転生鍛冶師は剣を打つ

夜月空羽

第三十二話 休みの雨

試験まであと三日のところで雨が降っている。
結構な土砂降りでこのまま続けば試験は延期か中止かと思ったけどそのまま実行する。
試験に天候は関係ないらしい。
「暇だ……………」
部屋のベッドで寝そべりながら俺はぼやく。
今日は学院は休み。というよりも試験の三日前というより今日からは試験に向けての準備期間とされているため休校。しかし準備しようにもこの雨では外に出られない。
武器の手入れも終わらせて、ナンに習ってこの世界の鉱石や金属について調べてみたりとしていたけど全てやり遂げてしまった。
試験が終われば作ってみたい武器がいくつかあるけど流石に試験前は自重する。
「そういえばこの世界に来て初めて暇な時間ができたな…………」
この世界に転生して早々ジャンヌの裸を見てしまい殺されかけて、それからジャンヌと一緒に学院の入学試験を受けて合格してからは基本的に工房に籠っていた。
その間に色々あったけどこうして何もない時間を過ごすのはこの世界に来て初めてだ。
「皆はなにしてんのかな?」
そう思った俺は起き上がって部屋を出る。すると早速セシリア、エルフ達はいつもどおりに給仕の仕事をしている。いや、休みなよ………………………。
「お疲れ。たまにはゆっくり休めよ」
「心遣いありがとうございます。ですがそういうわけにはいきません」
真面目か………………。別にこんな時ぐらいはゆっくりしてもいいだろうに。
流石に仕事の邪魔をするのも気が引けるのでほどほどに、とだけ言ってその場を離れる。
居間の方に行くとリリスが通信の魔法道具で何か話していたが、俺の存在に気付いて通信を止める。
「いいのか?」
「はい。ちょうど話は終えたところでしたので」
多分仕事の話だったろうに。まぁリリス本人がいいと言うのならいいか………………。
「前に話した件についてか?」
「そうですね。ご主人様の考えた技術はどれも革新的なものばかりではありましたが実現は可能となりました。後はお父様達次第でしょう」
俺がエルフ達の救出の際にリリスに話したのは俺がいた世界の知識と技術。とは言っても冷蔵庫や掃除機といった家電製品について話しただけだがこの世界では革新的なものなのだろう。
「ご主人様はどうなされたので?」
「いや部屋にいても暇だったから…………」
「あらあらそうでしたか。それでしたら私と少しお話しませんか?」
「そうだな。こうしてリリスとゆっくり話すこともなかったし。でも何を話そうか………」
「それでしたら私、魔族のことについてお話しましょうか。ご主人様にとって魔族はどういう印象をお持ちですか?」
「どうって言われてもな………………俺、魔族はリリスしか知らないし」
「魔族と一言で表しても実は結構違いがあるのです。私のように見た目が人間に近い魔族もいればモンスターに近い魔族もいますが、共通する点は体内にある魔力量が他の種族よりも優れているという点です」
「具体的にはどれぐらい?」
「そうですね。最低でも人間の十倍以上でしょうか」
「十倍以上!?」
そんなにあるの!?
「ですから他の種族よりも魔力を使った魔法道具の開発が進んでいるのです。純粋な魔力に寄る戦闘なら魔族を超える種族はいないでしょうね。私のお父様、魔王様の魔力は一撃で山を消し去るほどの魔力を有しておりますから頑張ってくださいね」
「あれぇ? 俺、魔王と戦いのは決定事項なの?」
山を一撃で消し去る魔王様となんて戦いたくないぞ。
「それでしたら既成事実を作るというのも手ですが?」
自分の胸を撫でながら艶やかな仕草で誘惑してくるリリスに生唾を呑み込んでしまう。
うん、相変わらずエロいな。
「それは大変魅力的だが、流石にそういう理由でするのもなぁ………………」
「ふふ、そうですか。ですがそれとは別にしたいのなら仰ってくださいね? 皆様方には内緒にしておきますから」
妖艶な笑みと共に誘ってくるリリスに思わずドキリとした。
男心を刺激するのが相変わらず上手でいつかリリスの誘惑に本気で負けそう。
というよりもリリスといいセシリアといい、頼んだら童貞卒業できるんじゃ……………? いや、リリスは何か裏がありそうで怖いし、セシリアは自己犠牲みたいでなんとも言えない。
それともそう思うのは俺が童貞だからか? 女心はわからんものだ。
それから軽く雑談して俺はリリスの傍から離れる。
少し小腹も空いたし、軽くなんか食べるか……………………。
腹が減ってキッチンに向かうとシュティアが牛乳を飲んでいた。
「あ、トムくんも飲む?」
「一杯ちょうだい」
シュティアから牛乳を貰って飲むと俺はさっきリリスと話した種族に関するある疑問をシュティアに訊いてみる。
