転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第四十五話 予想通り

「エレナ先輩。一つお伺いしても?」
「何かな?」
「先輩はよくこの手の任務を受けるのですか?」
「少なくはない、とだけ答えておくよ」
「そうですか。ならそんなエレナ先輩に質問があるのですが」
「何かな?」
「門を出て一時間も経っていないのにこんなにも盗賊に囲まれた経験は?」
「残念ながら初めてだね」
「そうですか」
俺、ジャンヌ、エレナ先輩の三人は国から聖女様の護衛の任務をついて都市の門を通って早くも問題が発生した。
見渡す限りガラの悪い男達。如何にも職業盗賊の男性達に取り囲まれている。
胡散臭いとは思っていたけどまさかこんなにも速く問題が発生するとは……………。
「へへ、男はいらねえがどっちもいい女じゃねえか」
「たっぷり可愛がって飽きたら奴隷にしてやるよ」
うわ~わかりやすいゲス発言。それともアレか? 中学生でよく見る悪い俺ってかっこいい的なアレですか? どう見てもおっさんの盗賊の人達がその思考でどうするのよ?
あ、でも日本と違ってここは異世界だから文明、いや、世界観の違いかもしれないな。
もしくは女に飢えた結果モンスター同様の獣になり下がったのか? それなら働いて風俗、いや、この世界だと娼館か? どっちにしろそこで性欲を発散すればいいものをどうして盗賊に身を堕とすか俺にはわからん。
それはそれとして俺も盗賊に囲まれているのにこんなことを考えているなんて落ち着いてんな。普通はもっと慌てたり、身構えたりするもんなのに。
セシリアの時でもう慣れたのかな?
「まぁ、どっちでもいいか」
「あぁ? おいガキ。てめえ状況を理解して言って――――」
盗賊が何か言い切る前に俺は魔剣を地面に突き刺して地面から炎を噴射。それにより盗賊達は魔剣の炎に呑まれて一瞬で黒こげ&全滅。
「ふ、虚しい戦いだ…………」
「せめて最後まで言わせてあげなさいよ」
聖女様を守護していたジャンヌは同情と哀れみの眼差しを盗賊達に向けながら俺に言ってくる。
「凄いな、それが魔剣か…………」
エレナ先輩は俺が持っている魔剣をマジマジと見つめてくる。
「ええ、灼熱竜ヴォルケーノドラゴンから作り上げた魔剣です。使ってみますか?」
「いや止めておくよ。私には扱える気がしない」
懸命な判断だな。魔剣の恐ろしさを良く知っている。
「さて、一応は殺さない程度に加減はしましたけどどうしますか?」
「そうだね。普通ならこの場で首を斬り落とすのが妥当なのだけど」
盗賊って人権がないな……………。
「出来ればどうして私達を襲ったのか情報を聞き出したいのが本音だが、私は尋問の類は苦手で……………」
「ああ、それなら俺がしますよ」
「ささ、聖女様。馬車の仲へお戻りください」
「え、ええ……………」
ジャンヌが有無言わせずに聖女様を馬車の中に入れさせると俺は木の枝を折って近くにいる盗賊を蹴って起こす。
「どうして俺達を襲った?」
「へっ、誰が言うかよ!? バーカ!」
ほう、随分と強気なもんな。全身を火傷してもまだそんな態度を取れるとは感服するな。
「おいおい、そんなことを言ってもいいのか? このままだとお前等仲良く首チョンパだぞ?」
「どうせ殺すんだろうが! てめえ等の思い通りになると思うなよ!!」
ふむ、なるほど。確かにそう言われればそうだな。
「そうかそれなら仕方がないな……………ならお前に選択肢を与えてやる」
「はぁ?」
俺はさっき折った枝を持って言う。
「これを尻にぶち込まれるか、ぶち込まれてから話すか。どっちがいい?」
「どっちにしろぶち込む気満々じゃねえか!?」
そう興奮するなよ。あまり興奮していたらあとが辛いぞ?
