獣耳男子と恋人契約
14、お伽の国の住人疑惑
「ごめんなさい、騒がしい家族でびっくりしたでしょ?」
「いいお母さんとお姉さんだね。桜のことすごく大事にしてるのが伝わってきたよ」
「二人ともお節介な所あるから。でも否定はしないかな」
「それに、桜のこんな可愛い姿を見れた事にも感謝だね」
「は、恥ずかしいから……あんまり見ないで」
ニコニコと微笑んだまま、コハクはこちらから視線を外そうとしない。
「前見てないと危ないよ」と指摘しても、「嫌だ、しっかりと目に焼き付けておかないと損だよ」と言って前を向こうとしないのだ。
「フフ、桜の頬リンゴみたい真っ赤」
「もう、誰のせいだと思ってるの!」
「僕のせいだったら嬉しいな」
悪びれもなく嬉しそうにコハクがそんな事を言うから、「全部コハクのせいだからね! 分かったら前を向いて歩いてよ」と私はそっぽを向いた。
「ごめん。怒らないで、桜」
「ちゃんと前見て歩く?」
「うん。でも……後で写真撮っていい?」
「ダメ」
ちぇっとコハクは残念そうに呟いた。
何というか、コハクは本当に変わっている。
私を可愛いと言うなんて……彼の可愛いはきっと、普通の人間と違う感性なのだろう。昔の美人の条件と現代の美人の条件が違うように。
彼には妖怪白狐の血が混じっている。動物は種の存続を保つために、健康そうで丈夫そうな雌がモテる。
つまり、そういうことだ。
昔は空手で身体を鍛えぬき、今は毎日欠かさず行うクッキーの散歩で周りの女子より健康には自信がある。
私の身体をダンベル代わりに身体を鍛えるコハクの事だ、きっとそういう基準がかなり可愛いのポイントを占めているに違いない。
そんなことを考えていると遊園地に着いた。
フリーパスのついた優待券で入場手続きを済ませて中に入ると、どこから回ろうか迷うほど面白そうな遊具が所狭しと並んでいる。
休みの日だけあって、人でごった返しているけど……いいな、この活気。久しぶりの遊園地に、私の心は浮足立っていた。
「桜、どこか気になる所ある?」
遊園地のパンフレットを広げて、行きたいアトラクションの目星をつける。
道なりに行った方が効率的だよな……でも、私はある場所が気になっていた。
『やすらぎ庭園』──動物たちとふれあい出来るコーナーで、可愛い姿を間近で見ることができる癒しの庭園。
(行きたい、ものすごく行きたい!)
しかし、場所的に隅っこに位置しているためついでに回るのが難しい。
遊園地に来るのを一番楽しみにしてたのは、きっとコハクだ。だったら……
「コハクのいきたい所に行こう」
「いいの? それじゃあ行こうか」
笑顔で差し出される手を、いつものように普通に繋いだ。でもよく考えると今は学内じゃない。つまり、恋人のフリをする必要はないのだ。
慣れって怖いなと思いつつ、隣を見るとコハクと目があってニコっと微笑まれた。
本当にデートしているみたいで、胸がドキドキする。
平常心、平常心と心の中で呪文を唱えながら歩いていると、タイルの窪みに慣れないヒールが引っ掛かりバランスを崩してしまった。
転ぶと思った瞬間、コハクが転ばないように支えてくれた。
「大丈夫?」と顔を覗きこまれ、あまりにも近くにある彼の端正な顔のせいでさらに心臓の鼓動が激しくなる。
私は俯いて「ありがとう」と言うのが精一杯だった。恥ずかしくて、まともにコハクの顔が見れない。
「ついたよ、桜。ここに入ろう」
コハクにエスコートされながらついた先には、私が行きたいと思っていた『やすらぎ庭園』の看板がある。
「コハクもここに興味あったの?」
驚いて尋ねると、コハクはうーんと考える仕草をした後、無邪気な笑顔を浮かべて答えてくれた。
「ここに来たら桜が喜んでくれるかなと思って。勿論動物も好きだけど、桜の笑顔を見たいからって方が正しいかも。僕、君の笑顔が好きだから」
その言葉に私の体内温度が一気に上昇し、ゆでダコみたいに赤くなるのを感じた。
私の好みを把握した上で、そんな事を言われてしまったらひどく恥ずかしいじゃないか。
コハクと一緒に居ると、甘ったるくて温かいココアのような空間に居るみたいだ。
