫のように仕草でアヤメは丸まった。正確には豹と言った方が正確だが。タケシは、アヤメの横で寝転がった。自分が疲れていたという感じがした。身体が無性に怠かったのだと今になって分かった。もしかしたら、俺を気づかってもう寝ようと言ったのだろうか。そんな事は聞いてはいけないと思ったが、アヤメに感心した。確か俺より年下だったはずだ。今年で高3になる歳だ。よく、こんな大自然の中で1人で生活できるのだろう。俺はいつのまにか深く熟睡した。目が覚めた時はもう日が昇りきった昼頃だった。朝寝坊も酷すぎる。
「おはよう!やっと起きた!」アヤメが昨日獲ったイノシシの肉を少し燻製にしていた。燻製させる事で長期間の保存を考えているのだろう。声が少し不機嫌そうなのはタケシが起きなかったからのようだ。起こしてくれれば良かったと思ってしまったのはタケシが自分に甘過ぎるからなのか。
「…おはよう。」タケシはアヤメの機嫌をとる方法が分からず、挨拶しか出来なかった。
だが、アヤメは機嫌を取り戻した。ただ、寂しかっただけのようだ。
「朝昼兼用で用意するからちょっと待っててね。」アヤメは「お母さん」というのがよく似合う程人の世話を焼く。
「自分でやるからいいよ。」
少しすまない気持ちになった。アヤメは首を振って楽しそうに団扇で手作りの燻製機に風邪を送っていた。タケシは自分の荷物から団扇を取りアヤメの元によって燻製機に空気を送る手伝いを始めた。すると、アヤメは立ち上がりタケシに歩み寄った。タケシは気が付かず、風を送り続けている。アヤメはストレートにタケシの首に巻きついた。
巻きついたというよりエルボーと言った方が合う。
「ゲホッ!ゲホッ!」
すぐにタケシはアヤメの腕を解いた。
「何すんだ。」
「何すんだって言われても、これ以上やり過ぎると味を損なうのにアンタが団扇を扇いでいるからでしょ。」
アヤメの後に続き竪穴住居に入った。
アヤメはサッサと籠から野草を取り出し、出来立ての燻製をのせタケシに渡した。
「……悪い。ちょっと考えが回らなかった。」
タケシは謝った。本当はエルボーを決めたアヤメが謝るべきだという状況だった。
それなのに謝ったのは、タケシと言うことにアヤメは少しすまなさそうな顔をした。タケシはアヤメに渡された燻製を豪快に食べた。野草は、昨日のものとは違い採ったばかりだとよく分かった。タケシにとって今は最早サバイバルではないと分かった。だが、こういう時にやってくるものがある。本震とほぼ同様な激しい揺れがタケシ達を襲った。
咄嗟の判断でこの竪穴住居が揺れ耐えれないと悟った。その時、組まれていた天井が崩壊を始めた。タケシは揺れのせいで立つことが出来なくなっているアヤメの上に覆いかぶさった。
強烈な痛みを肩に感じたが、なんとか耐えられることができた。日光が瓦礫の隙間から見えた。空間がある証拠だ。だが、タケシは今それ以上に大変な状態になったいると分かった。アヤメを庇おうと覆いかぶさったのが少し間違っていた。自分の状況を飲み込んだのかアヤメはタケシにとてつもないビンタを炸裂させた。だが「変態!」や「助平!」とタケシを罵倒するような事はなかった。タケシには女子に覆いかぶさって喜ぶという性癖は完全に持ち合わせていないという訳ではなかったので、そのビンタの意味をしっかり理解していた。アヤメは、一瞬の怒りでタケシをビンタしたが、タケシが自分を助けようとしてくれたことは、分かっている。ただ、理由はともかく、タケシに対する感情は羞恥にまみれていた言う事は言うまでもない。タケシは現在の状況を打開しようと思考を張り巡らしたが自分が迂闊に動くのは不可能だと瓦礫に囲まれた時から分かっていた。自分に落下してきた大破した木材が直撃したという事から窮屈な状態だった。空気を確保する必要は必要なかったが、このままでは危険だということがタケシを奮い立たせた。アヤメに「準備して。」とタケシは伝えた。
タケシは火事場の馬鹿力と言わんばかりの力で強引に自分達の上にあった瓦礫をどかした。肩が悲鳴をあげていた。強い打撲をしたまま力を使えば悪化するのは一種の常識とも言える。自分の身体が悲鳴をあげようとも瓦礫をどかしたのには、生きることに対する執着だ。

