貧乏姫の戦争 〜異世界カードバトルを添えて~
Story.003 〜VRカードゲーム『神々の遺産』で遊んでみよう……?〜(3)
3
人生十年分ぐらいの幸運と奇跡を消費し手に入れた希少カード『赤竜の卵』だが、一つ困った事が起きた。
これどうやったら孵化するんだ?
攻略サイトを見ても、卵を「捕獲」すると言う話は出てこない。
試しにトレーニングモードで召喚して見ようかとも思ったが、万が一割れてしまったら他のモンスターのように復活するか確証も持てないので、怖くて実験もできない。
と言うわけで、今回は『防衛クエスト』に挑戦してみたい。
『防衛クエスト』は、◯◯を守れ!のように、指定された拠点を一定時間防衛。もしくは、拠点を維持しながら一定数以上のモンスターを撃退させるクエストである。
では、この『防衛クエスト』が先程の「赤竜の卵」と何の関係があるのかと言えば、『敗北(失敗)条件』にポイントがある。
『防衛クエスト』なら、防衛目標内にモンスターが侵入もしくは、一定時間経過で「敗北できる」ので、「赤竜の卵」が敵モンスターと接触する機会を極限まで減らす事ができるのだ。
つまりクエストに成功すれば、新しいカードが手に入るし、失敗してもその間に「赤竜の卵」の解析を進める時間は得られる。これが、今回の作戦の肝である。
うん。偉そうに言ってるけど、クエストクリアの自信が無い事を誤魔化しているだけです。ただのチキン野郎の発言ですね。
◇
今回選択したクエストは、『獣人村を守れ!(イージーモード)』と言うクエストで、難易度は星二つ。
もっとも、この難易度は二ツ星級のモンスターまでが出現しますよと言う意味で、そこまで簡単なクエストではない。
それに属性やモンスターの出現方法も定まっているわけではないので注意が必要だ。
とは言え、攻略サイトを事前に見れば、ある程度どのモンスターが出現するかはわかる。
今回の「獣人村」近辺には、
・コボルト
・ゴブリン
・スライム
・野犬
と言ったお約束モンスターと、二ツ星のアクセントとして、僕も使っているコボルトマジシャンや、その同類のコボルトナイトのような、ちょっと武装したぐらいのモンスターが出現する。
正直、僕の持っているカードだけでは、十匹以上同時に出現した時点でギブアップになるが、防衛クエストはNPCも手伝ってくれるので、そこまで難しくないだろう。
特に獣人は戦闘能力に秀でた部族らしいので、尚のこと安心である。
『開始五分後にモンスターの襲撃が始まります。「獣人村」まで移動しますか?』
デッキには『赤竜の卵』はもちろんの事、念のため二枚ぐらいは無地の召喚カードを混ぜておいた。
もしかしたら、またとんでもないラッキーが待ってるかもしれないからね。
Yesを選ぶと無機質なブルーの部屋が歪み、すぐに辺り一面が解放感の高い草原になった。
優しい風と青い草の香り。
暖かな日差しを浴びていれば、ゲーム中である事を忘れてひっくり返って寝たいくらいだ。
ただ、草原だと思ったこの場所には、ぽつぽつとテントが立ち並び、その周囲をそれなりに沢山の人間が右往左往している。
全員が特徴的な民族衣装を着ている以外は、ごく普通の人間だ。
だが僕は知っている。
彼らがネットで話題の「がっかり獣人族」である。
大方の期待を裏切る、この普通感。
別に頭部が動物になっていろとは言わないが、せめてケモミミぐらいは容易して欲しかった。
世界中から開発元に対し、結構な量の苦情が行ったとか行かないとか。
でもそれ以上に「確かに生物学的に考えたら、そんな構造の生命体がいるはずが無いので、逆にリアリティーがある」と概ね好意的に受け止められたらしい。
僕もそこはリアルよりも夢を追求するところだろう!と思ったものである。
その彼ら獣人族は、皆手に剣や弓矢を手に持ち、慌ただしそうな様子を見せている。
防衛戦という設定に則り、NPCとして迎撃に参加してくれるのだろう。
本来であれば、僕も前線でモンスターを配置しなければならないところであるが、今回はクエストクリアよりも「赤竜の卵」の解析が先だ。
僕は人の波に逆らい、村の中央部に足を進めた。
歩きながらカードをドローし、途中で出てきたモンスター達は護衛用に召喚。
他の要らないカードは即座に捨て、「赤竜の卵」が出るまでカードをドローし続けた。
遠くから大勢の怒号や悲鳴等が聞こえてくるが、とりあえず今回は無視させてもらおう。
ごめんね。次はちゃんと一緒に村を守るからねー。