隣に居る人物が、実はお伽の国の住人なんじゃないかと思ってしまいそうになる。
「見て、コハク! アルパカが居るよ! あっちには羊と山羊も! 餌やりが出来るみたい、やってみようよ」
目の前のモフモフした動物を前に、私のテンションは異様に高くなっていた。
クッキーもそうだけど、私はモフモフとした触り心地の良い動物が大好きだ。頭を撫でた時の手に触れる、あのふわっとした感触が堪らなく気持ちよくて癒やされるから。
コハクと一緒に、まずはアルパカに餌をあげた。
手の上にコロコロとした餌を乗せて、そっとアルパカの方に差し出すと、もしゃもしゃと美味しそうに食べてくれる。
手は少しくすぐったいけど、アルパカの幸せそうな顔が見れてこっちも自然と頬が緩む。
次は羊と山羊のコーナーだ。
カップに入った人参を一本ずつ木の柵の間からあげる。吸い込まれるように人参を食べてくれるから、こちらは見てて面白い。
そこであることに気付く。
餌を取り合うように、大人の山羊と羊が激しく押し退けあいながらやってくるから、仔羊は怯えて中々餌にありつけていないようだ。
あの子にも食べさせてあげたいな……と思いながら眺めていると、コハクに声をかけられた。
「桜、僕がこの大きい子達を引き付けるから、その間にあの小さな子にあげてきなよ。気になってるんでしょ?」
どうやら顔に出ていたようで、コハクが気遣ってくれた。
「いいの?! ありがとう!」
コハクは上手に大きな山羊達を餌で端の方に誘い出していく。
その隙に諦めて俯いている仔羊に私はそっと餌を差し出した。すると気付いてくれたようで、急いで駆け寄ってきて美味しそうにもぐもぐ食べてくれた。あぁ、可愛い。癒やされる。
コハクのナイスアシストのおかげで、仔羊にもたくさん餌をあげられて私はとても満足だった。
改めてお礼を言いたくてコハクの元に戻ると、彼は色っぽいお姉さんグループに囲まれていた。
「いいお母さんとお姉さんだね。桜のことすごく大事にしてるのが伝わってきたよ」
「二人ともお節介な所あるから。でも否定はしないかな」
「それに、桜のこんな可愛い姿を見れた事にも感謝だね」
「は、恥ずかしいから……あんまり見ないで」
ニコニコと微笑んだまま、コハクはこちらから視線を外そうとしない。
「前見てないと危ないよ」と指摘しても、「嫌だ、しっかりと目に焼き付けておかないと損だよ」と言って前を向こうとしないのだ。
「フフ、桜の頬リンゴみたい真っ赤」
「もう、誰のせいだと思ってるの!」
「僕のせいだったら嬉しいな」
悪びれもなく嬉しそうにコハクがそんな事を言うから、「全部コハクのせいだからね! 分かったら前を向いて歩いてよ」と私はそっぽを向いた。
「ごめん。怒らないで、桜」
「ちゃんと前見て歩く?」
「うん。でも……後で写真撮っていい?」
「ダメ」
ちぇっとコハクは残念そうに呟いた。
何というか、コハクは本当に変わっている。
私を可愛いと言うなんて……彼の可愛いはきっと、普通の人間と違う感性なのだろう。昔の美人の条件と現代の美人の条件が違うように。
彼には妖怪白狐の血が混じっている。動物は種の存続を保つために、健康そうで丈夫そうな雌がモテる。
つまり、そういうことだ。
昔は空手で身体を鍛えぬき、今は毎日欠かさず行うクッキーの散歩で周りの女子より健康には自信がある。
私の身体をダンベル代わりに身体を鍛えるコハクの事だ、きっとそういう基準がかなり可愛いのポイントを占めているに違いない。
そんなことを考えていると遊園地に着いた。
フリーパスのついた優待券で入場手続きを済ませて中に入ると、どこから回ろうか迷うほど面白そうな遊具が所狭しと並んでいる。
休みの日だけあって、人でごった返しているけど……いいな、この活気。久しぶりの遊園地に、私の心は浮足立っていた。
「桜、どこか気になる所ある?」
遊園地のパンフレットを広げて、行きたいアトラクションの目星をつける。
道なりに行った方が効率的だよな……でも、私はある場所が気になっていた。
『やすらぎ庭園』──動物たちとふれあい出来るコーナーで、可愛い姿を間近で見ることができる癒しの庭園。
(行きたい、ものすごく行きたい!)
