転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第六十一話 復讐エルフ

「相変わらず無茶苦茶ね………」
一歩間違えれば死んでいたかもしれない。そんな命知らずの一撃を繰り出して倒した彼を見て私――ジャンヌは呆れてものが言えなかった。
「けど、それでしか銀の飛竜シルバー・ワイバーンは倒せれないかもしれないわね」
「ギシャァァアアアアア!!」
滑空と共に顎を大きく開けてその鋭い牙で私に噛みついてくるも私は盾で防いで剣を振るが、それよりも速く銀の飛竜シルバー・ワイバーンは再び剣の届かない空に舞い上がる。
先程から銀の飛竜シルバー・ワイバーンは攻撃をしたら引いての繰り返し。物理・魔法どちらにも高い防御力を誇る銀の飛竜シルバー・ワイバーン。それでもその防御力に驕ることなく、確実に私を倒そうとしてくる。
銀の飛竜シルバー・ワイバーン灼熱竜ヴォルケーノドラゴンより厄介なのは、その警戒心の高さ。灼熱竜ヴォルケーノドラゴンのようには行かない。
そもそも灼熱竜ヴォルケーノドラゴンを倒したのはトムであって私じゃない。だから灼熱竜ヴォルケーノドラゴンより厄介な銀の飛竜シルバー・ワイバーンを倒す術など私にはない。
――と、以前の私ならそう思っていたかもしれない。
「私だって強くなったんだから!」
グリードに敗れて私は一から自分を鍛え直した。トムには内緒でお兄様と一緒に剣の修行に明け暮れていた。
トムは妙な勘違いをしているかもしれないけど、お兄様は強い。それこそ私が勝てたのは奇跡と言ってもいいぐらいに。
生まれ持った才能、剣と魔法に恵まれたスキル、なにより才能に驕らない死に物狂いの努力を積み重ねているのを私は誰よりも知っているから。
そんなお兄様と一緒に鍛え直しているとお兄様は私にこう言った。
『ジャンヌ。貴様には素質はない。なにより貴様には民の為に冷酷になり切れない甘さがある』
きつい物言い。けれど、その言葉は確かに的を得ていた。
『あの男がいい例だ。普段は飄々としているが、あれには目的の為なら迷いを捨て切れる信念と覚悟がある。甘さを捨て去り、容赦も情けもなく剣を振るうだろう』
『…………はい』
確かに。私はトムのそういう一面をこれまで何度も見てきた。
きっとトムはグリードと会えば何の迷いもなくグリードを斬る。他の誰でもない私の為に。
『騎士が戦うのはモンスターだけではない。時には人と戦うこともある。そうなった時、貴様の甘さが貴様自身を殺すこともある。それを忘れるな、ジャンヌ』
『はい』
『だが、その甘さこそが貴様の強さかもしれんな』
『え? お兄様、今なんと?』
『さっさと剣を構えろ。まだ訓練の途中だ』
『はい!』
少し前まではあれほど怖かったお兄様とこうして剣を交える日が来るとは夢にも思わなかった。これも全て私の為に剣を打ってくれたトムのおかげ。そして私を鍛えてくれたお兄様のおかげで私は再び自信を取り戻すことができた。
「行くわよ。《セア》」
私の声に《セア》は炎を噴き出す。噴き出す炎を剣に纏わせて銀の飛竜シルバー・ワイバーンが向かって来るのを待ち構える。
私はお兄様のように剣も魔法の才能もない。
トムのように多彩な魔剣もなければ強力なスキルもジエン流なんていう剣技も収めていない。
だけど私にはトムが打ってくれた最高の剣がある。鎧がある。
才能のない私を鍛えてくれるお兄様がいる。
それだけで十分。
「ギシャァァアアアアアッッ!!」
再び私に向かって空から強襲してくる銀の飛竜シルバー・ワイバーン。私の相棒の炎など効かないか、自分なら耐えられる余裕なのか、正面から向かって来る。
「舐められてものね…………」
銀の飛竜シルバー・ワイバーンは高い防御力を持っている。だけど、高いだけで決して効かないわけではない。それなら銀の飛竜シルバー・ワイバーンの防御力を超えるだけの高火力の攻撃を与えればいいだけの話。
女神アフロディーテー様でさえ認めてくださったこの剣に倒せない敵はいないわ。
「!?」
剣から発する強烈な聖火に銀の飛竜シルバー・ワイバーンはようやく危機感を抱いたのか、翼を羽ばたかせて勢いを殺して背を向けた。
