転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第六十話 乱戦

三千を超えるモンスターの大群に俺とジャンヌは初手から最大火力の一撃をモンスターの大群の中心に叩き込むと、モンスターの大群は警戒し勢いが消え、騎士達は啞然としている。
「それにしてもジャンヌが俺と同じことをするとはな」
「仕方がないでしょ? こう言ってはなんだけど、この中で一番の火力持ちは私か貴方だけでしょうし、乱戦になる前に数は減らしておいた方が死傷者の数も減る筈よ」
「ああ、確かにな」
確かにモンスターと騎士達の乱戦の中であんな攻撃を放ったら味方諸共灰にしてしまうな。
まぁ、俺の乱戦になる前に数は減らしておきたかったからそうしたけど。
「それじゃそろそろ」
「ええ、行くわよ!」
動き出す俺達に騎士達は一拍置いて正気を取り戻して号令をかける。
「ふ、二人に続けぇぇええええええええええええ!!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!』
号令と共に耳を塞ぎたくなるほどの雄叫びと共に動き出す。
動き出す騎士達よりも速く動いた俺達はモンスターに斬りかかる。
聖焔の灼斬セイクリッド・ラーク!」
《セア》から放たれる炎の刃が数体纏めてモンスターを両断する。そして鋭い爪で襲いかかってくるモンスターの攻撃を盾で受け流す様に防いでそのままカウンターの要領で斬り裂く。
更には剣から炎を纏わせて眼前にいるモンスターを焼き払うかのように剣を振るジャンヌ。
ジャンヌも着実に強くなっている。俺も負けていられないな。
ジャンヌの成長に喜んでいる俺にモンスターは襲いかかってくるも俺はそれを流れる水のように躱しながらモンスターを斬っていく。
「ジエン流 流水」
独特の足さばきで敵の動きを予測し、躱すと同時に敵を斬るジエン流の技。早速ジエン流が戦場で役立つ時が来た。
「ついでだ。新しい魔剣を試してやる」
以前に野盗から手に入れた腐蝕の魔剣を持って硬い甲殻を持つモンスターを一撃で叩き斬る。
腐蝕効果もあって斬ったモンスターは溶けていった。
防御無視で攻撃が出来る分はいいけど、素材を剥ぎ取れないのはマイナスだな。
そんなこんな思っている内に別の場所で活躍している者達がいた。
「ハッ!」
「ンッ!」
テイクとナンだ。
俺とナンが打ったフランベルジュでモンスターを攻撃しては魔力の盾を出現させては防御する。そこに剣の形状を変えて鞭のようにしならせて宙に飛んでいる鳥のモンスターを両断する。
そしてナンはテイクをフォローするように持ち前の戦斧とパワーでモンスターを圧倒する。
テイクの野郎。大分あの剣を使いこなしてるな。まぁ、そうしてくれないと打った甲斐がないってもんだ。ナンもナンで新しい戦斧を存分に試し斬りできることに喜んでいるな、あれは。
無表情でも目が凄いキラキラしているのがよくわかる。
ナンも俺と同じ武器凶ウェポンマニアだけはある。その気持ちよくわかるぞ。
二人の成長に感心している俺の背後から炎が横切った。
「トム! 死にたいの! しっかりしなさい!」
「了解!」
ジャンヌに怒られて目の前のモンスターに意識を集中させる。
それにしてもここまで多種多様のモンスターが都市を襲ってくるなんて流石に偶然ではないはず。なら、統率者、指揮官がいる筈だ。
先に頭を叩いた方が賢明だな。
俺は気の力を周囲に展開させて頭と思われるモノを探す。
師匠との修行の成果で以前よりも気の精度、範囲が広がったので多少の変化でもすぐに気付けるようになった。そのおかげもあってすぐに異様な気を気配を察知した。
「ジャンヌ! 来い!」
風の魔剣を握ってジャンヌに手を伸ばすと、ジャンヌは何も聞かずに俺の手を取った。
そして風の魔剣の力で俺達は宙を飛び、モンスターの頭上を通って頭と思われる場所まで風の魔剣の力で空を飛ぶ。
「グァァアアアアア!!」
鳥や翼があるモンスターが俺達の進行の邪魔しようと襲いかかってくるもジャンヌが炎で牽制する。俺達はモンスターの大群より更に後方。そこにいる人影を捉えた。
「見つけた」
フード付きのローブで身を隠す怪しい人影。ぶかぶかのローブのせいか男か女かもわからないが、あいつだけモンスターに襲われていないどころかその傍で二体のドラゴンを従えさせている。
銀色に輝く二頭のドラゴン。銀の飛竜シルバー・ワイバーン
以前師匠の課題で倒したワイバーンとは違って銀の飛竜シルバー・ワイバーンは下手をすれば灼熱竜ヴォルケーノドラゴンより厄介なドラゴンだ。
その銀色に輝く鱗は物理防御はもちろん、魔法に対する防御力も馬鹿みたいに高い。灼熱竜ヴォルケーノドラゴンのように巨体ではないが、その分素早い。
それが二頭も従えさせている。
俺達はそんな奴の前に降りると二頭の銀の飛竜シルバー・ワイバーンは警戒するかのように唸り声をあげる。
俺達は剣を構えて一触即発状態になるもそいつは不意にフードを取り外すして素顔を見せる。
美少女と一瞬思ったけどよく見れば顔立ちは整っている男だ。しかし、その男の瞳は憎悪に満ちている。
「………………まさか、これほどの数のモンスターを飛んでくるとは予想外もいいことだ」
忌々しそうに吐き捨てる男にジャンヌは問いかける。
「貴方は何者? 七つの欲セブンズ・ディザイアなの?」
「ふん、欲に塗れた人間に答える義理はない」
どうやら相当人間を憎んでいるご様子だ。それならこの男の目的は人間に対する復讐なのか?