村の中心地に着くと、すぐに「赤竜の卵」がヒットしたので即座に召喚した。
僕の目の前に、ころんとした大きな卵が現れる。
「さて、それでこれをどうすればいいんだ?とりあえず温めてみればいいのかな?」
僕が摩ってもそんなに暖かくならないだろうと思い、とりあえず召喚した犬亜人とレッドスライムに卵に抱きつかせてみた。
「……」
いきなりやる事がなくなってしまった。
当たり前か。
仮にこの方法が正解だったとしても、何時間かかるんだって話だ。
「うーん。何かないかなぁ」
何かヒントはないかと、周囲を見回しても、辺りはテントが何軒か立っているだけである。
一際大きなテントの側には、見張りの獣人が立っており、中に入れないようだ。
「ん?」
そのテントに、何故目が向いたのかはわからない。
一つだけやたらと頑丈そうな作りのテントがあるが、小さくて薄汚れている。
まるで牢屋のようだ。
僕はふらふらと引かれるように、そのテントに近寄り、そっと窓代わりになっている布を持ち上げた。
「うわぁっ!?」
窓にはめられた鉄格子の奥には、両手両足を縛られた男が転がされている。
口には猿轡が咬まされている徹底ぶりだが、両目には強い感情を湛えており、その眼が僕に向けられただけで腰を抜かしてしまった。
「ほほぉ、ほへほはふひへふへ」
「え?」
「はひふ」
猿轡のせいで聞き取りづらいが、拘束を解けと言っているようだ。
「ちょ、ちょっと待って」
自分でこの牢屋の中に入る勇気はない。
レッドスライムを鉄格子の隙間から潜り込ませると、猿轡の結び目だけを融解させた。
「ふぅ……ありがとよ小僧。それで、ついでなんだが教えてくれ。お前は何者で、ここはどこだ?」
「僕?僕は……」
まさか、ゲームキャラクターに自己紹介をする日が来るとは。
だが、何と言えばいい?
クエストに従い村を救いに来たヒーローです!とか言えばいいのか?
「ああ、違う違う。お前の名前とかを聞いてるわけじゃない。そんな奇妙な体をしているから何者かと聞いたんだ」
牢屋の男は、鋭い眼で僕を睨みつけてくる。
その眼は、一切の嘘や誤魔化しを許さないと言葉よりも雄弁に語っていた。
「奇妙な体?」
「ん?まさか自覚が無いのか?その体は、本物じゃないだろう?一見かなり高レベルの幻影にも見えるが、そんな感じでも無いしな」
「……」
どういう事だ?
ここはVRカードゲーム『神々の遺産』の中だ。
そして当然僕もデータで構築された存在だ。
それをゲームのキャラクターに指摘される?
いや、そもそも本当にこいつはNPCなのか?
余りにも生々しい感情を発する目の前の存在は、誰かが操作し演技をしているようにも見えない。
まるで、本当にこの世界で生きている人間のようだ。
「いや、それを言うなら俺の体も同じか……。俺の村も見た目は同じだが、全てまやかしのようだし……かなり大掛かりな術式だな……」
鉄格子の隙間から顔を覗かせた男が、ぶつぶつと独り言を言っている。
「あのー……」
「小僧。ゴート帝国やキジマの名前に聞き覚えは?」
意を決して話しかけると、逆に声をかけられてしまった。
「は?いや、ゴート帝国は攻略サイトで名前ぐらいは見た事があるし、キジマってこのゲームを開発したキジマコーポレーションのキジマの事?一体全体急に何の話だ?これは何かのイベントの兆しなのか?やっぱりあなたは運営の誰かが操作してるのか?」
「お前こそ何を言ってるんだ?……しかし両方知っているが、その口ぶりからすれば、関係者って感じでもねぇな」
「キジマコーポレーションの関係者かって?んなわけないでしょ、そんな知り合いがいたらレアカードを何枚か恵んでもらうか、赤竜の卵の孵化の仕方を教えてもらうよ」
「赤竜の卵!?お前、そんな危ないもの持ってんのか!?そんなものすぐに親元に返しちまえよ!親が怒り狂って山から降りてくれば、小さな村や集落なら一日で地図から消えるぞ?」
「えっ……本当に!?いや、でも返しに行くとかもう無理だよ」
「まぁ、このまやかしだらけの世界の中じゃ、村の一つや二つが消えても関係ないか……どうせこの村も俺自身も偽物だしな……さて、話が逸れちまって悪いが、さっきの続きだ。お前が帝国やキジマの手先じゃねえと、俺は信じる。だから一つ頼みがあるんだ。多分あまり時間も無さそうだ。聞いてくれねえか」
ふと、モニターを見ると、獣人村の戦力はほとんど消滅していた。
確かに時間は無さそうだ。
でも、なんでそんな事が、牢屋の中で縛られているこいつにわかるんだ?