「お前等だって散々女にご自慢の折れた果実ナイフをぶち込んできたんだろ? それが今回はされる側になるだけじゃないか。うんうん、やっぱり悪いことはできないよな」
「てめえそれでも騎士か!? 人か!? 盗賊の方がまだマシだぞ!?……………って誰が折れた果実ナイフだ!! それはてめえだけだ!!」
「…………さて、時間も押しているから早速始めるか」
「や、やめろ! てめえズボンを脱がそうとしてんじゃ、やめ、本当、やめてください! 話します! 話しますからどうか」
「そぉい!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
誰が折れた果実ナイフだこの野郎。俺のは立派な名刀だぞ。
「これが、悪魔の所業……………」
「いえ、あの馬鹿の所業です。本当お目を汚してごめんなさい」
一人目が気絶して二人目に入ろうとしたら盗賊達は大人しく降参して全て正直に話してくれるようになった。まったく初めからそうしたら掘られることもなかったのに。
「俺達は頼まれたんだ。この時間帯に通る馬車を襲えって」
「頼まれた? 誰から?」
「わからねえ。いや、本当だ! 顔を隠していたんだ! だから顔は知らねえ! でも前金だと言って大金を貰ったんだ! 成功したらもっと出してやるって言われて」
「私達を襲ったと?」
「あ、ああ……………」
どうやら嘘は言ってないようだな。
「それならこの馬車に誰が乗っているのかも知らなかったの?」
「女が乗っているぐらいしか。好きにしていいとも言われたし」
報酬も良くて女も好きにしていいと言われたから深くは考えずに襲ったってところか。金と女に飢えた盗賊はまさに使い勝手のいい駒ってところだな。
でもこれではっきりした。
「何者かが聖女様の命を狙っているのは間違いないな」
それで俺達は聖女様を殺す為に利用しても困らない存在ってところか。まったくついでで殺されるんてまっぴらごめんだ。
「聖女様。何か心当たりはありませんか?」
「………………………………」
尋ねるも黙り込む聖女様に俺は肩を竦めて言う。
「沈黙は是ですよ? この状況を黙り込んでいたら余計に悪化します。話せないと言うのなら任務はここまでで俺達はすぐに都市に帰らせて貰いますが?」
「トム!?」
「当然だ。そんなついでみたいで殺されたくもお前を死なせるつもりはない。任務かお前か。選ぶまでもない」
何においても俺はジャンヌの命を優先する。例えここで任務を放り投げて聖女様を見殺しにすることになっても俺はこの選択に後悔はしない。
「……………………恐らくはザイクル教会の仕業かと」
「ザイクル教会? 女神アグロディーテー様を信仰している教会のことか?」
「それはアグロディ教会。私達が前に行ったところよ。ザイクル教会は別の神様を信仰している教会のことよ」
呆れながら説明してくれるジャンヌ。もしかして教会って神様の数だけあるのか?
それなら俺を転生してくれたオールグスト様の教会もあるのかな?
「しかし何故ザイクル教会が聖女様を? 殺したところで何の得が?」
「聖女様の存在が自分達にとって邪魔だったのでしょう」
「どういうことなの? 聖女様が邪魔って」
「簡単な話、金だ。聖女様の名が世間に伝わるほど誰だって有名な聖女様を頼りに教会に訪れる。そしてお布施と称した金が手に入る。ここまではいいか?」
「え、ええ」
「まぁ………」
「そうなれば聖女様がいる教会は名声が上がって更に人を呼び、金が集まる。だけど聖女様がいない教会からしてみたらどうなる?」
「……………………お金が手に入らないし、信者も減ってしまうわね。信者が減れば最悪教会自体が潰れる恐れも」
「だからそうなる前に聖女様を殺そうと」
「俺の想像でしかないけど、そこんとこどうなんですか?」
確かめようと聖女様に確認を取ると聖女様は首を縦に振った。
「貴方様のご想像通りかと。正直に申し上げますと以前から私達アグロディ教会とザイクル教会とで仲が悪く、前にも街中で襲撃を受けたこともありました」
「決定だな」
それにしても本当に漫画みたいな展開になってきたな。
「さてどうするか……………」
正直面倒ごとは御免だけどここで聖女様を放置することはジャンヌはしないだろう。かといってただの学生が教会を攻め入ることをすれば退学では済まない。
いや本当にどうしたらいいのやら……………。
「ねぇ、とりあえずは目的地であるウルプス市に移動した方が良いと思うの。そこで一度対策を講じましょう」
「そうだね。ここではモンスターも出てくるし、後ろにいる盗賊達もまた何かしてくる……………恐れはないね」
「しません!! 絶対にしません!! 盗賊業から足を洗いますからどうか尻だけは!!」
尻を押さえながら地べた額を擦りつけて懇願する盗賊達。
うんうんこれで世界から盗賊が一つ減ったな。平和が一番だ。
「貴方は反省しなさい」
そこでジャンヌが俺の頭をチョップする。
何はともあれ、俺達は面倒事を抱えたままウルプス市に向かう。

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