「予定は狂ったがまぁいい。まずは貴様等から報いを受けさせてくれる」
男が懐から黒い宝玉を取り出すと、横に控えていた二頭の銀の飛竜シルバー・ワイバーンが動き出した。
「「ギシャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」」
咆哮を上げてそれぞれ一頭ずつが俺とジャンヌに向かって襲いかかってくる。
「おっと!」
「舐めないで!」
俺は躱し、ジャンヌは盾で銀の飛竜シルバー・ワイバーンの爪を防ぐ。けれど、流石は銀の飛竜シルバー・ワイバーン。動きが想像以上に速い。
「なぁ、ジャンヌ。ちょうどよくないか?」
「何がよ?」
灼熱竜ヴォルケーノドラゴンに挑戦してどこまで成長したのか確かめる予定だったけど、こいつらでそれを確かめてみないか?」
「……………………貴方は単に銀の飛竜シルバー・ワイバーンの素材が欲しいだけでしょ?」
見抜かれていましたか………。
半眼でこちらを見てくるジャンヌに俺は言い訳をする。
「だって銀の飛竜シルバー・ワイバーンの素材って滅多に手に入らないレアアイテムなんだぞ? 手に入れたいと思うのは鍛冶師として当然だろうが」
「はいはい。言い訳はいいわよ。それにどのみち倒さないといけないのだからそのついでに素材を手に入れてあげるわ」
「ありがとうございます」
ジャンヌに感謝しつつ俺はこちらを見下すように見てくる銀の飛竜シルバー・ワイバーンに向けて刀を構える。
灼熱竜ヴォルケーノドラゴンの時は無我夢中だった。途中から意識も飛んでいたし、ジャンヌから話を聞いて俺が倒したということはわかったけど、自覚はなかった。
けれどあれから俺は成長した。その成果をここで見せてやる。
スキル『剣心一体』を発動させて全ての感覚を研ぎ澄まさせる。
「ギシャァァアアアアアアアアッ!」
空から滑空するように襲いかかってくる銀の飛竜シルバー・ワイバーン。頭上から爪を振りかざして舞い降りる銀の飛竜シルバー・ワイバーンはその脚の爪で俺を斬り裂こうと迫る。
「ジエン流………」
鋭い爪が俺に当たる寸前。俺は師匠の言葉を思い出す。
『いいか? 人だろうがモンスターだろうが攻撃が当たる瞬間が一番油断する。その時一瞬だけ防御を疎かにしちまう。ジエン流にはその一瞬を狙う技がある』
「刹那」
銀の飛竜シルバー・ワイバーンの爪が俺に触れるより一瞬早く、刀が銀の飛竜シルバー・ワイバーンの心臓を貫く。
ジエン流 刹那。その名の通り一瞬で勝敗を決する一撃必殺ならぬ一貫必殺の技。防御を疎かにするその一瞬に全ての力をその一突きに込めて敵を貫くジエン流の剣技。
その一突きによって心臓を貫かれた銀の飛竜シルバー・ワイバーンはそのまま地に倒れる。
上手くいってよかった。この技はというかこの技もだけど今の俺ではどれもスキルを発動させないと巧く使いこなせない技だからな。
それを素で当たり前のように使う師匠はやっぱり人間じゃねえわ………。
さて、ジャンヌはまだ戦っているようだし、俺は男の方を仕留めるとしますか。
刀についた血を払い、俺は男の方に歩む。

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