「あん?何を不思議そうな顔をしてやがる。別に戦の気配ぐらい、音と匂いで大体判るさ。そんな事より、いいから俺の話を聞け。小僧、何とかして聖樹の姫様を探して伝えてくれ。『狼人のガロから、聖竜の巫女へ。帝国とキジマの名前、そして白服共には近寄るな』いいか、忘れるな。これを言えば、あの頭の固い嬢ちゃんでも、間違いなく信じてくれる。嬢ちゃんに伝われば、あの墓守や神武のジジイにも伝わるからな」
「え?何だって墓参りには新聞紙?」
「何を言ってやがる!肝心なのはそっちじゃねえから、それは忘れろ!」
「はっ、はい!」
ちょっとした冗談じゃないか!
怖いよこいつ!
迫力がありすぎる。
「ちっ……時間が来たみたいだな……これで俺の今の記憶も消されるんだろ……と言うか元々存在しない存在か……」
「えっ!?」
慌てて再度モニターを見ると、今まさに最後の一人が、モンスターにやられるところだった。
「小僧、二度と会う事は無いと思うが、何かの縁だ。忠告と助言をくれてやる。いいか、『俺に会った事は信頼できる奴以外に、絶対に言うな』下手をすればお前も消されるぞ。あと、赤竜の卵なら一ヶ月ぐらい溶岩に漬けておけば勝手に孵化する。やってみろ」
『クエストが失敗しました。再挑戦しますか?』
謎の男は言いたい事を勝手に言って、そしてあっという間にクエストは失敗したまま僕はいつものブルーの部屋に戻された。
「『消される』?『お前も』?どう言うことだ?」
いつもの寒々とした無機質な部屋で、誰もいないとわかっていながら、そっと辺りを見回してしまった。
「そういやあのおっさん、結局その姫様の名前も特徴も言ってないじゃん……どうやって探せばいいんだよ……」
人生十年分ぐらいの幸運と奇跡を消費し手に入れた希少カード『赤竜の卵』だが、一つ困った事が起きた。
これどうやったら孵化するんだ?
攻略サイトを見ても、卵を「捕獲」すると言う話は出てこない。
試しにトレーニングモードで召喚して見ようかとも思ったが、万が一割れてしまったら他のモンスターのように復活するか確証も持てないので、怖くて実験もできない。
と言うわけで、今回は『防衛クエスト』に挑戦してみたい。
『防衛クエスト』は、◯◯を守れ!のように、指定された拠点を一定時間防衛。もしくは、拠点を維持しながら一定数以上のモンスターを撃退させるクエストである。
では、この『防衛クエスト』が先程の「赤竜の卵」と何の関係があるのかと言えば、『敗北(失敗)条件』にポイントがある。
『防衛クエスト』なら、防衛目標内にモンスターが侵入もしくは、一定時間経過で「敗北できる」ので、「赤竜の卵」が敵モンスターと接触する機会を極限まで減らす事ができるのだ。
つまりクエストに成功すれば、新しいカードが手に入るし、失敗してもその間に「赤竜の卵」の解析を進める時間は得られる。これが、今回の作戦の肝である。
うん。偉そうに言ってるけど、クエストクリアの自信が無い事を誤魔化しているだけです。ただのチキン野郎の発言ですね。
◇
今回選択したクエストは、『獣人村を守れ!(イージーモード)』と言うクエストで、難易度は星二つ。
もっとも、この難易度は二ツ星級のモンスターまでが出現しますよと言う意味で、そこまで簡単なクエストではない。
それに属性やモンスターの出現方法も定まっているわけではないので注意が必要だ。
とは言え、攻略サイトを事前に見れば、ある程度どのモンスターが出現するかはわかる。
今回の「獣人村」近辺には、
・コボルト
・ゴブリン
・スライム
・野犬
と言ったお約束モンスターと、二ツ星のアクセントとして、僕も使っているコボルトマジシャンや、その同類のコボルトナイトのような、ちょっと武装したぐらいのモンスターが出現する。
正直、僕の持っているカードだけでは、十匹以上同時に出現した時点でギブアップになるが、防衛クエストはNPCも手伝ってくれるので、そこまで難しくないだろう。
