survival friends

シンサイ

エピソード1

俺(タケシ)は高校を卒業し、元クラスメイト達と山の中で野外キャンプをしていた。みんなで力を合わせ、木があまり生えていない場所に小さなキャンプを作った。日は沈みかけ、キャンプの定番カレーライスの匂いが香っていた。俺は、キャンプファイアの準備を終え切り倒した木の切り株に腰をかけ男子供と談笑していた。
「高校終わったけど、就職する奴はいる?」
自称進学校を卒業した人には間違った会話が話のメインだった。否が応でも大学に行くことを勧められるのが自称進学校を卒業した者の運命と言えるので間違ったと言っても問題はないだろう。留年する人もクラスの約3割程いた。自称進学校に通ったタケシは中高一貫教育を受けアルバイトの一つ体験したいない今時の若者だ。だが、タケシは、大学に行く気は無い。就職して働きたかったからだ。就職して趣味であるアドベンチャー レースを満喫しながら資格でも獲って安定した暮らしで良いと思っている。一応だが普通自動車免許と普通二輪免許は持っているのでカーシャアリングサービスを活用する事で充分働ける筈だ。
「俺は働くつもりだ。ハローワークにも行って就職先は確保してあるからな。」
和やかな雰囲気でみんなに打ち明けた。
俺は自分が働くという事をこれまで隠してきていた。だけど、いつか打ち明けようと先延ばしにしていたので、卒業しても伝える機会はなかった。今回が最後のチャンスである筈だから、伝えれて安心した。そして、俺の進路を皆んなが賛成してくれた。最高の友達だ。因みに、今作られているカレーはキャンプファイアとは少し離れた場所で作っている。女子達が鍋を運んできた。レトルトパックのご飯を温めているという事についてはご愛嬌といったところであろう。
紙皿にカレーが注がれ、勢いよくレトルトご飯をブッ込んでいる姿は最早男勝りであるのは察しが付くのであろう。俺達は日の入りが来た事でキャンプファイアに点火し、カレーライスを盛り上がりながら頬張っていった。
笑いが弾けいつのまにか、時計の針は12を跨いでいた。キャンプファイアの火が消え俺たちはテントの中に入っていった。そして、寝袋に丸まり恋話から始まって下ネタトークが交わされていった。当然ながら、同じテント内に女子はいない。今回は、キャンプに参加できる暇人やキャンプ好きで構成されている為、女子5人対し男子7人となったからだ。少々、男子がデカイ テントで窮屈にいるのだから、そんな所に入りたがる女子は普通居ないだろう。いたら予想される悲劇は数知れぬ事だ。その時だった。突如激しい揺れが襲った。軽く揺れだした時から合わせると30秒、体感で1分をこす長さだった。そして、雨の降る音が聞こえてきた。俺は下山をする事を視野に入れた。だが、今下手に動くという事は危険だ。せめて、来るときに付けた印が見える朝方からの出発がいいと思うのが今のタケシの感覚だった。
だが、直ぐに下山を考えた者は沢山いた。
「下山するか?!」そんな声を掛け合いながらパニックに陥りかけていた、否、陥っていた者達が大勢だったという方が適切だ。それは、一番危険な状況と言える。災害時に冷静さを失ってしまう人は多いが、それが死に直結するという事は言葉のあやではない。長い揺れのせいで冷静さを失うなという方が無理があるといえよう。タケシは皆を静かにさせるべく声かけを始めた。
「今焦って下山すると危険だ!」「まだ、大丈夫じゃ無いか!」「落ち着こうぜ!」
喉が枯れるほど叫ぶと落ち着きを取り戻していった。直ぐにテントの外に出て女子達の元にいった。女子達はまだ、パニックから抜け出せていなかった。だが、男子達が落ち着いているのを見て冷静さを取り戻した。これで、暴走する者は少なくなる筈だ。少し、安心した。明日には下山を開始すると伝えて、俺たちは自分たちのテントに戻った。雨が嫌な音を立てていた為、火を炊こうにも出来そうになかった。そういえば!タケシは慌てて、薪の元に走った。明日、脱出する時救助隊を見つけた時煙で合図をする為だ。鏡も一応あるが、晴れていないと役に立つとは言えない。薪を失うという事は救助を待つ上では致命傷と言えるだろう。うっかり、薪を出しっぱなしにしたまであった。薪は上の方に積まれていたものは湿ってしまっていたが、なんとか、下の方だけは無事であった。テントに戻った俺はラジオを聴き被害状況を確認した。周りには寝れない者が集まっていた。だが、そのせいで自力の脱出を決めることとなった。地上の被害が酷く救助に自衛隊が貸し出されているらしく山には捜査隊が送られていないという情報が与えられたのだ。