転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第六十五話 新しい盾の提案

七つの欲セブンズ・デザイア、ベルフェゴールが引き起こした都市の存命を賭けた防衛戦に見事勝利をした俺達だが、犠牲者が出なかったわけではない。
都市は守られた。だけど数多くの騎士が戦場で戦士した。その殆どが学士だった。
戦後処理が終えて彼等の葬式を終わらせてから落ち着ける時間が取れるまで一週間かかった。誰もが戦いから離れてやっと落ち着ける頃、俺はナンと共に工房に籠っていた。
騎士達が倒したモンスターの素材。そして俺が倒した銀の飛竜シルバー・ワイバーンの素材。それ以外にも多くの素材や鉱石を工房に持ってきて鎚を振っている。
フェニックスの戦いで壊れた盾の代わりに新しい盾を作るのは勿論。武器や防具の整備もしなければいけない。ある意味、ここが鍛冶師の戦場だ。
炉に素材を入れて熱を加えて赤くなったら出して鎚を振って形を形成させる。
ただ力任せに打っては駄目だ。それでは形が不完全になってしまうから繊細な力加減が必要とされる。だから全神経を集中させて鎚を振る。
そそぐのは武器に対する熱い情熱。真摯過ぎるくらいの、ひたむきな想い。
鎚を振る度に火花を散らし、赤い閃光を発する。
炉の熱気だけでなく、その熱気でも吸い込んでいるかのように身体の内側が燃えるように熱い。
けど、楽しい。
こうやって一つの事に集中して鎚を振って自分の手で武器を作るのが俺はどうしようもなく楽しくて仕方がない。
武器馬鹿でも鍛冶馬鹿でもどちらでもいい。俺はこの瞬間が死ぬほど好きだ。
頼もしい助手もいるし、鍛冶師の腕ももっと上げて凄い武器を打ってみせる。
そしてカァァンッ! と強烈な金属音が工房に響き渡る。


「ん~~~~~~」
工房での鍛冶を終えて俺は自分の部屋で頭を悩ませている。
それは新しいジャンヌの盾についてだ。
灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの鱗をふんだんに使ったあの盾はフェニックスの業火によって修復不可能の状態になっていた。
せっかく頑張って作ったのに、と思う気持ちもあるけど全ては鍛冶師である俺の腕が未熟だっただけだ。だから今度はフェニックスの業火でも溶かされることもない最高の盾を作ろうと模索しているのだが、なかなか思う様にいかない。
一応試作段階として銀の飛竜シルバー・ワイバーンの鱗で作った盾は完成したけど、あれじゃ駄目だ。高性能であることには変わりないけど流石に灼熱竜ヴォルケーノドラゴンで作ったあの盾の方が優秀だ。
その盾を超える盾を作るにはどうすればいいのか、悩みどころだ…………。
頭を悩ませているとドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します」
「お、セシリアか。どうした?」
「そろそろ夕食のお時間になりますので呼びに参りましたが、いかがなされましたか?」
「あー、前の戦いで壊れたジャンヌの盾の代わりに新しい盾を作ろうとしているんだけど、なかなか思う様に行かなくてな」
俺の技術的問題もあるけど、やっぱり素材も厳選しないといけない。
灼熱竜ヴォルケーノドラゴンを超える素材がどこかに落ちてないものかな………。
「あ、そうだ。セシリア」
「なんでしょうか?」
「悪かった」
俺はセシリアに向けて頭を下げる。
「お前の同胞を助けてやることができなかった。ごめん」
あの時、ベルフェゴールの存在に気付いていれば助けられたかもしれない。今更こんなことを考えても何の意味もないけど、同じエルフであるセシリアにはそのことについて謝っておかないといけない。すると、セシリアは―――
「………ジャンヌさんにもそのことについて謝罪を頂きました」
怒ることもなくいつもの平淡な声でそう言った。
…………そうか、ジャンヌも責任を感じていたんだな。
「お二人が謝ることなどありません。むしろ感謝の言葉を述べたい。きっとその同胞も貴方達二人と出会って救われたはずでしょうから」
「いや、そんなことは――」
「あります。例え結果的に命を落としたとしても憎しみという檻から解放されて心は救われたはずだ。それも全てはお二人のおかげです。だから感謝を。同胞の心を救ってくださりありがとうございます」
感謝の言葉と共に頭を下げてくるセシリアの頭を上げさせる。
「頭を上げてくれ。セシリアがそう言ってくれるのならこの件に関してはもう言わない」
「はい。他の者達にも謝罪は不要ですので」
「了解」
正直、憎まれ口の一言ぐらいは言われると思っていたけど寛大なセシリアの心に感謝だな。
「それにしてもジャンヌさんもそうですが、貴方も変わった人間だ」
「なんだいきなり?」
「そのようなことでわざわざ謝罪を口にしたりするのもそうですが、貴方の場合はジャンヌさん以上に変わっている。私はいつでも純潔を捧げる覚悟はできているというのに貴方は私を押し倒すどころか、リリスさんやシュティアさんにも手を出していない」
「いやぁまぁ…………したいという気持ちはあるぞ?」
一応ジャンヌからもリリス達ならいいと言っているから手を出しても何も問題はないだろうけど、なんだかなぁという気持ちがあるから手が出せないが本音だ。
「人間の男性は己の欲を満たすことしか考えていない者達ばかりと思っていましたが、それだけではないようですね」
「まぁな………」
ああ、そっか………。
エルフの人にとって大抵自分達の前に現れる人は奴隷にしようとする人達ばかりだ。だからセシリアが人間に対してそういう考えを持つのはある意味自然なことだ。
「ですがもし、そのような気持ちが出てきたというのであれば私に申してください。先程申し上げた通り、覚悟はできていますから」
「お、おう……」
な、なんか畏まった態度でそう言われると自己犠牲のように聞こえて妙な罪悪感があるんだよな。
今度、リリスに相談しよう。
こういう時はどうしたらいいのかな? って。きっとリリスならいいアドバイスをくれるはずだ。
「それと話は変わりますが、ジャンヌさんの新しい盾について一つ提案したいことがあるのですが」
「ん? なに?」
「精霊石というのはご存知でしょうか?」
「精霊石? 精霊ってあの精霊?」
人間が精霊に魔力を支払うことで魔法を発動させることができるあの精霊?
「はい。精霊石というのは精霊が長い年月をかけて作り上げた結晶の事を指して、その結晶には高純度の魔力を有しています」
「へぇ~そんなもんがあるんだな………」
流石はファンタジー。
「その精霊石をジャンヌさんの新しい盾の素材にしては貰えないでしょうか?」
「え? いいのか? なんか凄いものなんだろ?」
「はい。素材に使えば以前よりも強力な盾になるはずです。精霊石の存在自体もエルフしか知りません。エルフ以外で精霊石の存在を知っているのは貴方だけです」
「どうして俺に………?」
「貴方達お二人なら精霊石を悪用しないと信用できるからです。それにジャンヌさんは私達エルフの為に頑張ってくださっています。なら私は少しでもジャンヌさんの力になりたいのです」
「そっか………」
エルフが安心して暮らせる未来を作る。ジャンヌは確かにそう言った。そしてそれを実現する為に努力することも知っているし、俺はそのジャンヌの力になる。
「なら遠慮なくその精霊石を使わせて貰うな」
「はい」
こうして俺はセシリアの提案を受け入れた。

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