特に獣人は戦闘能力に秀でた部族らしいので、尚のこと安心である。
『開始五分後にモンスターの襲撃が始まります。「獣人村」まで移動しますか?』
デッキには『赤竜の卵』はもちろんの事、念のため二枚ぐらいは無地の召喚カードを混ぜておいた。
もしかしたら、またとんでもないラッキーが待ってるかもしれないからね。
Yesを選ぶと無機質なブルーの部屋が歪み、すぐに辺り一面が解放感の高い草原になった。
優しい風と青い草の香り。
暖かな日差しを浴びていれば、ゲーム中である事を忘れてひっくり返って寝たいくらいだ。
ただ、草原だと思ったこの場所には、ぽつぽつとテントが立ち並び、その周囲をそれなりに沢山の人間が右往左往している。
全員が特徴的な民族衣装を着ている以外は、ごく普通の人間だ。
だが僕は知っている。
彼らがネットで話題の「がっかり獣人族」である。
大方の期待を裏切る、この普通感。
別に頭部が動物になっていろとは言わないが、せめてケモミミぐらいは容易して欲しかった。
世界中から開発元に対し、結構な量の苦情が行ったとか行かないとか。
でもそれ以上に「確かに生物学的に考えたら、そんな構造の生命体がいるはずが無いので、逆にリアリティーがある」と概ね好意的に受け止められたらしい。
僕もそこはリアルよりも夢を追求するところだろう!と思ったものである。
その彼ら獣人族は、皆手に剣や弓矢を手に持ち、慌ただしそうな様子を見せている。
防衛戦という設定に則り、NPCとして迎撃に参加してくれるのだろう。
本来であれば、僕も前線でモンスターを配置しなければならないところであるが、今回はクエストクリアよりも「赤竜の卵」の解析が先だ。
僕は人の波に逆らい、村の中央部に足を進めた。
歩きながらカードをドローし、途中で出てきたモンスター達は護衛用に召喚。
他の要らないカードは即座に捨て、「赤竜の卵」が出るまでカードをドローし続けた。
遠くから大勢の怒号や悲鳴等が聞こえてくるが、とりあえず今回は無視させてもらおう。
ごめんね。次はちゃんと一緒に村を守るからねー。
村の中心地に着くと、すぐに「赤竜の卵」がヒットしたので即座に召喚した。
僕の目の前に、ころんとした大きな卵が現れる。
「さて、それでこれをどうすればいいんだ?とりあえず温めてみればいいのかな?」
僕が摩ってもそんなに暖かくならないだろうと思い、とりあえず召喚した犬亜人とレッドスライムに卵に抱きつかせてみた。
「……」
いきなりやる事がなくなってしまった。
当たり前か。
仮にこの方法が正解だったとしても、何時間かかるんだって話だ。
「うーん。何かないかなぁ」
何かヒントはないかと、周囲を見回しても、辺りはテントが何軒か立っているだけである。
一際大きなテントの側には、見張りの獣人が立っており、中に入れないようだ。
「ん?」
そのテントに、何故目が向いたのかはわからない。
一つだけやたらと頑丈そうな作りのテントがあるが、小さくて薄汚れている。
まるで牢屋のようだ。
僕はふらふらと引かれるように、そのテントに近寄り、そっと窓代わりになっている布を持ち上げた。
「うわぁっ!?」
窓にはめられた鉄格子の奥には、両手両足を縛られた男が転がされている。
口には猿轡が咬まされている徹底ぶりだが、両目には強い感情を湛えており、その眼が僕に向けられただけで腰を抜かしてしまった。
「ほほぉ、ほへほはふひへふへ」
「え?」
「はひふ」
猿轡のせいで聞き取りづらいが、拘束を解けと言っているようだ。
「ちょ、ちょっと待って」
自分でこの牢屋の中に入る勇気はない。
レッドスライムを鉄格子の隙間から潜り込ませると、猿轡の結び目だけを融解させた。
「ふぅ……ありがとよ小僧。それで、ついでなんだが教えてくれ。お前は何者で、ここはどこだ?」
「僕?僕は……」
まさか、ゲームキャラクターに自己紹介をする日が来るとは。
だが、何と言えばいい?
クエストに従い村を救いに来たヒーローです!とか言えばいいのか?