しかし、場所的に隅っこに位置しているためついでに回るのが難しい。
遊園地に来るのを一番楽しみにしてたのは、きっとコハクだ。だったら……
「コハクのいきたい所に行こう」
「いいの? それじゃあ行こうか」
笑顔で差し出される手を、いつものように普通に繋いだ。でもよく考えると今は学内じゃない。つまり、恋人のフリをする必要はないのだ。
慣れって怖いなと思いつつ、隣を見るとコハクと目があってニコっと微笑まれた。
本当にデートしているみたいで、胸がドキドキする。
平常心、平常心と心の中で呪文を唱えながら歩いていると、タイルの窪みに慣れないヒールが引っ掛かりバランスを崩してしまった。
転ぶと思った瞬間、コハクが転ばないように支えてくれた。
「大丈夫?」と顔を覗きこまれ、あまりにも近くにある彼の端正な顔のせいでさらに心臓の鼓動が激しくなる。
私は俯いて「ありがとう」と言うのが精一杯だった。恥ずかしくて、まともにコハクの顔が見れない。
「ついたよ、桜。ここに入ろう」
コハクにエスコートされながらついた先には、私が行きたいと思っていた『やすらぎ庭園』の看板がある。
「コハクもここに興味あったの?」
驚いて尋ねると、コハクはうーんと考える仕草をした後、無邪気な笑顔を浮かべて答えてくれた。
「ここに来たら桜が喜んでくれるかなと思って。勿論動物も好きだけど、桜の笑顔を見たいからって方が正しいかも。僕、君の笑顔が好きだから」
その言葉に私の体内温度が一気に上昇し、ゆでダコみたいに赤くなるのを感じた。
私の好みを把握した上で、そんな事を言われてしまったらひどく恥ずかしいじゃないか。
コハクと一緒に居ると、甘ったるくて温かいココアのような空間に居るみたいだ。
隣に居る人物が、実はお伽の国の住人なんじゃないかと思ってしまいそうになる。
「見て、コハク! アルパカが居るよ! あっちには羊と山羊も! 餌やりが出来るみたい、やってみようよ」
目の前のモフモフした動物を前に、私のテンションは異様に高くなっていた。
クッキーもそうだけど、私はモフモフとした触り心地の良い動物が大好きだ。頭を撫でた時の手に触れる、あのふわっとした感触が堪らなく気持ちよくて癒やされるから。
コハクと一緒に、まずはアルパカに餌をあげた。
手の上にコロコロとした餌を乗せて、そっとアルパカの方に差し出すと、もしゃもしゃと美味しそうに食べてくれる。
手は少しくすぐったいけど、アルパカの幸せそうな顔が見れてこっちも自然と頬が緩む。
次は羊と山羊のコーナーだ。
カップに入った人参を一本ずつ木の柵の間からあげる。吸い込まれるように人参を食べてくれるから、こちらは見てて面白い。
そこであることに気付く。
餌を取り合うように、大人の山羊と羊が激しく押し退けあいながらやってくるから、仔羊は怯えて中々餌にありつけていないようだ。
あの子にも食べさせてあげたいな……と思いながら眺めていると、コハクに声をかけられた。
「桜、僕がこの大きい子達を引き付けるから、その間にあの小さな子にあげてきなよ。気になってるんでしょ?」
どうやら顔に出ていたようで、コハクが気遣ってくれた。
「いいの?! ありがとう!」
コハクは上手に大きな山羊達を餌で端の方に誘い出していく。
その隙に諦めて俯いている仔羊に私はそっと餌を差し出した。すると気付いてくれたようで、急いで駆け寄ってきて美味しそうにもぐもぐ食べてくれた。あぁ、可愛い。癒やされる。
コハクのナイスアシストのおかげで、仔羊にもたくさん餌をあげられて私はとても満足だった。
改めてお礼を言いたくてコハクの元に戻ると、彼は色っぽいお姉さんグループに囲まれていた。
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