生きていられるなら自分の身体がぶっ壊れても「死ぬ」という事より比べられぬ程重要だ。生きるということは、自分が意思を持って行動出来れば自分にとって価値あることだ。身体の故障は「生きる」という現象が無ければ存在価値はないはずだ。
「生きる」ために、「守る」ために、怪我をして、または自己犠牲として最悪死ぬ場合。
「生きる」ということを放棄して自らの死を受け入れる場合。
どちらの方が災害時に適切であるかは、常識的に前者を選ぶことが適切ではないか。カッコ付けて死を恐れないのは、ただの馬鹿だ。死を認識しながら誰かの命を救うレスキュー隊の人達とは全く違う。レスキュー隊の人は死を恐れていないのではない。生きるという意志のもと他人を助けているのだ。その為には、自己犠牲となる場合があるが最後(最期)まで生きることに執着するだろう。

そんな事を昨日タケシはアヤメから教わっていた。だからこそ、今回の選択肢があったのだ。アヤメを瓦礫の外に出した時はもう、日は西寄りになっていた。あと2時間もすれば日は沈んでしまう事だろう。ここは、野生の動物がいる地域だ。瓦礫を少し退かし中にあるものを使うのが最善の手だろう。タケシは自分のバックから非常食を全て外に出していたことにかなりの後悔を覚えながら、自分のバックがあった場所の瓦礫をどかし始めた。アヤメは、家を失ったショックで座り込んでいたが、タケシが撤去を始めたことでそれに続いて、ボウガンの一式があった場所の瓦礫を退かしていた。夜になって野生動物がやってきた時の対策だろう。タケシの荷物が見つかった。タケシが使っているリュックサックだ。中に非常食が無いことが残念だったが、それは、忘れることにした。外で作っていた燻製がまだ残っていたというのありーそもそものイノシシのパーツも外で天日干しにしていたので食事は確保できそうだった。
ちょうどアヤメも自分の分のボウガンと矢を30本ほど見つけれた様だった。
「ちょっとテント作るから手伝ってくれ!」
「タケシの荷物にテントなんかあった?」
タケシからの頼みにアヤメは疑問を投げかけた。
「簡易テントなら一人部屋用だったらある。」
「そうか。分かった。私が寝袋は借りるよ?」
そんな会話を挟みながら小さなテントは無事に完成した。寝袋は、圧縮された状態のものが一つあった。平均的な男性が使う用だったので、アヤメが使うには少し大きく武が使うにはちょうど良いといったところだった。
その前に一つ言えることがある。前の住居で何故火災が起こらなかったのか?それは、タケシの寝坊にあった。アヤメは寝ている人のそばで火を使うことを嫌った。火の粉が散って起こしてしまう、火傷を負わせてしまう危険があったからだ。それが今回はたまたま良い方に傾いたのだ。明日のための火を起こす必要は無かった。タケシが持ち込んでいたライターがあるからだ。そもそも、簡易ガスコンロがあるので調理に薪を用いる必要はなかったが、それはアヤメが認めなかった。「もったいない」の流儀に従ったかのよう。だが今は緊急時だ。使えるものはなんでも使うというのが最善を尽くすという意味では最適な言葉であろう。夜中に無駄にガスコンロを消耗しないためのは今夜は明かりなしで寝るしか無さそうだ。いつのまにか寝袋は我が物顔で使いアヤメは寝そべっていた。タケシはそれを咎めることをせず静かな眠りについたのだった。

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