転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第五十話 私の相棒

私―――ジャンヌはトムの進言もあって水源の調査をする為にこの場所に訪れた。そこにはトムが言っていた通りに水源は毒によって犯され、見ただけで人体に害があるのがわかった。
私はその水源に女神アグロディーテー様から授かった新たなスキル『浄化』の力を持って打ち消した。けれど、私達の前に七つの欲セブンズ・ディザイアが現れた。
二人組の男女。私とトムは互いに一人ずつ相手にしてつい先ほどトムはその一人を倒した。
けど―――
「そらよっ!」
「くっ!」
私はベネーノと呼ばれていた彼女相手に苦戦を強いられている。
「そんなものかい? 騎士様」
余裕の笑みを見せながら挑発をしてくる彼女に私は迂闊には責められない。
「そんなにこれが怖いのかい? 臆病だけどそれは正解さ。この毒の魔剣は掠り傷一つでも致命傷だからね」
そう、彼女の言う通り、あれは魔剣。それも毒の魔剣。
本来魔剣は魔法剣とは違って数も少なくなにより持ち主を選ぶことで有名だけど、その魔剣使いと相対する日が来るなんて……………。
私には『状態異常耐性』と『浄化』の二つのスキルがあるから分が悪いということがないけど、魔剣の怖さは良く知っているから用心しないと……………。
それに魔剣も厄介だけど、それ以上に彼女の体術。どこかの部族の体術なのかはわからないけど、彼女の独特的な体術は動きが読みにくい。
たぶん、ううんきっと、彼女は私より強い。私より多くの実戦を繰り返して勝ち続けた彼女は紛れもない強者。だから私はここで彼女と出会えたことに感謝している。
「すぅーはぁー……………行くわよ」
呼吸を整えて盾を構えたまま魔力操作で脚力を上げてそのまま盾攻撃シールドアタック。けれど、彼女は横に跳ぶことで攻撃を躱して毒の魔剣を振るう。
「バージョン2!」
「!?」
盾の機能で結界を展開させて防ぎ、驚いている彼女に剣を振る。それでも彼女は剣を躱すと同時に私のお腹に蹴りを入れる。けど………。
「なっ!?」
「………捕まえたわ」
私は盾を捨てて彼女の足を掴んだ。
「あああああああああああああああああああああっっ!!」
「―――――ッ!!」
そのままスキル『剛力』を発動させて彼女を地面に叩きつける。
「か、は………ッ! ハハ、やるじゃないかい………」
地面に叩きつけながらも彼女は剛毅な笑みを見せて立ち上がる。
「まさかあたしの蹴りを受けて反撃までしてくるとは……………中々肝が据わっているね」
「その程度の攻撃で怯むほど柔な鍛え方はしていないわ」
私は弱い。だからグリードに負けてあんなにも惨めな思いをした。
自分の弱さが悔しくて、恥ずかしくて、こんなにも弱い自分自身に殺意さえ覚えた。
これが私の目指している騎士の姿? 違う。こんなんじゃない。
私は守られるだけの女の子にも、大切な人に助けられるだけの騎士になんかなりたくない。
私はトムの隣に並べるだけの騎士にならないといけない。そして超えないといけない。
例え強力なスキルがなくても、魔法が一つしか使えなくても、私はもう立ち止まることはしない。
彼が打ってくれたこの剣で私はどこまでも強くなってみせる。
「ならこの魔剣の本当の使い方を見せてあげるよ………」
彼女は毒の魔剣を構えると、魔剣から霧状の毒が溢れ出して私を逃がさないように取り囲む。
更に彼女は魔剣で自らの腕を切った。
すると彼女の身体に異常なまでの変化が訪れた。
ミシミシ、と音を鳴らしながら異常なまでに発達する彼女の筋肉。
「毒と薬は表裏一体。使い方次第で自らの肉体を強化することもできるのさ。そして、周囲に張って毒の結界は溶解毒。触れただけでその身を溶かす強力な毒さね」