待っていても救助されないという悪夢が俺たちを襲った。俺は明日のために寝れない自分を強制的に休ませることにした。疲れも溜まっていた為、案外早く寝れそうだった。だが自分の中で蠢く不安は的中する事となった。余震だった。ようやく眠りについた俺は叩き起こされるかのように目を覚ました。4時間程寝たようで、時計の針は朝の5時半を少し過ぎていた時であった。熟睡のお陰で俺のテントでは俺以外目を覚ましていない様子だった。女子の方を確認しに行こうと俺は外に出た。雨は寝る時以上降っていた女子のテントは静かなまんまだった。俺は自分の荷物をまとめ上げ地形図を確認して避難ルートを考えた。ラジオの情報では、俺たちの近くでは土砂崩れは起きていないらしいのでそれを信じて行動するしかない。
ガゴゴゴゴゴゴゴ………………
変な音がした。俺は荷物を持ち外に出て様子を確認した。俺たちの方に土砂崩れが起きていたのだ。
「逃げろ!!!!」
タケシは叫び来た方角と逆の向きで土砂をかわせる場所まで走りながら吠えるように叫んだ。だが、皆んなのテントは土砂に巻き込まれた。一緒にキャンプに来ていた人の名前を叫びまくった。反応は無かった。俺は後ろ髪を引かれる思いで1人、脱出を開始した。来た方とは別の向きに逃げてしまったので、ルートを考える必要がある。方位磁針と地形図を持ち俺は下山を開始した。山の山頂付近だったので出来るだけ最短ルートを選んだ。朝日が顔を出し霧が出てきたのだった。それは俺の気持ちを表したのか如く濁った白さであった。
その時俺は木の上で何かを見つけた。1人の少女だった。真っ直ぐと木の枝に立ち俺を見ていた。少女といっても、外見はタケシと同じぐらいの歳のように見えた。それなのに謎の威圧感があった。
「どうしたんだ!君は誰だ!」
俺は話しかける事にした。少女は木の枝から飛び降りた。高さは4mぐらいあったのでその行為には驚いた。少女は警戒心からなのかゆっくり口を開いた。
「ただ木に登っていただけよ。アタシはアヤメよ。貴方こそどうしたのかしら?」
硬い口調であった。
「アヤメさんか。俺はいま、下山するところだ。名前はタケシだ。」自己紹介を忘れかけ後から付け足す形となった。
「そう。タケシさんは下山するね。でもここからだと無理よ?」
アヤメはタケシのプランに重大な指摘と言える爆弾を投下した。
砕けた口調とは全く別の意味であるがタケシは理由を聞くことにした。
「なんでそれが言えるか教えてくれないか?」
アヤメは笑いながら答えた。その笑いは面白くて可笑しいと言ったところだ。
「中学を卒業してから2年この山で暮らしているけど、ここから下山する為にはさっき貴方が来た道を行くしかないわよ?この先は崖だしね。どうしてもなら、そこらにある木を避けて山に登って迂回するしか無いわ。でも、その先は迷路のようだから多分無理だと思う。」
アヤメの表情とは真逆の表情でタケシは言った。
「いきなり悪いけど、案内を頼めないか?どうしても下山したいんだ。」
初対面の相手には厚かましすぎる物言いだった。アヤメは少し表情を改め、タケシに言った。
「下山はオススメしないなぁ ちょっと場所を変えて救助を待つのが正解よ。アタシが知っている中で一番の安全地帯まで案内してあげるから救助を待ってごらん?アタシもついでに帰るけどね。」アヤメはタケシを逆に誘った。誘ったというより、会話が噛み合っていないのだが。タケシも経験があるので素直に従うと言う道を選ぶことにした。山で2年暮らした人が安全というならそれについて行くのが良いと考えたから。
アヤメがタケシに握手を求めるのか手を前に差し出した。その手をタケシは軽く握った。するとアヤメはグイグイとタケシを引っ張って行った。2人に友情が芽生え始めたのだった。そして2人はこれからの困難に立ち向かう決意を決めた。
アヤメが案内した場所は少し開けれていた。そこには、木で組まれた小さな小屋があった。小屋というよりは竪穴住居といったほうが正確であろう。
「あの家は何か?」タケシは答えを半分以上予測できながらも聞いてみた。
「アタシの家よ。竪穴住居だよ」タケシの予想のドンピシャの答えをアヤメは満面な笑みで答えた。その為、タケシは笑いを嚙み殺すのに少し苦労することとなった。