「シュティアって母乳出るの?」
「ブフッ!? ケホ! コホ! い、いきなりどうしてそんなことを聞くの?」
「いや牛人キャトルだからその立派な双丘から出るのかなって」
あれ? これってセクハラになるのかな? まぁいつものことだからいいか。
「……………で、出るには出るけど、それは種族としての体質だから仕方がないの…………」
「種族に関する問題は俺は気にしないし、ただ思った事を聞いただけだから気にしないで」
やっぱり異世界なだけあって色々な種族や種族によって人間とは違う体質もあるんだな。
「そういえばシュティアは普通にここの生活に馴染んでいるよな」
「……………ダメ、だったのかな?」
「いや、そのままでいてくれ。ただセシリア達が馴染めていないように見えるから」
本当は家族みたいに接したいけど、真面目なエルフ達はそれがなかなか出来ないからちょっと思うところがあるんだよな。その点に関してはシュティアはもう家族のように接してくれるから何の不満もない。
セシリア達について不満を漏らすとシュティアは苦笑する。
「エルフは生真面目な人が多いからね。それに私も奴隷として売られた以上は悲惨な生活を送るって思っていたから今の生活が夢を見ている気分なんだ。だから改めて私を買ってくれてありがとう」
「いいよ。シュティアを欲しいと思ったのは俺の都合だし」
その魔乳の魅力に当てられた愚かな男と笑ってくれ。
「…………トムくんは大きいのが好きなの? その、あの時も沢山揉んでいたし」
「大好きです」
あの時は本当にありがとうございました。おかげで大人の階段を少し上ることができました。
「だからね。触りたかったら触っていいからね? せっかく高いお金を出してまで買ってくれたのに何もしないで生活するのも嫌だから……………。で、でも、もし、我慢できずにその先がしたいのなら言って。奴隷になった時から覚悟はできてるし、トムくんなら喜んで相手をするから」
もじもじと恥ずかしそうにしながら大胆なことを言ってくるシュティアに俺は戦慄を覚える。
その魔乳を好きにしていい上にその先もいいと!? い、いや奴隷だからそういうことをしてもおかしくはないんだ。むしろそれがこの世界にとって当たり前のこと。
だからあの時もシュティアは自分の胸を俺の好きにさせたのか。
なら早速。
俺は手を伸ばしてシュティアのおっぱいに触れる。
「……………………………んっ」
触るからこそわかる女性の胸の柔らかさ、弾力性。それに持ち上げて見ると意外に重いことがわかる。ずしりと手にその重さが伝わってくる。これは男にはわからないものだ。
男にとっておっぱいは癒しでも女性にしたら重くて動くのに邪魔なものかもしれない。
だけど、男の俺にはこれは大変ありがたく嬉しいものだ。
いつまでもこうしていたい。むしろこの胸に顔を埋めてみたい。
そう思っているとシュティアは腕を伸ばして俺を抱き寄せ、自分の胸に俺の顔を招き入れる。
こ、これは以前にリリスにされた以上に………………………素晴らしい!
「トム、くん………………」
蕩けた眼で俺を見て、物欲しそうな声を出すシュティアの今の状態を例えるのなら発情した動物だろう。あの時もそうだった。もしかしたらエルフの耳が性感帯のように牛人キャトルも胸を揉まれることで発情してしまう体質というより本能があるかもしれない。
魔乳に顔を埋めながら生唾を飲み込む俺も本能のままにシュティアを抱きしめようとする。
その刹那。
背後から覚えのある凍えるような殺気に俺は恐る恐る振り返る。するとそこには屑を見る目で見てくるジャンヌ様の姿が。
「………………………………」
無言。ひたすら無言。それが逆に怖い。
「ま、待て、ジャンヌ。これはだな………………」
「休憩ついでに少し水を飲みに来てみれば………………貴方という人は……………ッ!」
「ひぃ!?」
怒りの形相を見せるジャンヌはどこからか前に渡した盾を取り出すとそれを持って近づいてくる。
「待て! 話せばわかる! これには事情が、そう深い事情があるんだ!」
「……………………へぇ? シュティアさんの胸に顔を埋めて抱きしめることにどんな深い事情がのかしらね」
「そ、それは……………………」
言葉を濁らす俺の前にジャンヌは盾を持ったまま振り上げる。
「この、変態!!」
「へぶばっ!?」
盾で思い切り殴られて俺は奇声を上げながら壁まで殴り飛ばされた。
さ、流石は俺とナンが作った盾なだけある見事な威力だ……………鈍器としても使えるな。ジャンヌ限定で。主な被害者は俺になりそうだけど。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品