毒の結界で逃げ場を無くし、自らを毒で強化させる。毒の扱いに長けた彼女だからこそできる芸当。
「ジャンヌ。手を貸そうか?」
「いらないわ。そこで大人しく見てなさい」
「へいへい」
彼の助力を断り、私は剣に意識を集中させる。
「さぁ、強化したあたしの攻撃をどこまで耐えられるかね!」
向かってくる彼女を無視して私は剣に語りかける。
そういえばまだ貴方に名前をつけてはいなかったわね。今までずっと一緒に戦ってきたというのにごめんなさい。そして図々しいお願いなのはわかっているけど、聞いてちょうだい。
これからも貴方の力を私の貸して。これからもその先もずっと。
人々を守り、大切な人を守れる剣としてこの名を貴方に授けるわ。
「《セア》。それが私から貴方に与える名前よ」
昔に聖騎士と呼ばれた人の名前から取ったものだけど、この名前が一番しっくりくるわ。
だからね、セア。私は貴方を信じる。だから貴方も私を信じて欲しいの。
これからも共に戦う私の相棒として。
すると、私の気持ちが通じたかのように剣が輝き出す。
「な、なんだい!? その剣の輝きは!?」
驚愕に染まる彼女。けれど、その輝きは増すばかり。すると、私はその剣に導かれるかのようにスキルを口にする。
「『浄化』」
自身に浄化のスキルを発動させると、剣から発する聖なる炎が私の方に伸びていき腕、胸、お腹、足の全身に炎が広がっていく。
不思議なことに熱くはない。むしろ気持ちがいいほどに快適。
そして炎は鎧へと姿を変える。
全身に炎を纏っているかのような鎧は重さを感じないぐらいに軽く、動きやすい。それに身体の奥から力が漲ってくる気がする。
剣をその場で一振り。それだけで毒の霧は一瞬で霧散した。
「なっ!? 毒の霧が!?」
「悪いけど、終わらせて貰うわ」
「吠えるな! 小娘が!」
彼女の魔剣と私の剣。互いの得物が交差する瞬間は一瞬。そして勝敗がその一瞬でついた。
「あたし、が……こんな、小娘に…………」
魔剣を手放し、地に伏せる彼女。私は鎧を解除させて剣を鞘に納めると彼女に小さく頭を下げる。
「貴女のおかげで前に進むことが出来たわ。ありがとう」
そう、これはまだ一歩に過ぎない。今よりももっと強くなる為の一歩を踏み始めたばかり。
私はもっと強くなってみせる。
「ジャンヌ!」
改めて決意を固める私に彼は駆け寄って来てくれた。
「お前なんだよ、さっきの鎧は!? どういう原理でああなった!?」
「そ、そんなこと言われても……………」
「ええいちょっと剣を貸せ! 服を脱げ! 調べさせろ! ついでに身体を触らせろ!」
「ちょ!? や、やめ、やめてってば…………脱がさないでよ、この変態!!」
「ぐほ!?」
半狂乱しながら本当に服を脱がそうとしてくる変態を殴って止めた私は決して悪くはない。
「任務が終わって家に帰ったら剣を見せてあげるから今は先輩のところに戻るわよ!」
「お~イテテ。へいへい。家に帰ったら剣も身体もじっくりねっとりと見させて貰うとしますか」
「うぐっ。へ、変なことしたら許さないんだから」
そう言うもきっと私は彼のするがままにされると思う。い、家に帰ったら一番にシャワーを浴びておかないと……………。
二人の遺体を端に寄せて魔剣は彼が回収。私達は急いで先輩と聖女様がいる街まで下山する道中で私達は見てしまった。
「すまない……………」
そこには何人もの野盗の遺体。その中心に傷だらけになり、膝をついて謝罪の言葉を口にする先輩が抱えているのは見覚えのある折れた一本の剣。
「まさか……………」
彼も気付いた。そして私もきっと彼と同じことを考えている。
―――聖女様が死んだ。

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