転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第五十二話 シジマ・ジエン

七つの欲セブンズ・ディザイアを倒して聖女様を打ち直して街に戻った。そして他の神官や教会、国に司教の件と七つの欲セブンズ・ディザイアの事について報告して、いつも通り聖女様の護衛の任務を続行した。
原因である水源を元に戻したおかげでこれ以上病人が増える心配もない。その上どういうわけか聖女様の奇跡の力がパワーアップ。一回の奇跡で数人の病人を治した。
これには多分、ジャンヌの剣の影響かもしれないが…………まぁ、そのおかげもあって一週間足らずで他の神官だけで治せられるほど数が減り、俺達は一晩休んだ後に俺達が住む街に帰還した。
最後に分かれる際にエレナ先輩は「司教の件は任せて欲しい」と言われ、頼んだ。恐らくは聖女様を守れなかった責任を感じてこれぐらいはしなければと思っての行動かもしれない。
まぁ、俺やジャンヌではどうこうすることもできないからエレナ先輩頼りになってしまうが……。
そして聖女様も教会に戻ることになったのだが。
「暇が出来たら会いに行きます」
そう言われた。まぁ、聖女様、美少女に惚れられるのはむしろ歓迎したいところだけど、マイハニーの視線が怖いからなんとも言えない。
いずれズバッて斬られそう……………。
そんなこんなもあって俺は今、家の中庭でジャンヌの剣を見ている。
「やっぱ、よくわからねえな……………」
ジャンヌの剣《セア》を見てみるけどそれが正直な感想だ。
俺もジャンヌのように剣から炎は出せるけどジャンヌほど高火力は出せないし、炎を纏うこともできない。製作者は俺だけど使い手はジャンヌだから多少力は貸してくれている程度なのかな?
俺とジャンヌ以外の人が持っても剣から炎すらも出てこない以上はそうかもしれない。
「もしかしなくても魔剣以上の剣かもな……………」
流石はアグロディーテー様が神剣と言うだけはある。
ジャンヌの成長と共にこの剣も強くなっている。今更ながら俺はとんでもない剣を打ったもんだな。
先祖返りで得たスキルの力とオールグスト様から頂いた石の力に苦笑いを浮かべる。
現段階でもやっぱりこの剣を上回る剣は打てない。
けど、いずれは打ってみせる。
鍛冶師として新たな高みを目指して俺は剣を鞘に納める。
「さて、と。これからどうするか……………」
以前の七つの欲セブンズ・ディザイアとの戦いで俺は更に強くなれることを実感することが出来たのはいい。けれど、我流では限界がある。
ジャンヌは元からこの世界の剣術を学んでいるからそれなりの技量はある。けれど俺には元の世界で少し剣に齧っているだけでこの世界の剣術は何一つ知らない。
ここまで勝ち続けて来られたのも全てはオールグスト様から頂いたスキルのおかげだ。
今以上に強くなる為には……………。
「師匠か…………」
中庭で寝転びながらそうぼやく。
今の俺に必要なのは俺を導いてくれる師匠的存在だ。けれど、そんなおいそれと見つかるようなものじゃない。
けれどいずれグリードと戦うのならこの世界の剣術は必要だ。それも実戦向きの。
「どこかにいないものかね………」
「そんな悩めるご主人様にとっておきの情報がありますよ?」
「リリス」
いつの間にか俺の傍にリリスが立っていた。相も変わらず神出鬼没だな。まぁいいけど。
「それで? とっておきの情報って?」
「はい。ですが情報の対価として私のお願いを聞いては頂けませんか?」
「なに? 俺にできることならいいぞ」
「簡単な事です。今度私とベッドの上で甘い一時を過ごして欲しいだけです」
「なかなか大変魅力的なお願いですな………」
むしろそれは俺からお願いすることではないだろうか?
「毎日のようにジャンヌ様と蜜月な夜を過ごされて私達だけ何もされないのも酷な日々なんですよ? それにそろそろ私もご主人様と一夜を共に過ごしたいものです」
色っぽい仕草でこちらを誘惑してくるリリスさんは変わらずエロい。そしてそんなリリスさんと甘い一夜を俺も過ごしてみたい。
勿論セシリアやシュティアとも……………だけど、そう考える度に俺の頭に剣を突き刺してくるジャンヌ様が出てくる。
自分でも思っていた以上に一途な性分だったのか、それとも浮気がバレた後の折檻が怖い夫の心境なのかはわからないが、恐らくは後者だと思う。
ジャンヌ以外の女性とそういうことに妙な抵抗ができてしまった。童貞の頃が妙に羨ましく思える日々が最近ある。
だから俺は悩みに悩んだ末に。
「……………………エッチなことは抜きでお願いします」
涙ながらリリスに譲歩を求める。
本当はリリスともエッチしたいけど、ジャンヌが怖い俺はそれで何とかしてもらうしかなかった。
リリスはそんな俺を見て可笑しそうに頬に手を当てる。
「ふふふ。ええ、もちろんそれで構いませんよ? そして何時かはジャンヌ様より私に夢中にさせるのも面白いものですから」
笑っているも目は笑っていなかった。
リリスなら本当にそういうことがありそうで俺も少し怖い。けど、それもまた良しと思う俺も大分毒されていると思う。
「それではとっておきの情報をお教えします。実はここより北の街はずれに一人の剣豪が住んでいます」
「へえ。強いのか?」
「恐らくは。軽く調べましたがどうやらかなり変わり者の人らしく、名前をシジマ・ジエン。今は衰退したジエン流の師範を務めていた人のようです」
「衰退した?」
「どうやらジエン流は実戦向きということもあり、使う技も魔法や魔力に寄るものだけではなく特殊な剣術。かなり癖のある流派らしく、年月と共に使い手が減っていったせいだと思います」
「なるほど………」
「今の時代ですと剣術はどこでも学べます。その影響も大きいのでしょうがどうしますか?」
「そうだな。取りあえずダメもとで行ってみる」
師匠が欲しいのは本当だし。実戦向きなら是非とも覚えておきたい。
俺はジャンヌの剣をリリスに預けて取りあえずそのシジマという人の元へ向かう。



暫く歩いて俺は北の街はずれにある小さな小屋があった。
「ここだよな……………?」
目的の人物であるシジマ・ジエンがいる場所に訪れた俺は小屋の扉をノックする。
けれど、何の反応も返ってこなかった。
「留守か……?」
いないのかと思って日を改めようと思ったその時。
「おい小僧。ここに何の用だ?」
俺の後ろから声をかけてきたのは酒瓶を片手に持つ酔っ払いだった。
「……………貴方がシジマ・ジエンさんですか?」
「ああそうだ」
もしかしてと思って尋ねてみるとこの酔っ払いが俺の目的の人物であるジエン流の師範代シジマ・ジエンその人だった。
「実は俺にジエン流を教えて―――」
そこまで言うと酒瓶を投げられた。キャッチしたけど。
「帰れ小僧。てめえにジエン流を教える気はねぇ」
完全な拒絶。それでもそれだけで諦めるわけにはいかない。
「そこをどうにかなりませんか? 俺は強くならないといけない」
「てめえの都合など知ったことか。帰れ帰れ」
シッシッと虫でも追い払うように手を振る。リリスから変わり者とは聞いていたけど本当みたいだな。
しかしこれ以上気を損ねるわけにはいかない。今日は帰るとしよう。
「わかりました。今日は帰ります。後日またここに訪れますので」
「二度と来るな、小僧」
そう告げて乱暴に扉を閉めて小屋の中に入る。
これは説得に骨が折れそうだ……………。

「転生鍛冶師は剣を打つ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く