「ああ、違う違う。お前の名前とかを聞いてるわけじゃない。そんな奇妙な体をしているから何者かと聞いたんだ」
牢屋の男は、鋭い眼で僕を睨みつけてくる。
その眼は、一切の嘘や誤魔化しを許さないと言葉よりも雄弁に語っていた。
「奇妙な体?」
「ん?まさか自覚が無いのか?その体は、本物じゃないだろう?一見かなり高レベルの幻影にも見えるが、そんな感じでも無いしな」
「……」
どういう事だ?
ここはVRカードゲーム『神々の遺産』の中だ。
そして当然僕もデータで構築された存在だ。
それをゲームのキャラクターに指摘される?
いや、そもそも本当にこいつはNPCなのか?
余りにも生々しい感情を発する目の前の存在は、誰かが操作し演技をしているようにも見えない。
まるで、本当にこの世界で生きている人間のようだ。
「いや、それを言うなら俺の体も同じか……。俺の村も見た目は同じだが、全てまやかしのようだし……かなり大掛かりな術式だな……」
鉄格子の隙間から顔を覗かせた男が、ぶつぶつと独り言を言っている。
「あのー……」
「小僧。ゴート帝国やキジマの名前に聞き覚えは?」
意を決して話しかけると、逆に声をかけられてしまった。
「は?いや、ゴート帝国は攻略サイトで名前ぐらいは見た事があるし、キジマってこのゲームを開発したキジマコーポレーションのキジマの事?一体全体急に何の話だ?これは何かのイベントの兆しなのか?やっぱりあなたは運営の誰かが操作してるのか?」
「お前こそ何を言ってるんだ?……しかし両方知っているが、その口ぶりからすれば、関係者って感じでもねぇな」
「キジマコーポレーションの関係者かって?んなわけないでしょ、そんな知り合いがいたらレアカードを何枚か恵んでもらうか、赤竜の卵の孵化の仕方を教えてもらうよ」
「赤竜の卵!?お前、そんな危ないもの持ってんのか!?そんなものすぐに親元に返しちまえよ!親が怒り狂って山から降りてくれば、小さな村や集落なら一日で地図から消えるぞ?」
「えっ……本当に!?いや、でも返しに行くとかもう無理だよ」
「まぁ、このまやかしだらけの世界の中じゃ、村の一つや二つが消えても関係ないか……どうせこの村も俺自身も偽物だしな……さて、話が逸れちまって悪いが、さっきの続きだ。お前が帝国やキジマの手先じゃねえと、俺は信じる。だから一つ頼みがあるんだ。多分あまり時間も無さそうだ。聞いてくれねえか」
ふと、モニターを見ると、獣人村の戦力はほとんど消滅していた。
確かに時間は無さそうだ。
でも、なんでそんな事が、牢屋の中で縛られているこいつにわかるんだ?
「あん?何を不思議そうな顔をしてやがる。別に戦の気配ぐらい、音と匂いで大体判るさ。そんな事より、いいから俺の話を聞け。小僧、何とかして聖樹の姫様を探して伝えてくれ。『狼人のガロから、聖竜の巫女へ。帝国とキジマの名前、そして白服共には近寄るな』いいか、忘れるな。これを言えば、あの頭の固い嬢ちゃんでも、間違いなく信じてくれる。嬢ちゃんに伝われば、あの墓守や神武のジジイにも伝わるからな」
「え?何だって墓参りには新聞紙?」
「何を言ってやがる!肝心なのはそっちじゃねえから、それは忘れろ!」
「はっ、はい!」
ちょっとした冗談じゃないか!
怖いよこいつ!
迫力がありすぎる。
「ちっ……時間が来たみたいだな……これで俺の今の記憶も消されるんだろ……と言うか元々存在しない存在か……」
「えっ!?」
慌てて再度モニターを見ると、今まさに最後の一人が、モンスターにやられるところだった。
「小僧、二度と会う事は無いと思うが、何かの縁だ。忠告と助言をくれてやる。いいか、『俺に会った事は信頼できる奴以外に、絶対に言うな』下手をすればお前も消されるぞ。あと、赤竜の卵なら一ヶ月ぐらい溶岩に漬けておけば勝手に孵化する。やってみろ」
『クエストが失敗しました。再挑戦しますか?』
謎の男は言いたい事を勝手に言って、そしてあっという間にクエストは失敗したまま僕はいつものブルーの部屋に戻された。
「『消される』?『お前も』?どう言うことだ?」
いつもの寒々とした無機質な部屋で、誰もいないとわかっていながら、そっと辺りを見回してしまった。
「そういやあのおっさん、結局その姫様の名前も特徴も言ってないじゃん……どうやって探せばいいんだよ……」
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