転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第七十六話 国王陛下

ジャンヌとリリスのスパルタ教育を受けた俺は恥を掻かない程度にはこの世界の礼儀作法を取得した。本当に寝る暇もないぐらいにビシバシと叩き込まれて俺達は住み慣れた都市から離れてバシレイア王国の王都に来ている。
以前の都市攻防戦で俺とジャンヌの活躍が認められてその褒賞を王が直々に渡してくれるということで俺達は王都にある王城、王がいる玉座で俺とジャンヌはいる。
王城で働いているお偉いさん方そして騎士団総長であるカヴァレリア・ルスティカーナ。そしてこの国の現国王であるレイノ・レクス・バシレイア国王陛下。
俺とジャンヌはそのお偉いさん方に囲まれている。
「顔を上げよ」
王の一言で俺とジャンヌは顔をあげる。
「此度の活躍誠に大義である。騎士の卵である貴殿等の独断専行には思うことはあるも、貴殿等の働きによって我が国の被害は最小限に抑えられたのも事実。それだけではなく巷を騒がせている七つの欲セブンズ・デザイアの幹部を二人も倒した実績は大きい。よって貴殿等には褒賞を取らせよう。望みを言うがいい」
予想通りの展開になったな……。
王様の言葉に俺は少し疑問に思ったことがある。どうして勲章などではないことに。
勲章も騎士として誇りあるもの。それだけを渡しても十分な功績だ。それなのにどうして王様はわざわざ俺達を呼び出して俺達の口から望みを言わせようとしているのか?
恐らくは試している……。俺達がどういう人間か見極めようとしている。ここで言葉の選択を間違えたら斬首の可能性も捨てきれない。
そのことにどう答えようかと思っているとジャンヌが先に口を開いた。
「国王陛下。恐れ多くも訂正を求めます。七つの欲セブンズ・デザイアの幹部、グリードを倒したのはこちらにいるトムが単独で倒しました。それは私の実績には含まれません」
王の間違いを指摘した。
それに一部のお偉いさんが騒めくも王様は面白そうに顎を撫でる。
「そうであったか。それはすまなんだ。ではフィルスト家の娘よ、貴殿は何を望む?」
「新たな騎士団の設立を望みます」
またも空気がざわつくも王様はジャンヌに問いかける。
「ふむ。何故新しく騎士団を設立するその理由はなんだ? 我が国には既にいくつかの騎士団がある。そこに入団しようとは思わぬのか? 貴殿の実力ならば深紅の騎士団の入団も認めるが?」
「……それも考えました。しかし、騎士団の方はこの国を護る守護者でならなければいけません。ですがそれだけでは何も変わりません。だからこそ護るのではなく攻める新たな騎士団がこの国には必要だと愚考させて頂きました」
「貴殿はそれを望むと?」
「はい」
王様の言葉にジャンヌは肯定した。すると王様は次に俺に視線を向ける。
「トムと申したな? 貴殿は何を望む?」
俺の答えは既に決まっている。
「恐れ多くも陛下。私には二つの望みがります」
「貴様! 国王の前でよくもぬけぬけと!!」
すると一人の臣下が声を荒げるが王様が制した。
「よい」
「しかし!」
「よい、と言っている」
「……失礼しました」
王様の言葉に臣下は下がるも、鋭い眼差しを俺に向けてくるが無視する。
「臣下が失礼したな。それでその望みというのは?」
「一つ目の望みは爵位を望みます」
元より俺が一番欲しているのは爵位だ。ジャンヌとの仲を認めて貰う為にも爵位は必要。それを叶えてくれるのは王様しかいない。
「ふむ。それで二つ目は?」
「こちらにおられるジャンヌが新たに設立した騎士団の副団長の座を求めます」
「団長、ではないのか? 実績を踏まえればフィルスト家の娘よりも貴殿の方が団長に相応しいのではないか?」
「いえ、私は学院に身を置いている者ではありますが、私の本職は鍛冶師でございます。そんな私が団長の座に就くわけにはいきません」
「それで副団長というわけか……」
「はい」
団長なんて面倒だし、俺は副団長としてジャンヌを支えながら鍛冶に励もう。
そして王様は思考を巡らせて俺達に言う。
「結論から申そう。トムの爵位は元より授けるつもりであった為に問題はない。しかし、新たな騎士団の設立は認められん」
……まぁ、そうだろうな。
俺達はまだ学士、騎士の卵だ。そんな俺達が新しく騎士団を設立したいと言っても無理がある。認められないのも頷ける。
「しかし、貴殿等が実績を積み上げて更なる功績を得たというのであればその時は新たな騎士団の設立を認めよう」
つまり、騎士団を設立したかったら他の奴等にも認められるような実績を上げろということか。後は俺達が実績さえ積み重ねたら騎士団を設立できることを王様は認めた。王様のいいことを言ってくれる。
「その代わりと言ってはなんだが、貴殿等には私から称号二つ名を授けよう」
称号。それは二つ名であり通り名。学院でも良く広まっている二つ名の元はこの称号が始まりだ。
「報告によるとフィルスト家の娘は聖なる炎の輝きを放つ剣を、そしてトムは数多の魔剣を従えさせているのであったな。それならばフィルスト家の娘には『聖騎士』の称号を、トムには『魔剣士』の称号を授けよう」
王様から直々に授かった称号。俺達はそれを有難く頂戴する。
「そしてトムには子爵の地位を与えよう」
これで俺もようやく貴族の仲間入りだ。ジャンヌとの関係についてようやく一歩前進ってところだな……。
「そしてトムよ。貴殿の本職は鍛冶師と申したな?」
「はい」
なぜ今それを? そう思った俺に王様は悪戯笑みを浮かべて言った。
「それならばわしに一本、剣を打ってみてはくれぬか? これは王命ではなくわし個人からの依頼でだ」
国王の剣を打てと無茶ぶりを言ってきた。
王命ではないとはいえ、実質これは王命だろう。多くの臣下やお偉いさんが見ているこの場で断るなんてことはできない。
「……畏まりました」
俺はその依頼を承認した。

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