転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第四十二話 女神アグロディーテー(伯耆十夢)

何もない真っ白な懐かしき空間。ここに訪れたのも二度目だ。
事故で命を落として神様に転生してもらう際にやってきたこの白い空間に俺はまたやってきた。
そして俺の目の前にいるのは俺を異世界に転生してくれた神様ではなく、この世界の信仰の対象として崇められている愛と奇跡の女神アグロディーテー様だ。
「………………………………俺、死んだ?」
ここにいるということは祈りを捧げている際に即死する何かがあったのか? 嘘だろ? だって俺はただジャンヌと一緒にこれからのことについて祈りを捧げに来ただけなのに……………。
ジャンヌと恋人同士になってまだまだやりたいこともしたいことも山のようにあるのに死んだのか………………?
もっとジャンヌとイチャイチャする予定だったのに、リリスともエッチなことがしたいのに、セシリアやシュティア達とももっと色々したかったのに死んじまったのか?
死んだ。そう思った俺に女神様は声をかけてくれた。
「死んでないわよ。ただ貴方達の精神をこっちに引っ張っただけだから。じきに意識は戻るし、時間もそのままだから安心して」
「死んでない……………?」
「ええ。オールグストが転生させた貴方が教会に来たから少し話でもしようと思ってね。貴方も貴方の恋人も死んでいないわ」
その言葉を聞いて安堵する。
ああよかった。また死んだと本気で思った。………………ん? オールグスト?
「あの、そのオールグストさんって?」
「貴方をこの世界に転生させた神の名前よ」
あの神様、そんな格好いい名前だったんだ。
「彼は人の魂を管理して転生させる仕事をしていて世界の均衡を保つために死んだ人間を転生させることができる権限も持っているの」
「転生者。つまり俺ですね?」
「そう。でもオールグストが説明したとは思うけど適応力がないといけないから転生できる人も限られているの。転生者自体珍しいから貴方が生きている内に別の転生者と会うことはないでしょうね」
そっか。それは残念だな………。仲良くなれば一緒に酒でも飲みながら日本のことについて語りたかったのに。
「オールグストが貴方のことについて話していたわ。変わった人間だって」
「えぇ~なんでですか?」
「普通転生者って言ったら特別な魔法やスキル、能力を要求するのに剣を打つ為の工房が欲しいって真っ先に言う転生者は貴方が初めてだからでしょうね」
ああ~まぁ、そう言われれば確かにそうだな………。
でも俺も強いスキルを貰っているからそう違わないと思うけどな……………。
「あ、スキルで思い出した。俺、貰った剣のスキル以外にも別のスキルがあったんですが? 『精魂鍛錬ソウル・ジィスト』というスキルなんですけど」
「『精魂鍛錬ソウル・ジィスト』?」
首を傾げて魔法陣のようなものを出すと何か納得したかのように頷いた。
「それは貴方が元々持っているスキルね。現代社会でも人は気付いていないだけで魔力もスキルも持っているのよ。ほら、何かに凄い才能を持っている人とかいるでしょ? それは才能じゃなくてスキルの影響を受けているからよ」
はぁ~なるほど。そう言われてみれば納得するな。しかし俺は生まれつきのスキルホルダーだったとは驚いたもんだ。
「でも貴方の場合このスキルは先祖返りで得たスキルね」
「先祖返り?」
「貴方、童子切安綱って刀のこと知ってる?」
「それは勿論。武器マニアですからね。童子切安綱、元々の銘は安綱。天下五剣の一本とされて製作時期は平安時代中頃から後期。その形、斬れ味共に美しいと称賛されるほどの太刀。そして酒吞童子という鬼を斬ったことから童子切安綱と呼ばれるようになり、今では国宝に指定されています」
「ならその製作者の名前は?」
「確か銘と同じ安綱でしたね。姓は確か大原だった筈です」
「正確には大原という地域に住んでいた安綱という刀工。本当の姓は”伯耆”」
「え……………? それって……………」
「そう、貴方はその安綱の子孫であり、先祖返りによって安綱のスキルを継承された唯一無二の存在。安綱はそのスキル『精魂鍛錬ソウル・ジィスト』の力で酒吞童子の首を斬り落とすほどの妖刀を打った刀工」
「………………………………」
「そのスキルは剣を打つ際に効果を発揮する。鎚を振る一振り一振りに自分の想い、願い、欲望といった己の魂を剣に込めて鍛錬することでその力を発揮する。貴方の恋人が持っている剣がそれね」
「ジャンヌの剣が……………」
確かにジャンヌの剣を打った時は一振り一振りに命を賭けたほどだからそれがスキルの力であそこまでの剣になったのか。それなら以前にリリスが話してくれた推測通りだったな。
今でもあの剣を超える剣なんて打ったことないし。
「それに貴方はその剣にオールグストが渡したものを使ったでしょう?」
「え、ええ。妙に発光している石を」
「それ、炉の女神であるヘスティアの聖火が込められた石よ? なんでオールグストがそれを貴方に渡したのかはわからないけどもう神剣の領域に入っているわよ? 貴方の恋人の剣は」
「マジで?」
「マジで」
俺、とんでもないものを材料にしてとんでもない剣を打っちゃった。
「えっと、それならあの牙みたいなのは?」
「北欧の悪神ロキが従えている神獣フェンリルの牙」
オールグスト様。なんでそんなぶっとんだものを俺にくれたのですか?
いや、それ以前に俺の御先祖様にあの刀工安綱がいたことにも驚いた。もしかして生まれつき武器が好きなのも血の影響だったのかも。
色々なことを一気に知って頭を混乱させる。すると女神様は俺に言う。
「何はともあれ、どう判断するかは貴方次第。オールグストもきっと何か考えがあって渡したと思うし。ああそうそう、せっかくだからこれは私からのプレゼント」
パチン、と指を鳴らすと俺の身体に何かが入り込んだ感覚が襲ってくる。
「スキル『愛の絆』。愛し合う気持ちが強ければ強い程に強くなれる。一柱の女神として二人のこれからに祝福があらんことを」
愛し合う気持ちが強ければ強くなる……………つまりラヴパワーってことですね、わかります。
女神様から新しいスキルを授かることができた俺に女神様は俺の鼻先に指を当てる。
「彼女は真剣に貴方を愛しているわ。だからもう泣かせたらダメよ?」
「はい!」
「よろしい。そろそろ向こうも終わるみたいだからここまでね。話ができてよかったわ」
そこで俺の意識はそこから離れて教会で意識を取り戻す。
なんか、俺の知らなかったことを一気に知れた。まさか俺が安綱の子孫で安綱が持っていたスキルを継承されていたとは……………。まぁでも俺のすることは変わらない。
これからも剣を打ってジャンヌと一緒に強くなるだけだ。
女神アグロディーテー様。頂いたスキルはありがたく使わせていただきます。
俺は隣にいるジャンヌを見ると頭から湯気が出てきそうなほど顔を真っ赤にしていた。
「ジャンヌ?」
「な、ななななななななななんでもないわよ!? ほら、早く学院に行って訓練よ!!」
明らかな動揺を見せながら俺の背中を押す。
いったい何があったんだ……………?

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