転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第六十七話 相談

精霊の棲家にあるとされる精霊石を手に入れる為に俺達はまずはセシリアの故郷に向かっているその道中で俺はジャンヌとセシリアが寝静まったのを見計らってリリスがいる天幕に入る。
「あらご主人様。夜這いですか? 歓迎しますよ?」
悪戯笑みを浮かばせながらそう誘惑してくるリリスに思わず生唾を飲み込んでしまうが、残念なことに夜這いではない為に首を横に振る。
「リリスに相談したいことがあってな。こんなこと相談できるのリリスだけなんだ」
「あらあらうふふ。それはいったい何でございましょうか?」
相談に乗ってくれるリリスに俺は思い切って打ち明ける。
「あのさ、俺がいた国では一夫一妻が当然だったんだ。誰もそれを疑うことはなかったし、当たり前のように受け入れている。ハーレムに憧れはあっても本当にする人はまずいないんだよ」
「それはまぁ…………」
「だからなのか、俺はジャンヌが恋人になってくれてからなんて言えばいいのかわからないけど、こう満たされているみたいな感じがするんだ。もう十分だと思っている自分がいる」
「それは私やセシリアさん達を抱きたくないということでしょうか?」
「ぶっちゃけて言うとしたい。凄くしたい。リリスやセシリア達を他の男達に取られたくないと思っているし、独り占めしたい気持ちもある。だけどそれは俺の我儘で独占欲だ。なによりそんなことをしたらジャンヌを裏切るような気がして……………」
ジャンヌ本人はいいと了承は得ているのに俺はリリス達に手を出していない。リリス達もOKを貰っているにも関わらずだ。
仮に俺がここでリリスと寝たいと言えばリリスは笑って受け入れてくれるのが容易に想像できる。だけどいざという時、ジャンヌの顔が脳裏を過る。
もし俺がリリス達を抱いたらそれはジャンヌを裏切るのではないかと思えてしまう。
だから一夫多妻にも寛容な魔族であるリリスにその話を持ち掛けて相談する。すると――
「ふふ、ふふふ」
リリスは可笑しそうに笑った。
「ふふ、ごめんなさい。ですが、私から言わせていただければご主人様は難しく考えすぎではないかと思います。確かに魔族は何人娶ろうとも何も問題はありませんが、一人だけを妻に持つ魔族もいます。要は本人次第。ご主人様がどうしたいのかが問題ではないかと」
「俺がどうしたいのか、か…………」
「はい。参考までに申し上げますが私のお父様、魔王様は十人以上の妃を持ち、私には腹違いの弟や妹もいますが仲が悪いなんてことはありませんよ? お母様達も毎日楽しくお喋りするぐらいですし」
何人娶るのも俺次第ということか………。
「ご主人様がジャンヌ様を想うそのお気持ちも大事なものです。ですけど」
リリスは指先で俺の鼻をつつく。
「ジャンヌ様は一身に寵愛を捧げて欲しいと思うような方ではありません。例えご主人様が私やセシリアさん達と関係を結んだとしてもジャンヌ様はそれを受け入れるぐらいの器量は持ち合わせていますし、ご主人様を無理に縛り付けようとする人ではありませんよ」
そう言われればそうかもしれない。
初めてジャンヌを抱いた時もそういうことを言っていたような気がする。
「誠実なのもいいですが、ご主人様はもう少し積極的になられるのもいいかもしれませんね。例えばこのように」
「とおっ!?」
不意に俺はリリスに押し倒されてリリスは俺に覆いかぶさる態勢になる。
「ふふ、このままご主人様を美味しくいただくのもいいかもしれませんね」
蠱惑的な笑みを見せながら刺激的なことを言ってくるリリスに思わずドキッとする。
「とまぁこのように積極的になるのも必要なことですよ?」
しかしリリスはそんな俺の反応を見て悪戯笑みを浮かばせながら離れる。
な、なんだ、からかわれただけか…………。いや、リリスの場合本気に頂かれる可能性はあったかも…………。
「ジャンヌ様に対する想いや誠実もあるのでしょうが、もしかしたらご主人様は心のどこかで今の関係を壊したくないのかもしれません。ですから踏み止まってしまう。その可能性もあるでしょう」
「!?」
その言葉はまるで俺の心を見透かしているかのように聞こえる。そして俺自身、その言葉に胸が痛む…………。
「そのお気持ちはわかるとは申しません。何故ならその気持ちはご主人様しかわからないからです。私がどうこう言えるものではございませんが、恐れを抱きながらも勇気を振り絞り、その一歩を踏み出すのは難しいでしょう。ですが敢えてご主人様に言わせて貰います。ジャンヌ様であればその一歩を踏み出すことができるでしょう。ジャンヌ様は心に勇気を持つお方ですから」
リリスの厳しいその言葉に俺は自然と手に力が入る。
「単純な強さであればまだ潜在的な能力が見えないご主人様の方がお強いでしょう。ですが、ジャンヌ様は己の弱さを自覚しながらも騎士になるという夢の為にその一歩を踏み続けてきました。ご主人様の後押しもあったでしょうが、その一歩を踏み出したのは紛れもないジャンヌ様の意思です。ご主人様とジャンヌ様に違いがあるとすればそれは心の強さでしょう」
「心の、強さ………」
「はい。人間は決して強くはありません。むしろ他の種族と比べれば弱い種族に入るでしょう。ですが、私は人間が弱い種族だと思ったことは一度もありません。何故なら人間は時にご主人様やジャンヌ様のように想像を超える何かを引き起こすのですから。それこそ神のみが行使できる‶奇跡〟さえも」
「奇跡………?」
ジャンヌはともかく俺はそんなもの引き起こした覚えはないのだが…………?
「ですが先ほども申し上げたように人間は強くはありません。一人であるのなら尚更です。ですから今回のように私やジャンヌ様、他の皆様を頼ってください。月並みで申し訳ありませんが、皆で支え合う。それもまた強さの秘訣かと」
本当に月並みの言葉だな…………。でも、月並みと言われるぐらいその言葉は真実なのかもしれない。
「………………ああ、わかった。取りあえず何かあったらまた相談に乗ってくれ」
「はい。その時は喜んで」
やっぱりリリスに相談しておいてよかった。本当に頼りになる。
「ああそうだ、リリス。今はまだ返事はできないけど、いつか必ず返事はするから。もう少しだけ待っていて欲しい」
「ええ、いつまでもお待ちしております。それまではお二人の仲を鑑賞もとい見守らせて頂くとしましょう」
鑑賞って…………まぁ、リリスらしいといえばらしいか。
リリスに相談して少しは気持ちが楽になった。それでも俺はこれから先、ジャンヌのことだけではなく皆のことについてもしっかりと考えて行かないといけない。

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