中に入ると、想像を超えたものがあった。手作り感が満載のクロスボウガンが2丁矢が500本を越すほど作られており、竹で作られたナイフや籠、下には毛皮が敷かれ中央部には火が灯っていた。そういえば、アヤメは腰にサバイバルナイフとマルチツールを持っていた。何かを集めていたのか。さらに、中には野草についての資料が沢山あり、中毒対策が伺える物が沢山あった。家出でここに住んでいるのだろうか。ここは、俺の叔父の土地だったので、入る前に報告はしたのだが、ゴミは捨てるなと言われた。どうして、ここまで堂々と竪穴住居を作っても気づかれないのだろう。ましてや、中にいる生物を獲って食べられていても気づかれないのか。俺は、あやめが入っていた事をどう考えようとも違法だと理解していた。俺はそんな事に足を止められる人間では無い。
アヤメが、俺に話しかけきた。話しかけられるといっても、ただの命令だった。
「悪いけどなんか外でイノシシの気配がしたからボウガンとナイフとロープの三点セットで捕まえてきて。」イノシシ狩りは人生で体験したことがない事だった。
タケシはボウガンを構えながら竪穴住居を出た。そこには、泥まみれになったイノシシが1匹いた。いきなりのご対面に腰を抜かされそうになったが、タケシはイノシシの頭目掛け矢を放った。矢は、真っ直ぐにイノシシの右の眼球を捉えることになった。うめき声を上げ、イノシシは退こうとした。死んでいないだと…タケシは第二の矢をセットした。イノシシが逃げようとした。タケシは咄嗟に引き金を絞った。鋭く飛んだやは、ついにイノシシを仕留める事に成功した。タケシは、仕留めたてのイノシシを担ぎ上げ竪穴住居の前まで運んだ。
「あっ。仕留めれたんだ。おめでとぉ。」棒読みでアヤメが歓迎してくれた。そして、担ぎあげられていたイノシシを木に吊るし豪快に内臓を掻き出し、血抜きをした。初めて見るイノシシの内臓は、少し刺激の強いものであった。タケシはアヤメの手捌きに感心していた。
この人、とんでもなく凄いな。年下には思えないな………
その時、タケシの腹が鳴った。そういえば、昨日のカレー以来何も食っていなかったな。
アヤメが笑っていた。タケシは、少し気恥ずかしいかった。
「お昼にしますね?」アヤメが自分の小屋に戻っていった。そして続くように中に入ると、アヤメは籠を漁っていた。そして、野草を取り出した。どれも生で食べられる物だった。
慣れた手つきでアヤメは野草を切りそして、葉っぱの上に盛り付けた。
「気休めかもしれないけど、何も食べないよりはマシよ?」アヤメが野草を盛り付けた葉っぱをタケシに渡した。
「いただくよ。ありがとう。」タケシはお礼を言って野草を味わいながら食べた。アヤメは、自分の物も用意すると直ぐに食べ終えた。タケシは、自分の荷物の中に非常食が入っていた事を思い出した。直ぐに、自分の荷物を開けて、中から缶製品を沢山取り出した。乾パンも多かった。アヤメがしれっと乾パンを一つつまみ上げた。
「食べるか?」タケシは今にも乾パンにかぶりつきそうなアヤメに言った。
慌ててアヤメは自分の動きを止め、蒸し器のようなものに乾パンを入れた。どうやら、乾パンを蒸して柔らかくさせるつもりらしい。そこは、女子力なのか分からなかったが、タケシはそれを眺めたいた。そして、一つ疑問に思った。水ってどこから集めてきてるのかな?そういえば、さっきからは水瓶から水を使っていた。
「ちょっと良いか?」タケシはアヤメに尋ねた。
「うん?パンはまだ早いと思うよ。」アヤメは頭がパンに支配されたかのような答えを返した。パンが久し振りらしいようだ。
「そうじゃなくて、水場ってどこにあるの?」タケシは、そのまま聞いた。
「パンは洗うものじゃなかった筈だけど…?」話が噛み合わない(パンしか頭にない)アヤメは意味不明な答えをした。
「いや、パンの事じゃなくて身体を少し洗いたいから水場ってどこ?」
ようやく話の意味が分かったのか、アヤメは顔をトマトのようにし赤面した。
「えっと…水場はここを出て右のほうの石が多いところよ…身体を洗うならそこにあるボウルで水をすくって水場に汚れが入らないようにしてね…」アヤメは小さな声で言った。
「ありがと。じゃ、行ってくる。」タケシは自分の荷物か変えの衣服とタオル、そしてボウルをもち、水場に向かった。そして数分後、タケシはサッパリとした状態でアヤメのいる竪穴住居に入った。すると、アヤメは蒸し終わった乾パンを葉っぱの上におき、熱を軽くとっているところだった。タケシがアヤメの横に座った。するとアヤメは、パンを半分くらいにちぎり自分の分にかぶりついた。その顔が何故か可愛らしく、いつのまにか、タケシは、自分の分まで食べられているということに気がついていなかった…

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