個性が強くて何が悪い!

小鳥 遊(ことり ゆう)

19:開幕 P-1グランファイト



解説の一人が声高らかに宣言し始めた。

『さて、皆さんお待たせしました。これより、我が校発祥、“P-1 グランファイト”を開催いたします。今一度このグランファイトについてご説明致しましょう。都築さんお願いします。』


『ご紹介にあずかりました、グランファイト特別解説員の都築 権造です。P-1グランファイトではペキュラー同士が1対1で個性を出し合い、戦い、そしてどちらかが戦闘不能、もしくはスタジアムからの場外によって勝敗が決まります。己の個性と向き合い、相手の個性を尊重し、磨き合うのがこのグランファイトの精神になります。さて開催の宣言をしましょう、磯之浦さん!』


『せーの、『P-1グランファイト、開始ィィィィィ!』』


高らかに開催の宣言をされて文字通り、個性的なメンツが集まり、戦いの火ぶたが切って落とされた。もちろん今年はこの俺、如月信男もエントリーしたのだ。さあ、一回戦の相手は誰だ?


反対側から現れたのは清楚そうな女性だった。立ち振る舞いもどこか気品があって、緩く巻かれた黒髪が風でキラキラと舞っている。


マイクのキーンという音から解説員の磯之浦が選手の紹介を熱く熱弁した。


『今一番一年生の中でダークホース枠として如月選手と、魅惑の美女、御笠 麗両者の登場に観客が湧いております!!』


御笠さんはこちらに手を伸ばして微笑みながら


「お互いに良い戦いにしましょう?」


彼女の笑みは可愛げもあるがどこか大人っぽいというか色気を感じて、俺は背中が少しゾクッとした。

その感覚は恐怖ではなくなにか自分の中のMッ気が目覚めそうな感覚に陥ったようだった。そんな事を考えているうちに戦いのゴングが鳴った。


グランファイトの最大の特徴と言えば個性の読みあいだ。試合前はお互いの個性は知らされず、対戦相手も分からない。トーナメント表にはくじの番号しか書かれていない。最後の二人になるまでは誰も対戦相手が分からないままなのだ。


そこであたったのが彼女、、どんな力なんだ?


お互いに牽制し、攻撃もせず、リングをぐるぐる回っている。会場の野次をよそにお互いの個性が何かを腹の探り合いをしていた。だが、らちが明かない。先に攻撃を仕掛けよう。


「先手必勝だ! <現出>マジックステッキ くらえ、ハートスクリュー!」


ハートスクリューは俺とれんれんが生みだしたラブリーロイヤルフローラルハリケーンの超下位互換で、あまり恥ずかしくない呪文として発明した技だった。グランファイトもそうだが、降星会と一戦交えることになるってなった時に、銃で言えばマグナムやショットガンでは無く、ハンドガンくらいの威力を編みだした。俺がこれを使っていると観客として腕組みして、俺のおかげだなと言わんばかりにセコンドを気どるれんれんがちらちら見えてうざかった。


その視線が気になったのか天使は連廉に


「なんか、モブちゃん、こっち見てにらんでない?」

廉は腕組みをしたまま、

「なぜ?こちらはむしろあいつに今後の戦いの所作を教えてやったんだ。感謝されてもいいくらいだ

。だが、あれは単なる牽制技、本当のフィニッシュは隙ができたタイミングであの長ったらしくて恥ずかしい必殺を恥ずかしがらず、噛まずにいえるかどうかが問題だ。」


廉の解説は信男には聞こえないが信男は彼への何とも言えない怒りを感じながら技を出していた。だが、威力はさらに減っていくようだった。それもそうだ。彼の魔法系の威力は女の子に対する愛がそのまま力になる。怒りや憎しみでは能力は弱くなってしまうことも彼との練習で気づいた点だった。


「へんな小技を使うようだけど、私には全てが『無駄』よ。<現出装・色欲蝶>」


彼女の周りから光の粒子が舞って、それが舞い終わると彼女は蝶のように鮮やかな青と黒の振袖に近い和風ドレスを身にまとっていた。両手を広げ、こちらに風をおくるように手を前にやるとキラキラと粉状のものが信男の元に降りかかる。その時は特に変化は無かった。気にせず、信男は彼女の懐に飛び込むが急に体が痺れて動かなくなってしまったのである。


「なんだ、この感触は、!」


「みんな、私を前にすると奴隷のようにかしずいちゃうのよね。それも男も女も私の色香にやられてしまう。坊や、諦めなさい。私の前では攻撃は不可能っ! <色気>の御笠麗に叶う男はいないわ。」


「くそぅ、女の子にも手を出せるなんて百合展開もありなチートとは俺の上位互換じゃないか!! ここは態勢を立て直して必殺技に賭けるしかない。・・・・・・ん?待てよ。」


その時、信男はふと考えた。そして廉も疑問に感じていた。そして彼らが行きついた答えとは


「「あの娘、虜にしたら勝てんじゃね?」」


信男は簡単なことを見逃していた事に気づき変な笑いが出ていた。

それに対して、不気味がった御笠は


「何がおかしいの? もしかして私にいたぶられるのがそんなにうれしいの?」


「いや、君の攻略法が簡単に分かったから勝利の余韻に浸っていたんだよ。さあ、君のこころ、もらうよ。」


彼の眼差しは鋭くも優しく御笠を包んだ。


「な、何みてんのよ/// やらしい目で見られてるわけでもないのに、何なのこの高揚感とトキメキは!?ああぁ、そんな目で私を見つめないで」


信男は一歩、また一歩と御笠に近づくたびに彼女はどんどんんと後ずさりをしていく。そしていよいよスタジアムの端まで追いつめられた。行き場も目のやり場も失った御笠は尻もちをついてスタジアムの外、場外に虚空を眺めていた。



『おおおっっと!! ここで御笠選手、場外です!! 我々には一体なんの逆転劇が起きたのか全く分かりませんが、如月選手の謎能力<魔眼>によって場外へ追いやられたと言うのでしょうかっ!!』


解説の試合の勝敗を決定づける合図が決まり、会場は状況の読み込めなさにポカンとしていたが勝敗決定の瞬間に湧きたったのだった。


一息ついた観戦していた天使ちゃんが隣の廉に


「モブちゃん、なんとか勝ったね。」


廉は鋭い眼差しで


「そうだな。だが、このグランファイトで降星会メンバーの能力も見ているかもと思うと背筋が凍るというか、札杜さんか・・・」


後ろで二人の会話を聞いていた札杜が顔には出していないが嬉しそうな声色で


「マスター、勝ったんですね。私も負けられませんね。マスターの恋人に恥じないようにしないとですね。」


「次は札杜さんだったのか。うん、頑張ってきて。」


廉の声援にはなんの受け答えもせず、颯爽に立ち去っていった姿に廉は少し距離を感じたという。

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