逃げようとする銀の飛竜シルバー・ワイバーンに私は剣を振る。
聖焔の煌火セイクリッド・ティリア!!」
剣から放たれた聖なる炎は逃げようとする銀の飛竜シルバー・ワイバーンを呑み込み、銀の飛竜シルバー・ワイバーンは聖なる炎によって焼き尽くされる。
「あ、銀の飛竜シルバー・ワイバーンの素材…………」
トムが欲しがっていた銀の飛竜シルバー・ワイバーンの牙や鱗といった素材までも一つ残らず燃やしてしまった。けど、まぁ、別にいいわよね? 仕方がないことだし。
どうせまたベッドの上で散々私をいじめるのだからそれでチャラよ。
「さて、私も行かなきゃ」
銀の飛竜シルバー・ワイバーンを倒したのはいいけど、まだ戦いは続いている。モンスターを操っているあの男性を捕まえないと。
トムと一緒に戦おうとそう思ったその時、激戦が繰り広げられていた。
「チッ! バケモンかよ!」
悪態を吐くトム。その視線の先にいるのは美麗の男性ではなく、トムの言っている通りの化物がそこにいた。エルフのように眉目秀麗な顔立ちは既になく、白い肌は黒く染まり、瞳も血走ったように赤い。細身だったその身体は巨躯に成り代わり、額には一本の角が生えている。
何が起きたのか、私は変わり果てた相手を見てトムに駆け寄る。
「トム!」
「おう、ジャンヌ。お前も無事に銀の飛竜シルバー・ワイバーンを倒したみたいだな」
何時ものような調子のいい口調だけど、その表情は真剣で身体も傷が多い。明らかに苦戦しているのはみてわかる。
「何が起きたの?」
簡潔に何が起きたのかトムに尋ねる。
「黒い水晶みたいなのを食べたと思ったらああなった。気をつけろよ? 身体は固い上に素早い。おまけにあいつ、元はエルフみたいだ」
「エルフ……………?」
トムの言葉に私は訝しむ。
エルフの特徴と言えばその長い耳。けれど、彼にはそれがない。
「あいつの耳をよく見てみろ」
訝しむ私にトムはそう言って催促し、私は彼の耳をよく見て気付いた。髪で隠れていたら気づきにくかったけど、彼には耳そのものがなかった。
「誰かに切り落とされたんだろうな。そんで目的は復讐ってところか」
「そうだ。この耳は貴様等人間の手によって切り落とされた。娯楽の一環としてな」
トムの言葉に化物と成り代わった彼が憎悪に満ちた声でそう言う。
「貴様等人間は我々エルフを金になるからという下らない理由で奴隷にする。私もかつては人間の奴隷だった。家族を人質に取られ、奴隷に落ちた身だ…………ッ!」
その言葉に私は以前のセシリアさんのことを思い出した。
初めてセシリアさんに会った時も彼と同じことを言っていた。
「貴様等人間はどこまで強欲で狡猾な種族なのだ! どこまで我々を追い詰めれば気が済む!? 後何人同胞を奴隷にするつもりでいる!? 貴様等人間のせいで我々エルフは、私の家族は…………ッ!」
切実な彼の言葉に私は手に力が入らなかった。
全ての原因は私達人間にある。報復の為にこの都市を襲撃する彼の言い分は至極当然のもの。
復讐する彼には大義名分がある。
けど。
「………………確かにそういう人間がいることは否定しないわ。でも、だからといって関係のない人まで巻き込む貴方の所業を見過ごせない」
剣を彼に向けて私は言う。
「貴方にどのような理由があっても私は守るべき者を守る為に騎士を目指しているの。だからこれ以上貴方の勝手にはさせないわ」
酷く自分勝手な理由だと私自身もそう思う。それでも、都市内にはまだ避難できていない人達が沢山いる。そんな人達を守る為にも私はここで彼を倒さないといけない。
そんな私の肩にトムは手を置いた。
「流石は騎士様だ。なら、俺はその騎士様を守る騎士としてお前を守る。お前が皆を守り、俺がお前を守る。それで全てを守るぞ」
「ええ!」
私とトムはお互いに剣を構える。それに対して彼は憎悪に満ちた顔で私達を睨み付ける。
「………どこまで傲慢なのだ、貴様等人間は。なら私はこの都市に住む全ての人間に報いをくれてやる!!」
「行くぞ、ジャンヌ!」
「足を引っ張らないでよ! トム!」
この都市を守る為に私達は剣を振るう。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品